一人称を『僕』にしたい『俺』の仮面を剥がしていく、光を纏う少女との話。
如月ちょこ
第一章 僕の前でだけ光を纏う少女
第1話 美少女の裏側
「
「おう! じゃあバイバイなー!!」
夕方も5時になったあたり。学校も終わって、今からみんなぞろぞろと家に帰っていくところ。
高校生である僕も、例に漏れることなく家に帰ろうとしていた。
僕は教室を出て、べつのクラスの友達と合流し、途中まで話す。
その友達とも道が別れるので、そこで一人になる。けど、その後ですら僕のスマホにはメッセージが沢山。
『笠原、近々遊びに行かね?』
来たメッセージに返信し、またすぐに他の友達を見つけては話しかけに行く。
そう、ここまで来ればわかるだろうか。
僕はクラスの中でも人気者である。『他称』“陽キャ”と言われる部類の人間だ。
陽キャ――クラスの中でも目立つ側の存在であり、なにかを決めるときは主導し。
先生からの好感度も高いことが多く、何かと羨望の眼差しを受けることとなる。
けど僕は、自分では自分のことを陽キャと思っているわけではない。
なぜなら僕は――
「――今日はどんなラノベとかどんなアニメ見ようかな……っと」
もしもどこかで一歩道を違えていれば確実にオタクと言われる趣味をしている人間であったから。
だから僕は、仮面を被っている。歯車が噛み合って、陽キャと言われる分類になったから。
――いや、なってしまったから。本当は、教室内で静かに暮らしたかった。
まぁそんな夢が叶うわけがなく。今ではクラス1の人気者として名を馳せているわけだが――。
「――あれ、あそこにいる女子、うちとおんなじ高校の制服だ。というかあれ……おんなじクラスの――」
帰り道。ある1人の女子の姿を見つける。
その女子は、僕とおんなじクラスの生徒であるように見える。
そして蹲っているみたいで――。なんだろう。体調が悪いのだろうか。
だから僕は、話しかけに行く。自分の宿命であるから。人と話すことは、もう逃れられない。
「――なぁ、染井。そんなところでなにをしてるんだ??」
染井柚菜――クラスの中では2番目に人気がある。まぁ……男子からの告白は全てにおいてきっぱり断る。
そもそも男子に対しては態度が冷たい――と言われている。
だが、話しかけると、染井は背中になにかを隠したような感じがした。
もちろん、それを僕が見逃すわけがない。
「い、いやぁ……。翔輝くん。なんでもないよ?」
……怪しい。すごく怪しい。とてつもなく怪しい。そして――表情がある。
僕は口には出さないが、不信感をいだいていた。そしてその不信感は、見事に的中することとなる。
「みゃーお」
「……うん? 染井、今なにか言ったか?」
「いや!! なにも言ってないよ!?」
染井はとんでもない慌てようで否定する。そしてその庇い方がいかにも怪しく――そしてまた背中を妙に気にする様子があった。
……染井って、驚いたりするんだな。
「なぁ染井。ちょーっと背中側も見せてもらってもいいか??」
「あっ……! だめ……!」
だがそんな声で、意思を固めた僕は止まることがなかった。だって気になるから。
そんな僕の目の中に入ってきたのは――
「……道に捨てられてたんだ。この子達」
まだ生まれて少ししか経っていないであろう子猫だった。それも2匹。ちっちゃい段ボールの中に入れられている。
たしかにこのくらいの大きさなら背中に隠れても違和感ない、か。
「……なるほど、これを隠したかったのか」
「……うん、だってこの事知ったら笠原くんは優しいから――」
「――よし、僕が引き取るよ」
僕は、この猫たちを見た瞬間、自分が新しい飼い主になることを決めた。
こんなに可愛い命を捨てることなんて出来ないから。それならいっそのこと自分が……と。
だが、僕は次の瞬間大ダメージを負うことになる。
「えっほんとに!? ありがとう……?
……それより……。笠原くん? 一人称……」
……あっ。
「……あっ! ……忘れてくれ! 僕――俺が引き取るから!!」
……話せば話すほどにボロを出していく僕。そんな僕の姿を見た染井は――
「なんかそれ、いいね」
「……へ?」
「あっ……! ごめん、新鮮でさ……。全然笠原くんにそんなイメージがなくて……」
それはどういうことなのだろうか。まぁ十中八九、僕の日頃の一人称――僕の仮面に騙されてるんだろう。
「……そうか。変じゃないならよかった。というか――俺、猫の育て方よくわかんないんだが」
これが僕の最大の問題点。大口叩いて引き取るなんて言ってしまったものの、僕はそもそも動物を飼ったことがない。
それに僕は一人暮らしだ。動物を責任持って飼えるのか、という疑問もある。
「それは……。実はさ、私、猫飼ってるんだよ」
「そうなのか……?」
「だからさ、私が教えてあげられるんじゃないかな、って」
なんと、これは意外な申し出だ。
……ほんとは染井が飼いたいんだろうな。けど、もうすでに飼ってるから飼えない、といったところか。
けどこんなありがたい申し出に乗らない手はないよな。
「それはありがたい! ……じゃあ、連絡先交換してもいいか?」
そう言うと、染井はポカンとした顔で僕の方を見てくる。なんで。
――あっ。僕なんかが連絡先交換しようって言ったからか。だからだめなんだよ。舞い上がるなと――。
「……喜んで!!」
太陽みたいな笑顔をして、僕の方にスマホを差し出してくる。
――よかった。きもがられていたわけじゃないみたいだ。
……けど、なんで笑うんだ? 男子に対しては全く笑わない染井が、なんで笑ってるんだ?
いやまぁ気にするのは無粋か。気にしないほうがいいか。これも染井の裏の顔、か?
ということで、一旦連絡先を交換する。
「へぇ、翔輝くんって意外にアニメアイコンなんだね」
僕のプロフィールを見たであろう染井が、なんの他意もなさそうに聞いてくる。
……バレては、ないよな。
「まぁ。ぼ――俺そのアニメ好きだから」
「へぇ、そっか」
よし、うまくやり過ごした。連絡先を交換すると5回に1回くらいの頻度でこのこと聞かれるからやりづらいっちゃありゃしないんだよな。
そんな事を考えていると、染井はなにかをいいたげな顔でこちらをみている。
「というかさ――私の前では、一人称僕でいいんだよ??」
……やめてくれ。なにも知らないくせに。
なんてどす黒い対応をするわけには行かない。だって染井は善意でいってくれているから。
僕のがさっきから何回も僕っていいかけて俺っていい直してるから。
善意、これは善意なんだ。わかってる。受け取るべきだって。
けど――
「――ごめん、やっぱり俺、で」
「……そっかぁ。……ね、その区別の基準はなになの……?」
染井の顔に疑問符が浮かんでいるのがよく分かる。
あぁ。そんな顔をさせたいわけじゃない。僕が悪いんだ。俺、のほうがいいって気づいた。
それに、基準なんて1つに決まっている。
「うん……そうだなぁ。もっと、もっと俺と仲良くなったら教えてあげるよ」
「……わかった」
一旦は、逃げる。答えたくない。答えられる自信がない。答えたら――僕の周りからは人がいなくなりそうだから。
けどこの答えを、僕はすぐに後悔することになるのだ。だって染井は――
「じゃあ、すっごい仲良くなってみよ。その仮面、私が剥がしてあげる」
――覚悟を固めた顔をしてるから。
……なんで男子に対して冷たい染井が僕に対してだけグイグイ来るのか。
その答え合わせは――できる時が来るのだろうか……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます