Ribbon chocolate

杏藤京子

Chapter 1 お呼ばれされて

 身がつまってぷりっとしたローストターキーに、オリーブオイルのフレッシュな香りがするスモークサーモン……。芸術品にも思えるようなたくさんのごちそうが銀の食器に盛り付けられていて、それらを乗せた丸いパーティーテーブルが端から端まで並んでいる。


「アメリア、来てくれて嬉しいわ。これは私からみんなへの恩返しだから、どうぞ心ゆくまで楽しんでちょうだい」


 パーティーの主催者のグレースが、ピンクパフュームっぽく頬を色づかせながら私に声をかけた。クリスタルガラスをふんだんに使ったシャンデリアの明かりにグレース自身のオーラが合わさって、まるで彼女の肌が内側から発光しているみたい。


「恩返しだなんて。あれはグレースの演技がよかったから成功したのよ」

「いいえ、みんなの協力があったからよ。ああ、あなたが演じた王子様は麗しかったわねぇ」


 学園祭で私たちのクラスが発表した劇は、女優志望のグレースにとって心から満足のいく出来に仕上がった。その感謝の気持ちを伝えるために、彼女はこんなにも豪華なパーティーを催してくれたの。


 グレースの斜め後ろに立つレイラが、「グレース様のご両親は外出中で、使用人の方々は自室でお休みになられています。つまりこれは本当に、ヴァイオレット女学園の生徒だけのパーティーなのです」と解説した。彼女の声を聞くと私はいつも、凪いだ夜の海を想像する。


「イザベラは?  彼女は来ないの?」

 イザベラはグレースの、まだ小学生の妹だ。

「妹様は先ほどミュージカルのレッスンからお帰りになられたところで、疲れていらっしゃいますので」

「そう。……レイラ、あなたのハイネックドレス、品があっていいわね」


 レイラは鎖骨あたりで輝くハートの形のペンダントが一切揺れないぐらいに、そっと頭を下げた。彼女はクラスメートではあるけれど、グレースの家に仕える一族の娘だから同年代の女の子らしくはしゃいだりしない。


 社交辞令なんかじゃなく、この場の全員がお洒落な装いをしているわ。モデルをしているハンナはノースリーブとスリットスカートでその完璧なボディを大胆に魅せているし、リッチな雰囲気のあるエルシーにはゴールドのフィッシュテールがよく似合っている。


 私はこの空間で、恥をさらさず振る舞えているかしら。


「グレース様、お写真撮らせてくださいな」

 これまた高そうなフリルドレスに身を包んだソフィーが近づいてきて、グレースとレイラの目が彼女に向けられた。チャンスだ。


 私は気配を消して、一般的な男性の背丈よりはるかに大きな木製の扉に手をかけた。

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