箱舟のノア
あああああああああ
プロローグ
序
鳥は世界を監視する
眼光は鋭く、その羽ばたきは八百万を腐敗させる
箱舟は櫂を失い、明けない夜が大地を支配した
箱舟は暗闇を航海する
千年か、二千年か
もはやその身体に痛覚はなく
腐り落ちる体躯に気付くことはない
ただ破滅だけを残して、舟は闇海を進む
しかし夜明けは突如として訪れる
その剣戟は闇を切り裂き、人は光を目にした
荒廃した世界を光が照らす
大地は再び人類のものとなる
こうして世界は希望に包まれ___
____________その時、世界は胎動した
胎動する世界
大陸歴4年 トゥワイマン・アズール作
……………………………………………………!
………………………………ァ!
…………………………ア!!
「ノア!!!!!」
「………………うぇ? 」
「うぇ?じゃない! 今何時だと思ってる! 今日は! アンヘルさんに! 剣を習いに行く日じゃないか!! 」
「………………あっ」
「あああああああああああああ!!」
慌ててベッドから飛び起きると、隣には準備万端といった表情でこちらを見下ろす幼馴染のカインの姿がある。はっと壁に掛かった時計を見る。時刻は午前10時31分。約束の時間まであとたったの29分。村からアンヘルさんのいる外れの森までは全力で走ると………………だいたい30分くらい。
全身から冷汗が噴き出すのを感じる。アンヘルさんはよく俺たち二人に剣術の稽古をつけてくれる剣術の達人だ。気前が良くて豪快な性格は子供たちにも大人気。実際俺たちも小さいころから面倒を見てもらっていて、とても良くしてもらっている。が………
………稽古に遅れたときの罰の重さは計り知れない。
最近寝坊した時は100キロはあるであろう大岩を背負って山を登らされた。その前は素振り1000回終わるまで口もきいてもらえなかった。さらにその前は森の巨木を何十本も______
「って、何もう世界の終わりみたいな表情してるんだよ………」
__そんな走馬灯はカインの声によって遮られた。
「逆になんでそんな平然としてられるんだよ!? 俺たちは今人生の岐路に立たされてるんだぞ!? 」
待ってましたと言わんばかりにカインはニヤッと不敵な笑みを浮かべた。
「俺、絶対に遅れない方法知ってるぜ。」
………俺の経験上、こういうときはたいていろくでもない悪だくみをしている。
「………一応聞いておく。」
ろくなことにならないのは決まっているが、ここで乗らないと命が危ないのも確かだ。そらきたと言わんばかりにカインが顔を近づけてくる。
「裏道だよ。例の。森の岩場からちょっと左に進んだらあるってやつ。」
………やっぱりろくなことじゃなかった。
「あそこは通るなってアンヘルさんと村長のおっさんにきつく言われてるはずだろ」
「おいおい、この期に及んでいいつけを守る余裕なんてあるのかよ。それに俺たちだって13で剣を習いはじめてもう5年目になるんだ。狂暴化した獣がなんだってんだ? 」
「………………」
「腕試しだよ。腕試し。」
「………わかったよ。背に腹は変えられない。」
「よぅし! そうと決まれば早速準備だ準備!」
張り切るカインに言われるがまま、俺は足早に準備を進めた。
「いってきまーーっす!! 」
勢いよくバタンと扉を開け、雲一つない満点の空から降り注ぐ朝日を一身に受ける。
「ほら、もう時間ねーぞ! こっちだこっち!」
我先にと緑の生い茂る地面をかけてゆくカイン。気持ちいい春風を浴びながら必死に後を追いかけてゆく。
「ノアちゃーん! おはよう! 今日も元気いっぱいねぇ」
「八百屋のおばさん、おはよーう! ってかそのノアちゃんってのいい加減やめてくれよー! 俺だって今年でもう18なんだぞーー! 」
「ようカイン! お前が寝坊なんて似つかねえなぁ? 」
「るっせえよバゼル! お前それ分かってて言ってんだろ! 」
村全体がどっと笑いに包まれる。ここはエーテル村。戦争で両親を失った俺とカインが育った故郷の村。
この星にただ一つ残された大きな大陸の南端に位置するアルカゾン共和国、そのさらに南の端にぽつんと建つ、小さくて、でも温かい村。
これから始まる長い長い旅の、戦いの、スタート地点になる場所。
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