第12話 シスコン兄との商談

 今回、フェルナシアに来たのは、セリアを送っていくことだけが目的では無い。ある物の商談の許可を得るためである。それは「鉄」。フェルナシア領は、領内に良質の鉄鉱石鉱山を有し、また、国境の領地ということで、その鉄を材料とした武器生産が大きな産業となっていた。俺はその鉄を使って、大砲を作るつもりだった。


 この世界では火砲の技術は発達していない。前世における同レベルの文明が発展していた時代であれば、既に戦場には大砲やマスケット銃が投入されていた。しかし、この世界には魔法がある。それが前世とは異なる技術発展をさせる要因となっていた。


 何しろ複数の魔法士による遠距離大規模攻撃魔法であれば、大砲などよりはるかに正確に、より大規模な被害を与えることができる。もちろん、それだけの魔法士を養成、維持していかねばならないという問題はあるが、重い大砲と違い、戦場への展開は迅速で効果はより大きいとなれば、技術が大砲製造に向かわないのは当然のことであった。


 では何故、大砲を作ろうと考えているのかと言うと、船に積むため。この世界では魔法士による魔法攻撃が主体と言っても、それは陸戦中心の話。船に魔法士を大量に積んで戦闘させるなど、ありえなかった。沈没すれば、船より貴重な魔法士が全滅である。従って、これまでの海戦は、バリスタや火矢による攻撃の他は、接舷しての白兵戦が主体だった。


 しかし、事前の情報にあったように、海賊が増えてきているという状況では商船も武装させる必要がある。また、ミノス神聖帝国との戦闘を考えても、これまでのようにフェルナシア領を前線とするだけでなく、帝国の後背地に対する攪乱攻撃なども考えたい。そのために必要な武装として、大砲を積んだ海軍の整備を考えているのだ。


 と言うことで、フェルナシア領から鉄を購入する。そうした商談を領内の商人と行う許可を、領主代行であるセリアの兄、レドリックに求めるためにやって来たというわけである。


 早速、セリアを通じて面会を申し込んだのだが、セリアは「えー!」と言って目を泳がせている。何かあるのだろうか。でも、領地経営のために必要なことだからと重ねてお願いしたところ、渋々ながら取り次いでくれた。


「ラキウス、その、兄はちょっと変わったところがあるけど、気にしないでね」


 目を伏せながら忠告してくるセリアに違和感を覚える。妹にこう言わせる兄とはいったいどういう人なのだろう。だが、その疑問は、会った瞬間に氷解することになった。


「貴様か! 私のかわいい妹をたぶらかした奴は⁉」


 開口一番、俺にそう怒鳴ったレドリックを見て理解したね。変態レベルのシスコンだ、こいつ。フェリシア様の子だけあって、見た目は超イケメンなのに、中身が残念過ぎるぞ。しかし、ライオットと言い、レドリックと言い、なんで俺の周りにはシスコンが多いのか。まあ、俺の身内にもブラコンがいるんだけど。そんなレドリックだったが、次の瞬間、セリアに怒られていた。


「お兄様! 私のラキウスに意地悪したら、一生口きいてあげませんからね!」

「そ、そんな、セリア~」


 セリアに、んべっと舌を出されてへこんでる姿はとても残念なイケメンなのであった。まあいいや、シスコンだろうが何だろうが、商談は商談。気を取り直して───


「初めてお目にかかります、義兄上あにうえ。本日は……」

「お前に義兄あにと呼ばれる筋合いは……!」

「……お兄様!」

「……」


 何なの、この兄妹。その後も何度かすったもんだがあった挙句、ようやくまともな商談にこぎつけた。


「ラキウス君、君からの要請は事前に目を通している。鉄の取引自体はかまわんが、量がかなりあるな。用途は何なのかね?」

「今は詳しく申し上げられませんが、新型の武器製造を考えています。完成した暁には、一基、フェルナース家に寄贈もさせていただくつもりです。それで気に入っていただけたなら、その後は正規の値段で購入いただければ」

「武器か。領地間での武器の取引には王宮の許可がいることは知ってるね?」

「存じております。ですが、今回はあくまでも鉄の取引。武器の取引の際には、改めて王宮の許可を得ようと考えております」

「ふむ、いいだろう」


 まともな商談に移ったら、とんとん拍子に話が決まった。この人、残念なシスコンってことを除けば、有能な人なんだろうな。いずれにしても、今回のフェルナシア訪問の目的は達成されたわけで一安心である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る