第12話 魔具

 家業の取引先の一つ、魔導具店にお邪魔する。この爺さんは昔バリバリ魔術師として冒険者をしていたが、引退後故郷に戻って趣味の魔導具店を開いたと聞いている。レッド君の話に出ていたパラケル爺さんの店だ。確かポーションを作っているらしい。学院出のため、村の相談役も兼ねている。


 ここの爺さんは、村民からは頑固で気難しいと周りから煙たがれている。その中でレッド少年は、家業の関係で頻繁に出入りしていた一人だ。インストール情報によると、レッド少年は村内の中では、爺さんが気を許した一人と見なされているようだ。

 そのような関係を築いているので、今回の訪問は、爺さんに頼みごとをしたい。学院出の爺さんに、魔道具、魔道具作りに使用する実践的な魔術の修練をお願いしたい。レッド少年の時にしていたお願いは、残念ながら一度断られていた。拉致被害もあったし、同情も兼ねて引き受けてはもらえないだろうか?


 この王国の学院は、貴族や裕福な家がいく高等教育の場となる。商家のベルナル家となると、爺さんが学院の卒業生となる。領主候補やとなるものは、学院を卒業すると爵位の授与資格を得られる。相当な実績も授与資格となり得る。通常の庶民は教会での初等教育で終了。15歳までは親の養育下のようで15歳になると成人扱いとなる。つまり、庶民の自分は、3年はこちらの家族と過ごさなければならない。初等教育の期間を終えた11歳になるとたいていは親の仕事を手伝う。


 そんな学院出のエリート相談役の経営する店は魔導具店と言ってはいるが、村の中では趣味の店として有名だ。作りたいように作っているのでほぼ実用性は無い商品が溢れている。たいていは、白い布を被せていて埃が入らないようにカバーされていた。魔導具は受注生産が多い。作り置きはほとんどしないことは、父親から聞いている。客さんの要望を聞くか、商店からの発注で作成をしているらしいようだ。定期的に販売されているのは、魔法関連のスキルや錬金のスキルを活かした昔ながらのポーションだ。この商品は我が家にも卸されているので、わざわざ魔導具店に来る人間は少ない。

 

「こんにちは」

 返事はない。店主は、店の奥に居ることが多いので、カウンターのベルを鳴らさないかぎり出てはこない。不用心と思いきや、店備え付けの防犯の魔導具が作動しているので、しっかりと見張られているらしい。


 慣れたもので、不動在庫と見える商品を通り過ぎ、カウンター横の奥の作業スペースに入っていく。作業衣姿のパラケル爺さんが薬草の抽出作業をしていた。商品構成を見るにポーション作りをしていたのだろう、作業の工程が終了してから、しばらくすると、くるりとこちらを向き、目を見開く。


「久しぶりだな、少年。拉致されたと聞いているが大丈夫なのか?」

「パラケル爺さん。ご心配おかけしてすみません。頭を怪我したようですが、今は塞がっています。一日寝ていたので、ほとんど影響がないくらいです」

「あんまり両親を悲しませるじゃないぞ」

「はい。今回は自分の未熟さを痛感しました。自分を守れなかったのが非常に悔しいです。腕も磨いで魔法か防御のスキルを獲得するようにしたい。拉致のせいで、しばらく城郭都市への買い付けとか、森への立ち入りは制限されてしまいました。」

いつまでも作成現場を見ていたレッド少年だ。本当は魔術の教授を受けたかったのだろうと思う。その気持ちも上乗せして強気で押していきたい。

「そうじゃな。今回のことは肝が冷えただろう。ワシでよければ魔法のコツ程度でよければ少し教えてやろう。駄賃はワシが作業をしている間の午後の労働だな」

思いの他、すんなりと受け入れられてしまった。それも向こうの提案で。相当に拉致という案件は重かったようだ。必ず断られると思ったのに。労働対価もこちらからお願いするところだったのだが・・・

「ありがとうございます! 午前中は店の仕事があるので、ちょうどいいです。両親に了解を得ておきます」

「ああ、勝手に引き受けるとお前の両親も困るからな」


 再びパラケル爺さんは、くるりと向きを変えて抽出作業に集中する。よどみなく薬草を刻み、加熱し、抽出する。土魔法にてポーション瓶を作成して製品を完成させていく。以前からそんな作業工程をずーと眺めていたレッド少年の記憶があった。

 

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