第200話 擦合


 濃い一日となった。入学式に始まり管理棟、魔導塔、移動階段。教員会議まで出席となった。まさか、ウオルク熱対策を命じられるとは。明日から部門生徒まで来て気が抜けない期間が続く。そうだ。屋敷に帰るにはどうするのだろう?


「帰り?魔法配達でコカルスを呼べと言われているわ。この時間になると部門生は帰宅している。パール家の馬車は屋敷に有るわよ。まずは話の通りコカルスを呼びましょう」


 帰りの相談は全くしていなかった。聞くとコカルスはリンネには話しているという。見本でもらった魔法配達紙。手短に書いてコカルスのいる8階に座標を指定する。形は黒の人造鳥となって、飛んでいった。すぐに返事が返ってきた。


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こちらも終了。今から3階に向かう。研究室入口で落ち合いたい。馬車は手配済。コカルス

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少し経ってからコカルスが8階から降りてきた。

「やあ、レッド君。リンネちゃん。どうだったかな。初日は大変だっただろう」

「もう、訳が分からないくらいです。新しいことが多すぎました」

「私は初日からハラハラさせられたわ。事前に教えてくれても良いのに。知ったのは入学式の間なのよ?」


部門生がいない研究室前の3階ホールは閑散としているた。椅子に座り馬車を待つ。ここからは出入りの門がよく見える。馬車が来たときにはすぐに分かるだろう。


「それだけ年配者は情報流出が心配だったわけだ。自分へは院生なので少し情報を貰っていたけど。余計な情報は混乱を招くから配慮されたのだろう。リンネちゃんも大変だな。一先ず、研究生入学おめでとう」

「ありがとうございます」

「さて、これからの帰りの段取りだが、魔法配達か、互いが直接、研究室に顔を出すということでよいかな。帰りでも、君らを2人きりとはさせられない。クリスティーヌ様、領主からの御言付だ。そのための自分であり、あいつらだからな」

「助かります」


「なに。感謝はこちらの方だ。ルンフを助けてもらっている。俺らは辺境伯から護衛の依頼を受けて、冒険者としての実績もつく。俺にも利があることだ。寄宿代も浮くし、クリスティーヌ様から評価まで頂いた。十分すぎるほど恩恵はあずかっているよ。院生仲間には妬まれているくらいだ」

「落ち着いたら、帰宅の時間でも決めますか?」

「互いのペースにもよるが、目安は今頃でよいだろう。夕食前には到着したい。あいつらには伝えておく」

「コカルスさんも大変でしたか?」


「ん?俺の方か? パラケル師と話し合った件を教員会議で報告した。今までの調査研究は要望があるので継続するが頻度を落とす。迷宮で回収した魔導具の解析と再現に題を変更した。発見と解析までの件は、フリード教授も非常に興奮していたよ。君の話題も出てきたかな。是非欲しい人材だったと悔やんでいた」

「ははは、教授は面白い方ですね。いつかは一緒に話したいところです」


「早かれ遅かれ、教授の感じだといつか招集されるだろう。君らと検討した今回の魔導具の設計図を会議で発表した。皆が唸っていたよ。屋敷に居るなら、継続してパラケル師の助言も請えとも言われた。俺もパラケル師が王都に滞在するまでは、得られるモノを習得し、それからは君からも助言を貰いたい」


「程々ですからね。自分も大きな仕事を振られてしまったし。そういえば、完成までどの位を見込んでいますか?」

「ん?完成か?1か月とみている。1週間もあれば外見はさておき、稼働はできるとみている。新規の物は細部を詰めるのが長いのだろう?師匠から魔銀やら回路作成の材料を豊富にもらったから感謝しきれない」

