第44話 帰宅、ナイトヴェイル家にて
その後の処理は、想像以上にスムーズだった。
と言うのも、避難の先導と魔獣の侵攻の阻止はデューイ王太子の指示の元、迅速に行われていたからだ。
中でもゼナヴィスは、ゴドールに魔術を掛けられていたとは言え自らの失態を激しく悔いており、獅子奮迅の活躍だったらしい。
手傷を負ったミリエラとイクスは、ひとまずナイトヴェイル家に帰された。
一番の功労者は君たちなのだから、と、デューイに無理やり帰されたと言うのが実際のところだが。
なおも食い下がるイクスではあったが、セラとミリスを代わりに派遣させることでひとまず納得した。
医療室でリーファの治療を受けている間も、イクスはどこかむすっとしている。
「……二人には、余計な面倒を押し付けてしまった」
「な~に言っているんですか! 怪我人が居てもむしろ邪魔なだけです!」
「この程度、怪我には入らない」
「ふぅん。ミリスお手製の検査機で見ると、あちこち変なアラートが出ていますけどね?」
「痛みはないぞ」
「そういう問題じゃありません」
「むぅ」
魔獣化したゴドールによってイクス受けた傷は、不思議なことに全て塞がっていた。
内臓の機能にもおかしなところはないようだ。
ミリエラ自身も暴行を受けた箇所の痛みはなくなっていた。
「す、すみません……やっぱり私が何かしてしまったでしょうか……」
「う~~~ん」
おろおろするミリエラに対し、リーファが唸る。
「恐らく受けた傷からすると、今平気な顔で生きているのは奇跡どころの騒ぎではないのよ。だから、ミリエラが何かしたと言うのは間違いないんだけど、それが何なのかはよくわからないのよね……」
「魔法」
ぽつり、とイクスが呟く。
「これが魔術的処置では無いなら、きっと魔法だ」
「ミリエラは、魔法だと思って使ったの?」
「……はい」
ミリエラは静かに頷く。
あの力は、確かに魔法だ。
これまで習ってきたあらゆる魔術とは原理が異なる。
もちろん、イクスが使った封忌魔術とも違う。
魔術は、自らの精神力を対象に付与することで発生させるもの。
魔法は……。
「精霊さんの力を、借りましたから」
「精霊か……」
反芻するイクス。
その表情は複雑そうだ。
リーファの方も、同じく複雑そうな顔をしている。
「……魔法はとうの昔に滅んだはずでしょう? ミリエラが
「いや、あの時……彼女の目は翡翠色に輝いていた。
「隠しておくべき、でしょうね」
「そうだな。無闇に広めても敵を増やすだけだ。……と言っても、デューイやゼナヴィスさん、シュミットさんには説明せざるを得ないだろうが」
この三人は、現状信用できると判断していた。
ミリエラに関する企みはゴドールの単独行動だったからだ。実はゼナヴィスもまたデューイの命で単独調査をしており、それがリーファたちの中で怪しい、と判断されてしまったらしい。
シュミットに至っては、息子のエリックが例のリチャード・ヘンデルの妹イザベラに結婚詐欺をされ多額の借金が降り掛かる寸前だったようで、彼の疲れ様は主にそれが原因だったようだ。
ゴドールの息の掛かった研究所の方には、後日調査が入るとのことだった。
だが、リーファはまだ心配そうだ。
「残る懸念はヘンデル家とアーギュスト家、ですね」
「そちらも俺とデューイで手を打つつもりだ」
「……あっ」
アーギュスト家。それを聞いて、ミリエラは思わず声が漏れる。
二人が怪訝そうな顔で見てくるが、それはミリエラにとって逆に不思議なことだ。
「あの、お二人とも……」
しばしの逡巡を経て、続ける。
「私がアーギュスト家の人間だと、知っていたんですか?」
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