第16話 子どもって不自由だな
ジェイドが「まったくもう」とため息をついて、ノアの手にヘアブラシを押し付けた。
「ほら、乾かしてあげて」
「何で僕が」
「アタシが攻撃魔法しか使えないの忘れたの?」
「…………」
ノアがじっとヘアブラシを眺めてから、しぶしぶといった様子で私の背後に回る。
そしてふと、私の顔を覗き込んだ。
「君、開錠が出来るなら自分で出来るんじゃないの」
「火と風の複合魔法はまだ6歳児には早いかと」
「何か時々子どもっぽくないんだよなぁ」
ぎく。
いけない、つい論理的に反論してしまった。
子どもらしく、子どもらしく。
「やったことないのでお手本をお願いします」
「……はぁ」
何とか子どもらしい言葉を捻り出すと、ノアがやれやれとため息をついた。
そして、ヘアブラシに仕込まれた魔法陣を発動させる。
温風を当てながら指で髪を梳き、ときどきブラシを通す。
文句を言っていた割に、手つきはやさしく、壊れ物を扱うかのように丁寧だ。
あたたかい風とごうごうと言う音、そして髪を優しく撫でるような手つきで触ってもらう安心感。
何だかまた瞼が重くなってきた。
子どもはどうして昼寝をするのだろうと思っていたが、こんなに眠くてはそれは寝てしまうだろうと思った。
抗えない。
食後の眠気と、シャワーの後の眠気も相まって、私はまたうとうととしてしまう。
うつらうつらする中で、ノアとジェイドの声が、どこか遠くでぼんやりと聞こえてきた。
「あれ。寝てないか、これ」
「慣れない環境で疲れてるのよ」
「まだ起きて食べて、シャワーしただけなのに。子どもって不自由だな」
「そうよ。だからアタシたち大人が、きちんと守ってあげなきゃ」
ノアの言葉に、心の中で同意する。
魔力も少ないし、すぐにお腹が空くし、お腹が空いただけで集中力がなくなる。すぐにこうして、眠たくなって……眠気にも、満足に抗えない。
本当に不便な身体だ、と思う。
ああ、でも私が大人だった時、ジェイドみたいに考えられていたかは分からない。
それこそ教え子であるノアと接する時だって、一緒になって子どもみたいに接していたような気がする。
そんな私の何を、ノアがこんなにも慕ってくれたのか。私にはよく分からない。
やっぱり魔法だろうか?
「ちゃんとお返しするんでしょ? この子」
「当たり前だろ」
「じゃあせめて、アンタもちょっとは優しくしてあげなさい。神託とはいえ……アンタの謹慎がなければ、親元を離れなくても済んだかもしれないのよ」
「……分かってる」
誰かの手が私の頭を撫でる。
それがやはり妙に心地よくて、私の意識はとぷりと夢の中に沈んでいった。
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