第8話 あの魔族、ラキウス君に恋しちゃってるから
王都に着いてまず、リアーナを神殿に送って行った。出迎えてくれたエヴァと3人、久しぶりのメンバーでお茶の席を囲む。
「エヴァ様、お久しぶりですね」
「リアーナ様もお元気そうで何よりです。レオニードはいかがでしたか?」
「いい街でしたよ。ラキウス君も領主として頑張ってましたしね」
その言葉にエヴァがこちらをチラリと見て、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「あんたがいい領主してたとか意外ね。セリアちゃんのことしか頭に無いのかと思ってたのに」
「ふん、俺だってやるときはやるんだぞ」
「そうですね。セーシェリア様と二人で入るためのお風呂を造ろうとしたり、彼女に着せるための破廉恥な水着をこっそり作ってたとか聞いてますよ」
「ちょっと、リアーナ様! どこでそれを!」
抗議する俺にエヴァが呆れたような目を向けるとため息を吐いた。
「やっぱセリアちゃんのことしか頭に無いんじゃない。こんなのが王族で大丈夫なのかしら、この国」
「悪かったな、こんなので」
いじけてテーブルに突っ伏してしまうが、そんな俺の頭を優しく撫でる手がある。視線を上げると、リアーナが微笑みながら手を伸ばしていた。
「大丈夫ですよ。お姉ちゃんはラキウス君のいいところをちゃんと知ってますからね」
うう、ありがとう、リアーナ様。でも───いい話風にまとめてるけど、そもそもエヴァにいじられてるのはリアーナ様のせいだからね。
しばらく突っ伏したまま、もふられる犬のごとく、リアーナに撫でられるままにしていたが、話題は、俺が王族だったことに移っていた。
「それにしてもこいつが王族だったなんてね」
仮にも王族をこいつ呼ばわり。聞く人によっては目がつり上がりそうなセリフだが、俺としては、エヴァにそう言われると逆に安心してしまう。例え俺が王になっても、彼女なら変わらぬ態度で接してくれるだろう。
そう言えばエヴァはそう言っているが、俺が王族ってのは、彼女が昔、その可能性を言ってなかったか?
「エヴァ、お前が言っていた仮説が二つとも当たったんだな」
「仮説?」
「昔、アデリアーナで言ってたじゃ無いか。アレクシウス陛下が俺と同じ転生者っていう可能性と、俺がアレクシウス陛下の血を受け継いでる可能性と二つ」
「そう言えばそんなこともあったわね」
ホント、随分と懐かしい話。しかし、どっちも突拍子も無い仮説だったのに、二つとも当たるとか、どんな偶然だよ。
「正直、何でこんな偶然が起こるんだろうな?」
「偶然?」
「だってそうだろ。転生した先が王家の血を引く身体でした、とか、ご都合主義にも程があるぞ」
物語でこんな展開があったら、読者からブーイングの嵐だろう。でも、二人は顔を見合わせている。
「ラキウス君、偶然では無いと思いますよ」
「へ?」
「そうね。あんたの身体に流れるアレクシウス陛下の血が、同じ転生者の魂を呼んだんだわ。その身体に宿ったのは偶然でも、王家の血を引く誰かに宿ることまでは必然だったと思うわよ」
リアーナの言にエヴァまで同意している。いや、しかし、そんなことがあるのか?
「まあ考えても正解なんかわからないんだから、今はその運命を素直に受け入れなさい」
エヴァに言いくるめられてしまい、釈然としない気持ちを引きずってしまうが、もう二人の関心は別の所に行ってしまったようだ。───アデリアの方に。
「そう言えば、リアーナ様、こいつ、あの女魔族と仲良くなったみたいなんですけど、リアーナ様もその場にいたんですよね? 本当に大丈夫なんですか?」
「うーん、どうでしょう。……まあ大丈夫なんじゃないですか?」
「本当ですか? 水龍様を殺してしまうほどの魔族なんですよ! 私たちの誰も、いいえ、ラーケイオス様さえ敵わないかもしれない。そんなのを野放しにして間違ってたら洒落にならないです!」
「多分、大丈夫ですよ」
「多分って、根拠あるんですか?」
詰め寄るエヴァに、のらりくらりと答えていたリアーナだったが、次の瞬間、とんでもないことを言い出した。
「だって、あの女魔族、多分ラキウス君に恋しちゃってるから」
「……」
「……」
「「はあああああ⁉」」
思わずエヴァと声がハモってしまった。だいたい何だよ、アデリアが俺に恋って。あいつはアレクシウス陛下のことが好きだったはずだぞ。
一方、エヴァは頭を抱えていたが、俺をじろりと睨んだ。
「半分冗談で魔族を
「人聞きの悪いこと言うな! 俺がセリア一筋ってこと、お前だって知ってるだろ!」
エヴァに言い返すと、リアーナの勘違いを正すために説明する。
「アデリアが俺に恋とか、リアーナ様の勘違いですよ。あいつは400年前のアデリア様の記憶を受け継いでるんです。好きなのはアレクシウス陛下ですよ」
「でも、ラキウス君に向けるあの目は、絶対恋する乙女の目でしたよ。私もあなたを通して見ていましたからね」
「いやいやいや、リアーナ様の勘違いですから! だいたいリアーナ様、あの時はそんなこと言ってなかったじゃ無いですか」
「それは、後から考えてみればってことですよ」
「えーーーー!!」
ダメだ、何でこんな流れになってるんだろう。こんなバカ話をしている暇など無いと言うのに。俺は早々に話を切り上げ、神殿を後にすることにしたのだった。
その二日後、俺が王族であることが王宮から発表された。俺は王甥であると同時にレオニードの領主として、爵位を公爵に進め、レオニード公爵という肩書も持つこととなった。王国3つ目の公爵家の誕生である。それも王族を離れることにより公爵家を名乗ることとなったカーライル家とは違う。王族のままの公爵の誕生だ。
同時にサルディス家の名誉回復とカテリナの女伯爵への陞爵も発表された。ようやくカテリナへの恩返しが叶ったことに安堵する。もちろん、彼女の失われた未来が戻ってくるわけでは無い。だが、彼女にも新たな未来を見せてあげるのだ。これまで多くの涙を流してきた彼女が、次は笑顔を浮かべることが出来るように。
事前の根回しがされていた一部大貴族を除く多くの貴族、国民が驚愕したその日、それら一連の発表に対する反応は、今の俺にはまだ届かない。ただ、否応なく大きなうねりに飲み込まれていく、その予感だけが胸の内にあった。
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