第13話 考察
しばらくポーション作業を眺めたのち、爺さんに断ってベルナル商店に戻る。両親はお客さんの流れが途切れていたようで雑談していた。
「パラケル爺さんに魔術教授のお願いをしました。お願いを聞き入れてくれたけど、時間を割いて習ってもいい?」
「盗賊らしきアジトがある以上、森に入ることも警戒が必要だ。城郭都市に行くときも冒険者を雇い、護衛を確保しておきたい。当面の間、子供が森に入ることも控えた方が良いから、魔術教授はちょうど良いのではないか」
「防衛のための方法もあった方がよいわ。剣術も習って欲しいけど、この村では無理ね。魔術ならパラケルが適任ね」
両親の同意により、午前中は店の仕事、午後は魔導具店での仕事となった。両方の掛け持ちとなるが仕方がない。魔術教授をしてもらい、少しの護身のすべを身に着けておきたい。レッド君の希望もかなえられたよい判断だと思う。
*****
自室に戻り、一人となり考察をする。レッド少年の出入りの範囲は、村内と商店街が主となる。今日の両親、妹、爺さんの感じだと、うまく溶け込んでいるとのレッド少年の波形が読み取れた。少しずつ会話も困難になりつつあり、今や意識の波形パターンで伝わってくる。もう少ししたら、意識に関しても主人格の自分に吸収されるかもしれないとの波形で伝わってくる。その時はボクをよろしく、と言葉として寂しく意識が流れる。
明日からは、爺さんの店で魔法の授業か。多分職場内訓練での伝達となるであろう。職場内訓練とはOn the Job Training、略して、OJTだ。仕事をしながら伝授される教育方法だ。教材がない環境で教えるには最適な方法となるだろう。爺さんの魔導具店のような小さい職場環境ならなおさらだ。。魔力に関わるところを察するに、今日のポーション作りが適していると思われる。魔力操作的なことからスタートしていくと予想する。
この場で爺さんから有難く薫陶を受けて、これからの生きる術を身に着けていきたい。【スキル】への適正があることを切に願う。
先ほど爺さんが作っていたポーション。飲んでも振りかけても良し。その効果は、外傷ならなんでも治してしまう。万能な治療薬のようだ。向こうではあり得ないものの一つだろう。毒消しだってそうだ。どんな毒でも解除って非常に優秀なアイテムだ。こちらでは魔素的なものが影響していることが多いらしい。
このポーションがあれば薬師は不要だ。ポーションが作れる魔術師がいれば、専門の薬を作る”薬師”は必要ないのではと思ってしまう。ポーションがあれば病気でも外傷でも直してしまうのだから。数万ある薬の種類など必要はない。そんな数万の薬・薬剤を扱う”薬剤師”はもっと不要だろう。ポーションは万能なのだから。一つあれば事足りる。こちらに降りてきた自分の職業は残念ながら【薬師】だ。散々やってきた職業に剤が抜けていることから、こちらには"剤"の概念はないと推測する。これからどうすればよいのだ?と自問してしまう。まずは扱いやすいポーションの作成と魔術の取得をして、これからを考えていきたい。
薬草の採取。城郭都市では、薬草を冒険者に取りに行かせ、冒険者ギルドが買い取っている。ギルドはそのまま魔術師へ卸しているそうだ。魔術師は、水で薬効成分を抽出して液体のぽーしょんとして販売している。レッド少年が持っている知識もそのようなものだと言っている。ある程度溜まった薬草は、そのままパラケル爺さんに卸していたのだ。パラケル爺さんはこれらの買い取り業務は面倒という考えで、ベルナル商店にすべて任せていた。爺さんによって加工された高級ポーションは、ほとんどがベルナル商店に卸され、城壁都市に流通する。実は爺さんの魔導具店は、うちの商店の経営にとっては良い取引相手なのだ。
ホーミー村での薬草は鎮守の森の付近で採れる。村の人間なら誰でも知っている情報だ。ベルナル商店でもそんな村民からの薬草の買い取りをしていた。浅い森から取れる薬草は、子供の小遣い稼ぎの一つになっていた。レッド少年も採取をしたこともあるし、両親の買い取りにも立ち会っていたのでよく覚えている。
薬草。植物学、生薬学を履修した人間にとっては謎すぎる植物だ。レッド君の記憶を参照するに形態はほぼヨモギに見える。それもカワラヨモギだ。カワラヨモギは一般的なヨモギで、前の世界では日本のどこでも生えている。こちらでは生長速度も生命力も旺盛な植物らしい。むこうではここまで外傷を治す効果は全く無い。あっても民間療法的な使用に留まり、利尿、利胆効果くらいの認識だ。確か外国のヨモギで傷口に使用したことや、アイヌでは別のヨモギを止血で使用したこともあるように記憶してはいる。それらは到底医薬品での効果のレベルではない。植物の力、物質の力を超え、異世界的な魔素、魔力的な力が内部に働きかけて自己修復力を補完していると思う。こちらでは魔素的な力が強いかもと推測する。
もしかすると、魔力的な力と生薬的な力が一致するとさらに効果が出るのでは?と思ったりする。効果の薄いヨモギでもそうなのだから。今後検証と実験ができればよいのだが・・・
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