 院生仲間からは金回りが良くなったのも、運が良すぎだと言われたらしい。実際には金ではなく、物を貰ったわけだけど。


 しばらく情報交換を行いつつ、3階のホールから門を確認する。門に一台の馬車が入ってきたようだ。目を魔力で強化したリンネも覗いているようだ。

「あれね。ベルナル商会に行ったときに使用した馬車。少し扱いが荒いわ。前にウ座っているのはルンフね。あれ?後ろにもう一台馬車が来ているわね」


玄関ホールに行きルンフと合流する。

「やあ、やあ、研究生、院生の諸君。お待たせした。良いお身分で。パール邸まででよろしいでしょうか?」

「ルンフ。お前が馬車を動かすのか?今後も?」

「ベルさんから、『君たちは馬車の扱いをしっかりと習わなければならない』といわれてね。しばらくは、辺境伯の馬車はベーガ。男爵の馬車はルンフが担当することになった。ベーガはベルさんの指導で、子息らを乗せなければならないから、今から緊張しているよ。俺は帰りだけだからね」

「甘いな。お前もベルさんに習うと思うぞ。今は俺ら庶民の3人だから単独行動が許されているだけだ」

「マジか・・・うん。頑張ろう」

「そうしてくれ。俺は研究で忙しいからな」


「くっ。お前が一番得している気がするぞ」

「いや、そうでもない。俺はしばらく休校していたからな。あからさまに同僚の院生からの態度が厳しくなった。精神的にきつい。教授受けは良くなったが」

「研究室は閉鎖的な環境だからなぁ。ん?レッド君。お友達でもいたかな?」

ルンフは振り返らずに後ろの門をこっそりと指差す。貴族馬車らしき車が学院の中に入らず止まっていた。

「いや?王都には知り合いは親類以外は居ませんね」

「では貴族の関係者かもしれないかもしれない。面倒だから撒くか」


 コカルスさんにとっては勝手知る王都の道。御者はルンフさんに任せ、コカルスさんは道案内役で後ろから指示を出す。学院の別の門、南門から出るようだ。職人街区を通る道を使うという。

「貴族関連ならまず、職人街には来ない。今日はこちらの方がよいだろう。中心部で絡まれたら面倒だ」

 アクティアの森通りを中心に向かいしばらく進み、南に方向を変え、ナオゼン通りを横切る。中央を横切ず、少し南に迂回したルートのようだ。しばらくすると雑然とした街並みとなった。煙突の数が多い。周辺の空気も少し淀む。


「ここらは旧市街の職人街区だよ。道を拡張していないから少し狭いがな。貴族の立派な馬車なら通りづらいだろう。知り合いの職人も紹介したかったのだがなぁ。今日は無理そうだ。細かい依頼を出したいときなどは、出入りの商人だけでなく、ここの職人街区にも寄ることもあるだろう」

 ホーミィー村にいる、鍛冶屋のディオスさんと細工職人のクバナさんを思い出した。同じような職人がここの街に居るのか。いづれ巡り合うに違いない。魔銀ばかりが金属ではない。魔導具作りには必ずここには来そうだ。


「王都の南に職人街区が多くなる。入り組んでいるが、この馬車なら通れる。よし、後ろには馬車はいないな。撒いたとみていいだろう。そのまま西に進むと、ルビシェ、ヴァルデ通りを跨ぐ。貴族街区へは別の門、南門から入る。レッド君。しばらく帰りは辺境伯の馬車の方がよい。この馬車では格が低い。ルンフには悪いが」


 一回馬車の初回検問は済んでいる。南門とはいえ、周知はしっかりとなされていた。チャームを提示し、通過となる。ここまでくれば大丈夫だと、コカルスはいう。王宮の庭園を左手に見ながら、パール邸へとたどり着いた。

「これは、レッド様。おかえりなさい。そろそろ夕食となります。お急ぎを」



 夕食を兼ね学院の報告を皆に報告をする。跡を付けられた話は、学院長へ話すとクリスティーヌ様が預かってくれた。馬車の形から該当の馬車を調査するという。コカルスさんの言う通り、辺境伯家馬車での帰りとなりそうだ。



 夕食後には改めてパラケル師から呼び出された。


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作者注:同日公開、その2が有ります。長くなりましたから分割しました。

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