修練と改良

第10話 起床

 目覚めると、隣には少女の姿があった。

「兄に、おはよ」『マリンだ!』

 この少女はレッドの妹のマリンだ。また潜り込んだなとレッド君情報が入る。一ヶ月も別にいたのだ。寂しかったに違いないと理解した。レッド君によると妹のマリンは八歳。まだ親と寝ることも多い年代だから、兄離れとはなっていないのだろう。


「ああ、マリン。おはよう。心配かけてすまなかったね」

 寂しかったのか、妹は全身で抱き枕のように自分に抱きついていた。そのせいか体がバキバキだ。少しずつ引き離して起きる。ベッドから座った体制で辺りを見廻す。ここは、レッド君の部屋の中だ。ベッドとテーブルの簡素な部屋。レッド君の性格を表すように整理整頓されている。四畳半くらいの部屋の内装は、すべて木でできている。窓は木の横滑り出しの構造だ。周りから外の日差しが漏れ出ている。プラスチック、金属などの工場生産物で覆われていた生活をしていたので、逆に新鮮だ。この家はレッド君の個室を与えられている程度の裕福さがあるらしい。まあ、そうか。搜索に金貨を払える程度の出費ができるのだから。


「マリン。起きろ。ご飯を食べにいくぞ」

 えーもうちょっとぉ、と足でモゾモゾしている妹を起こし、おいしそうな匂いを頼りに発生源に歩く。

 レッド君の実家は”ベルナル商店”という店を経営している。父親はサルタン。母親はジーナ。妹のマリンでの4人家族だ。昨日の話を思い返す。両方の親戚は城郭都市に住んでいるらしい。父親も母親も30歳。マリンは9歳というのは前に聞いた情報だ。

 食堂にはその両親が揃っていた。朝ごはんの準備がちょうど完了したらしい。妹と歩き、おはよう、と言うとこちらに振り返る。

「おお、レッドか、マリンも。調子は良いか」

「はい。ぐっすり寝たので、大丈夫です。体はあちこち痛みがあるけど」と妹を見ながら話す。

「マリンもいつまでも甘えていないで、席につきなさい」「えー」と言いながら朝食となった。

「久しぶりの4人でのご飯だ。レッドの無事を皆で喜ぼう」

「『ありがとう・・』心配をかけました。捜索までかけてくれて感謝しかありません」

 父親、母親、妹は自分の無事を忖度なく喜んでいる。そうだ、これが家族というものだ。

「大変でしたけど、ようやく戻ってこれた。やっぱり家に帰ると安心する」

そうだろう、そうだろうと両親は喜びながら少し潤んでいる。できるだけ拉致の間の話をしないようにしながら再開の喜びを伝えていった。

徐々に家族との再会に満足したのか、レッド君の意識は遠のく・・・

『疲れた・・後はそんなに出てこれなさそうだけど、奥でみているよ・・・。思い出は引き出せるようにしておくから・・ごめんね。家族をよろしく』

『いや、ありがとう。安心してみていてくれ。家族を託された』


レッド君の意識が薄らぐ。これからは自分一人の意識でレッド少年になりきり、過ごさなければならないことを噛みしめる。脳内での会話があと少しで終わってしまいそうになるのは、非常に悲しい。


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