第42話 反省を生かした、今世にしたい
姿かたちがこんなに変わったのに、私に気づいてくれたこの可愛い同居人も。
たいして懐いていなかったのにフェリを引き取ってくれた、古くからの友人も。
きっと私が死んで、悲しんでくれたのだ。
私が、理解していなかっただけで。
そしてそれはきっと、前世の私が口で説明されただけでは、分からなかったことだ。
つまり、こうならなければ――実感が伴わなければ。
私は本当の意味で、知ることはできなかったのだろう。
「じゃあきっと、私は全部分かってても、結局同じことしたのかもね」
にっと笑って、フェイを見る。
他人のことは分からないけれど、自分自身のことは多少は理解しているつもりだった。
実感のない状態で、言葉だけで聞いていたなら。
きっと私は、好奇心を捻じ曲げてじっとしているなんて、出来なかっただろう。
こうして、アイシャとして生まれ変わったからこそ「しなければよかった」と思うけれど――あの時の私には、出来なかった判断だ。
だからやっぱり、後悔はしていない。
でも反省は、した。
反省をしたから――繰り返さない。
「魔法と結婚してたんだからさ」
「今は」
冗談めかして言ってみると、フェイが半ば遮るように口を挟んできた。
彼は何故か真剣な顔をして私を見つめて、言い聞かせるように言った。
「あいつと結婚してるだろ」
「うん」
彼の言葉を肯定する。
一応、ではあるけれど――やっぱり、これは神の思し召しなのだと思う。
「だから今回はもうちょっと、他人のことも考えて生きてみるつもり。せめて、ノアの謹慎が解けるまでは見届けたいかな」
私の言葉に、フェイがふっと小さく息をついた。
そして困ったように眉根を寄せて、笑う。
「長生きしろよ」
「?」
「二回もお前を見送るのはごめんだからな」
「……うん」
ひとつ、頷く。
せっかく生き返った――生まれ変わった?――のだ。
前世では知らなかったことに気づけたのだ。
散々自由に、やりたいように生きた人生に、後悔はない。でも、反省はある。
もっとこうしていればとか。知っていればとか。
その反省を生かした、今世にしたい。
私の死を悲しんでくれた人のそれが――少しでも、軽くなるように。
「少なくとも、フェイよりは長生きするつもり」
「あ、そ」
私が言うと、フェイが私の頭を撫でた。
先ほどの、大人が子どもにするような優しい手つきではなく――友達に悪戯をするような、ぐしゃぐしゃとかき回すような、遠慮のない手つきだった。
「俺はしぶといぞ」
「知ってる」
「その上しつこい」
「それも知ってる」
ぼさぼさになった髪を直しながら、私もくすくすと笑う。
魔法学園の次席だった彼に、しつこく勝負を挑まれたことを思い出したからだ。
あの頃はまだ若者らしい生意気さがあったのに、すっかり気の抜けたおじさんになっちゃってさ。
「あいつの謹慎が解けたら、どうすんだ」
そう問いかけられて、首を捻る。
どう、と言うのは――たとえば、生き方とか、だろうか。
魔法学園には行きたいし、やっぱり魔法とは関わり続けたいと思っている。
あとは――もう少し、人間というものに興味を持って過ごしてみたい。
ノアが何を考えていたのかとか。フェイが何を考えているのかとか。
前世ではできなかったことを、少しくらい、出来るようになりたい。
そんなことを考えていたが、フェイの質問は予想とは違っていた。
「まだ続けるのか、結婚」
「ノアは続ける気、ないと思うよ」
何だ、
私が苦笑いしていると、フェイが眉間に皺を寄せて首を振る。
「あいつじゃなくて、お前は?」
「私?」
ぱちぱちと目を瞬く。
そんなもの、決まっている。謹慎が解けたら私はお役御免なのだ。
出来たらそれまでにノアに新しい相手が出来ていることが望ましいけれど、どちらにせよ私と結婚していない方が都合がいいのは確かだ。
私も泣いていた両親のもとに戻れるし、何といってもまだ6歳だ。
すべてを神託のせいにして、もう少し年頃になってから恋愛なり結婚なりを考えられれば文句はない。
これも前世では、触れてこなかった分野だ。それなりに興味はある。
今世の私、どうやら見目がよいらしいし、前世よりチャンスがあるのでは。
「私は――」
「アイシャ」
廊下の方から、地を這うような声がした。
目を向けると、ふらふらとリビングに入ってきたノアに、がしりと腕を掴まれた。
「ちょっと、通訳して」
「はい?」
「意思の疎通がままならない」
「????」
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