第7話 お披露目はグダグダ
翌朝、レオニードに到着した。埠頭には本邸の使用人たちが並び、俺達を待ち構えていた。───が、美女をぞろぞろ引き連れて降りてきた俺への視線は決して好意的なものばかりでは無い。
そのまま馬車で本邸に向かう。大広間には主要な陪臣貴族たちが勢揃いしていた。レオニード領には代官として街などの管理を任された貴族や、警護に当たる護衛騎士など、陪臣だけでも100人超、陪々臣まで含めれば1000人近い貴族、準貴族がいる。今日はそのうち主要な者だけではあるが、それでも数十人の陪臣貴族が並び、跪いて俺を待っていた。
部屋に入ると、カテリナがその陪臣の列に並ぼうとする。だが、俺は彼女を他の陪臣と同列に並ばせるつもりは無かった。
「カテリナ、君はこっちだ」
あくまで主人の側に並べと言う俺の声に、彼女は首を横に振る。
「お言葉は有り難いのですが、私も今は陪臣の身。それに、リアーナ様やセーシェリアの横に並べなんて、公開処刑でもなさるおつもりですか?」
いや、他の陪臣に、自分の立場を分からせるためだとはわかってるけど、そんなリアクションに困るようなこと言うなよ。だいたい、リアーナとセリアが別格なだけで、カテリナだって十分、綺麗だと思うんだけどな。まあ、この手の話は口に出してしまうとドツボにはまってしまうからやめよう。いずれにしても、俺の気持ちは変わらない。
「何度でも言うが、カテリナ、君の席はこっちだ」
「畏まりました。ラキウス様がそうおっしゃるのであれば」
カテリナが目を伏せ、リアーナの横に並んだ。右からセリア、俺、リアーナ、カテリナの並びである。
俺は改めて陪臣たちに目を向け、言葉をかける。
「みんな、良く集まってくれた。顔を上げてくれ」
その言葉に合わせ、全員が顔を上げ、俺を見る。その瞳に宿すのは、新しい領主を見極めようと言う厳しい値踏みの視線か。
「サルディス伯爵の領地を受け継ぐことになった、ラキウス・リーファス・ジェレマイアだ。元は平民の成り上がり貴族だから知らない者も多いかと思う。むしろ竜の騎士と名乗った方が通りがいいかもしれないな」
元平民、竜の騎士という言葉に何人かの貴族たちが顔を見合わせている。何を思うかは知らないが、先を続けよう。
「領地経営についての考えを述べる前に、こちら側の紹介を済ませたい。まず、右手側にいる女性は俺の婚約者のセーシェリアだ。隣のフェルナース辺境伯家のご令嬢だから知っている者もいるかと思う。いずれ、俺の妻として、この屋敷の切り盛りをしてもらうことになる」
「セーシェリア・フィオナ・フェルナースです。我が夫となるラキウスを皆様と共に支えていきたいと思います」
セリアが一歩前に出て挨拶する。それに陪臣たちが一斉に頭を下げた。続いてはリアーナの紹介。
「左手側の女性は竜の巫女、リアーナ様だ。初代国王アレクシウス陛下のお孫さんでもある。粗相の無いように」
「リアーナ・フェイ・アラバインです。竜の騎士であるラキウス君のパートナーです。皆さん、よろしく」
良かった。俺のお姉ちゃんだとか言い出すんじゃ無いかと実は内心少しビクビクしてたんだけど、流石にそんなことは無かったね。
「最後にカテリナは紹介するまでも無いだろう。俺の補佐官として、領地経営を手伝ってもらうことになる」
「カテリナです。立場は変わりましたが、皆さんとまたお会いできて嬉しく思います。ラキウス様は私の命の恩人です。彼を支えることは私の使命であり、喜びです。皆さんの協力を期待いたします」
カテリナが深々と頭を下げると、皆が一斉に頭を垂れた。涙を流している者もいる。彼女がどれほど慕われているか、わかろうと言うものだ。
自己紹介が終わったところで、続いて領地経営についての話をしようとしたが、突然声が上がった。
「ジェレマイア伯爵、発言よろしいでしょうか?」
声を上げたのは最前列に並んでいた少し年配の男だ。恐らくは陪臣の中でも高位の貴族なのだろう。
「いいだろう、許す」
「ありがとうございます。南部の街エルディラの代官を務めておりますエーリック・スルト・シェーグレン男爵と申します。まずはカテリナ様の助命にご尽力いただいたと聞いており、お礼申し上げたいと思っております。それにカテリナ様を我ら陪臣の列に並べようとしなかったこと、カテリナ様を大事に扱っていただいていることが分かり、感謝いたします」
「礼には及ばぬ。カテリナは尊敬する友人だ。彼女にふさわしい遇し方を考えたまでの事」
「その伯爵のご厚意におすがりして更に考慮いただきたき義がございます。サルディス家の復興でございます。カテリナ様は女男爵となられたとのこと。カテリナ様が婿を取り、サルディス家を復興させることにご助力をいただけないでしょうか」
エーリックの進言は元の主家を大事に思っての発言であったろう。だが、思わぬところから反対を喰らうことになった。
「エーリック、私はそのようなこと、望んでおりません」
「し、しかし、カテリナ様……」
敬愛する元領主の娘本人から却下され、エーリックはうろたえる。そんな忠臣をカテリナは優しく諭すのだった。
「今はサルディス家の復興では無く、ジェレマイア家の基盤確立に注力すべき時です。私も補佐官として、ラキウス様の傍を離れる訳にはまいりません。結婚など考えておりませんよ」
「しかし、それではカテリナ様が……」
だが、諭されてなお、エーリックは食い下がる。その様子に、カテリナもしびれを切らしたようだった。
「くどい! 結婚などしません! 私はラキウス様のお側にいたいのです!」
「……畏まりました。結婚については強く申し上げることは致しません。しかし、お家再興の件はどうかお考え下さい」
───ええと、今なんか不穏な事言ってなかったか、カテリナ。俺の側にいたいから結婚しないとか。エーリックも納得してないで、そこツッコめよ! ───これはあれだよね、ほら、補佐官業務をしっかりやるために側にいないといけないってのをちょっと言い間違えただけって、そんな訳あるかーっ!
カテリナももうちょっと考えてくれよ、だいたい、ここにはセリアがいるんだぞ───と思って、セリアの方を見た俺は「ひっ!」と息を呑んだ。セリアが表情の抜け落ちた顔でカテリナを見つめてる。───怖い、怖いよ、セリア。
とにかく、この話題を続けていたらまずい。こういう時は取りあえず、問題の先送りだ。
「エーリックもカテリナも言いたいことは分かった。ただ、事がことだけに今この場で判断はできん。先にやらねばならないことも山積している。この件は改めて話をすることにしよう」
俺の言葉にエーリックもカテリナも頷いたが、セリアがニッコリ笑って一言。
「ラキウス、話し合いには私も参加するからね。……妻として」
「は、はい……」
うう、セリアへの想いが揺らいだことすら無いのに何だろう、これ。そこにリアーナのパスが繋がった。
『ラキウス君……お姉ちゃんは、あなたを二股するような不誠実な男に育てた覚えはありませんよ』
『からかってないで、助けて下さいよ。リアーナ様なら俺が潔白だって知ってるでしょ』
『そう言うのは、自分でやるものですよ、本当にラキウス君はダメダメな弟君ですね』
───言い返すこともできない。
こうして陪臣貴族達への最初のお披露目は、ぐだぐだで終了したのだった。
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