第8話 方針
自分は今、留置場にいる。村長の話を聞くにおそらく明日、もしくは明後日に面会となるだろう。拉致という事件ということもある。親のどちらか、確実に父親が面会にくると推測する。それまでにレッド少年の過去、仕草、表情を見繕わなければ違和感を生じてしまう。レッド少年の精神はこの体にあるが徐々に衰弱している。少しずつ会話ができなくなる時間が出てきた。たまに彼の精神が揺らぐときがある。揺らいだ精神に引きずられ、思ったことを口に出すこともでてしまうのは痛い。
2人の精神はいずれか一体化するだろう。それはレッド君も認めている。彼も徐々に薄らいでいる感じはすると。幸いにも留置場で話しかけてくる人間はいない。自分しかいない環境なので、一人でぶつぶつ言っても問題はない。追放されるか、周りに受け入れられるかは、今後の自分の行動によって決まってくる。幸いにも記憶力には自信がある。ここで違和感を生じさせて、家族に受け入れられず、路頭に迷うことは避けたい。
12歳の年齢では、一人で生きていくことはまず難しい。しばらくは大人しく経過を見たい。少なくても職を得て自活できるまでレッド君に成りすまさなければならない。
それらを踏まえて、今後の行動の方針・戦略を立てる。兵士に書き物を借りて、思考を整理する。自分は犯罪者ではない。書き物は快く了承された。
###当面の指標###
1.家族への溶け込み
2.能力の把握
3.職の理解
4.自活できる手段
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重要なことは四つ。成人と呼ばれる15歳までは、力を蓄え、自重を自分に課していきたい。15歳にふさわしい力を、突出させないように、だ。
留置所の人の出入りは食事の時だけだ。親切にも詰所の兵士が運んできてくれた。残念ながらゆっくりはできなかった。レッド君の精神が揺れ動くためだ。レッド君には少し無理をしてもらい、エピソードをこじ開けながら探っていく。家族への溶け込みにすべてが掛かっている。しぐさ、言葉の癖、家族の性格、行動など覚えることは多数だ。迎えまでの時間は一日と予測し、人格の成り変わりがなんとかなると思いたい。
サルタンがホーミィー村から城郭都市へ移動する時間がかかったのか、留置場での面会は3日目の朝となった。結局準備できた時間は一日と半日分。急速学習をした影響で睡眠は全くとれていなかった。30代半ばに見える父親らしき人物が鉄格子の外側に立つ。久しぶりに見る、親子の感動の再会の場面だ。気持ちを切り替えよう。
『父さんだ!安心していいよ!』
脳内で声が響く。レッド君の精神は聴取もあり少し消耗し、疲れているように感じた。
「父さんすみません。馬も荷馬車も失ってしまいました」
「命だけでも助かっただけよかった。本当に5体満足で残れたのは奇跡だ」
「皆さんにご迷惑をかけてしまいました」
「それはよい。これから方々に挨拶して帰ろう」
父親に会ったことでレッド君の意識が強まる。久しぶりに父親に会うことがうれしかったのだろう。主導権を握られていたのか、家に帰るまでの記憶が薄かった。主人格を手放し、副人格としてレッド君をフォローすることにした。
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