第36話 記憶 前編

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 ある日の、ナイトヴェイル家の庭。

 陽気な日差しの下、ミリエラはセラの膝でうたた寝をしていた。

 とんとんとんとんっ、と肩が叩かれる。


「ミーリエーラちゃんっ、起きて起きてっ」

「ふにゅ……セラ……?」

「あ、起きた?」

「んんっ……ごめんなさい、お日様があったかくて……」


 むくりとセラの膝から起き上がる。

 そうだ、今日は天気が良いからと、外でセラとお菓子を食べていたんだった。


「見て見て、ちょうちょ!」

「あ、ほんとだ。可愛い」

「ね! うぅ~っ、やっぱミリエラちゃんがうちに来てくれて良かった!」

「そう、ですか?」

「そうだよ! だって、あたしとこうやっていつもお茶してくれるし」

「二人とはしないんですか?」

「二人ともするよ! でも二人とも、忙しかったりするから……」


 確かに。

 リーファはイクスの補助で邸内の工房でやり取りをしていることが多いし、ミリスは魔術の研究や魔術具の開発が楽しいらしく、いつも眠そうにしている。


「あ、ミリエラちゃんも嫌な時は断ってくれていいからね? いつも誘っちゃってるし……」

「いえいえ! 全然嫌じゃないです! 楽しいですっ」

「ほんとー!? えへへ、やっぱミリエラちゃんは、やさしいお姉ちゃん、って感じ!」

「リーファさんは?」

「つよいお姉ちゃん!」

「ふふっ、なるほど」


 そう言って笑い合う。

 他愛のない会話でも居心地が良いのは、セラの明るい人柄のおかげだろう。



――


――――


 ミリスの工房兼自室にて、ミリエラは渡された正方形の板の束を見て疑問符を浮かべる。


「これ、何ですか?」

「これはね~、踏むと赤色に光る魔術具だよ~」

「こっちは?」

「青色に光る方~!」

「じゃあこっちは?」

「緑色~」


 原理は全く分からなかったが、とりあえず指示通り並べる。

 横三マス、縦三マスの正方形になった。


「これで何をするんでしょう?」

「えっとね~、その上で踊るの~! 見てて見てて、こうだよ~」


 みゅーじっくすたーと~、の掛け声で、軽快な音楽が流れ始める。

 それに合わせてミリスが板の上でステップを踏むと、それぞれの板が鮮やかな色合いで光る。

 まるでダンスのショーを見ているようだ。


「すごい……! ミリス、ダンスも上手なんですね」

「たのしいよ~、ミリエラさんもほらほら~」

「お、おおっととと」


 ミリスに急かされて板の上に乗る。

 リズムに合わせて何となく動いてみたが、思ったよりも楽しかった。


「はぁ、はぁ、結構疲れますね……」

「ミリエラさんすごい~」

「いっぱい踊っちゃいました……」

「はい、お水~」

「ありがとうございます」


 冷たい水が体に染み渡る。

 視線を感じてミリスの方を見ると、なぜか彼女はじっとこちらを見つめていた。


「ミリエラさん、いつもありがとう~」


 ペコリとお辞儀をするミリス。


「あ、改まってどうしたんですか?」

「あのね~、いつも私に付き合ってくれて嬉しいなって」

「私で良ければいつでも付き合いますよ。ミリスの研究を見るのは楽しいです」

「えへ~」


 ミリエラが微笑みかけると、ミリスは少し恥ずかしそうな顔をする。

 魔術修行中の身のミリエラにとって、ミリスの魔術や魔術具に対する発想は柔軟で新鮮なものばかり。

 それらに対して本当に楽しそうに接する彼女を見ていると、ついつい色んな手伝いをしたくなるのだ。


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