第43話 誤魔化し方が下手なところは
困惑したまま、ノアに引っ張って行かれる。
ダイニングテーブルに座って待っていたお嬢さんと対峙させられた。
「……ええと?」
「大魔導師様、ぜひパーティーにおいでください」
お嬢さんが私に向かってそう言った。
思わずノアの顔を見る。彼はさっと気まずそうに目を逸らした。
どういうことだ。
私がダイニングを出たときの会話から、何一つ、1ミリたりとも進んでいない。
そんなことがあってよいものか。
私とフェイは前世の話から今の話、将来の話まですっかり済ませたというのに、その間この二人はずっと、同じところで足踏みをしていたのか?
驚愕でしばらく言葉が出なかったが、お嬢さんは強い意志の宿った眼差しで私を見ているばかりだし、ノアも苦々しい顔をして押し黙っているだけだ。
ええと、さきほどノアは通訳と言ったか。
同じ言語圏なのに必要なのか分からないが、とりあえず通訳としての仕事を試みる。
「……お家のパーティーにご招待くださっていますけど」
「断って」
「…………」
その通訳、必要だろうか。
というかこれは言葉が通じないわけではなくて、ノアにお嬢さんの言葉を聞く気がないだけでは。
お嬢さんの方を見ると、緊張した面持ちできゅっと唇を噛み締めている。
目がくりくりしていて、頬は桃色だ。髪はつやつやだし、綺麗にセットされている。
可愛らしいお嬢さんだ。服装や髪型からも気合いが伝わってくる。
こんなにおしゃれをしてきているのだから、きっとノアに気があるはずだ。
それならば。
「喜んでお伺いします!」
「ちょっと」
「まぁ! ありがとうございます!」
「どういうつもり」
私の言葉に、お嬢さんがにっこり笑って両手を胸の前で合わせた。
ノアが私を睨むけれど、私は通訳をしただけだ。つんと澄ましてやり過ごす。
正しい言葉を伝えろとは言われていないし、子どもなのだから伝言ゲームを間違えたって仕方がないだろう。
恨むならば自分できちんと対話しなかったことを悔やんでほしい。
お嬢さんは私に招待状を預けると、フェイと一緒に帰って行った。
フェリも帰ってしまって、少々寂しい。
「何を企んでるの?」
2人きりになったところで、ノアに問い詰められた。
私は視線を逸らしてとぼけて見せる。
「何ノコトデショウ?」
「……誤魔化し方が下手なところは子どもっぽいんだけどな」
ノアがぼそりと呟いた。
下手なところ「は」の「は」が気になった。
やっぱり子どもの真似が下手すぎるのかもしれない。もうちょっとフェイにどのあたりが子どもらしくないのか聞いておけばよかった。
しばらく私の横顔に恨みがましい視線を突き刺していたノアが、やがて呆れたようにため息をついた。
ほっと胸を撫でおろす。どうやら諦めてくれたようだ。
「ねぇ」
人心地ついたところで、ノアに呼びかけられる。
彼の方を向くと、彼はまだじとりとした目で私を見つめていた。
「あいつと何話してたの?」
あいつ、というのはフェイのことだろうか。
まさか前世の話をしていましたとは言えないので、当たり障りのない部分のみ抜粋して伝える。
「旦那さまが怪しい薬草とか育ててないか聞かれました」
「あいつ……」
「ちゃんと育ててませんと言いました!」
「あ、そ」
「あとフクロウを触らせてもらいました!」
「よかったね」
私の返事に、ノアはすっかり興味をなくしたようで、ふいとそっぽを向いた。
無事に誤魔化せたことに安堵する。
それにしても、フェリは何か理由をつけて置いて行ってくれてもよかったのではないか。
ずっと抱いていたので、あのふわふわと温もりが恋しくなってしまう。
「……君さ」
「はい」
手触りを思い出して余韻に浸っていると、ノアがまた苦々しげな顔で、口を開いた。
「お菓子くれる人とかについていきそうだよね」
「いきませんよ!?」
ものすごく不名誉な言いがかりだった。
さすがに身体が6歳児とはいえ、そのくらいの分別はある。
知らない人にはついていってはいけない。常識だ。
憤慨する私に、ノアがふんと不満げに鼻を鳴らす。
「少しは人見知り、した方がいいんじゃないの」
「私が人見知りしたら、旦那さまはどうやって女の方と話すんですか?」
「論理的で建設的な会話が出来る相手とはちゃんと話せるよ」
ノアが悔しげに食い下がる。
彼の求める論理的で建設的な会話というのはどういうものなのだろうか。
前世の私も今世の私も、彼とそんな会話をしていた記憶はあまりないのだけれど。
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