第1話 婚約式
「「「「「おめでとう!!」」」」」
セリアと共に臨んだ婚約式、皆からの祝福が嬉しい。
国王陛下から結婚の許可を得たところで、すぐにでも結婚式を挙げたいところだが、旧サルディス伯爵領であるレオニードの立て直しなど、やらなければいけないことが山積み。取りあえずは婚約して諸々準備が整ってから結婚しようと、二人で話し合って決めた。そりゃ、俺だって男だ。今すぐ結婚してセリアを抱きたい! だけど、だけど───もうちょっとだけ我慢だ。
会場は王都にあるフェルナース家の屋敷。これも本来なら俺の屋敷で行うべきだろう。だが、サルディス家が王都に所有していた屋敷を譲り受けることになっているとは言え、1年以上放置されて荒れ放題。使用人も散逸してしまって、すぐには立て直せない。会場には使えなかったのである。男としては不甲斐ない限りだが、セリアの実家のご厚意に甘えたわけだ。
来賓は流石にドミティウス陛下は来られなかったが、リアーナやテオドラを筆頭に錚々たる顔触れがそろっている。リアーナはまあ、身内みたいなもんだし、まずはテオドラに挨拶。
「テオドラ様、本日はご足労をいただきましてありがとうございます」
「ラキウス様、セーシェリア、本当におめでとうございます。でも、セーシェリアは私の護衛騎士、辞めちゃうんですよね。寂しくなります」
「申し訳ありません。近衛騎士団も退団いたしますし、テオドラ様には本当にお世話になりました」
「いいんですよ。ラキウス様と幸せになって下さいね」
セリアと二人、テオドラに深く頭を下げる。彼女にはセリアとの仲を応援してもらった。意図を訝しんだりもしたが、今は感謝しか無い。
その後、テオドラと別れ、セリアと二人、皆に挨拶しながら会場を回遊していたら、ソフィアがいた。
「ソフィア、来てくれてありがとう」
「ラキウス君、セーシェリア、婚約おめでとう。それにしても、二人が結婚することになるとは、会ったばかりのころは思いもしませんでしたね」
「いろいろあったからね」
───本当にいろいろあった。決闘騒ぎに傭兵団やアスクレイディオスの襲撃、ラーケイオスの暴発に竜の騎士としての覚醒、それにテシウスの反乱、リュステールの襲撃にクリスティア王国軍による王女襲撃、細かいものまで挙げるともっとあっただろう。わずか3年の間にどれ程の騒ぎがあったことか。
「そう言えば、今回の騒ぎでは、ラキウス君ほどではありませんが、私もちょっとだけ出世したんですよ」
ソフィアが思い出したように言う。今回、ソフィアは事前にクリスティア王国側の狙いを見事に言い当てた。王宮内のお役所仕事で結局最後は強硬手段に訴えざるを得なかったが、本来であれば、あの分析をもとに、もっと効果的な手が打てていたかもしれない。目の前の事しか見えない俺とは違う。彼女の目は遥か遠くを見ているのだ。
「君が偉くなってくれると俺も嬉しいよ」
「ふふ、お二人には王国宰相になって見せると大見えを切ってしまいましたからね。いつまでもくすぶっているわけにはいきませんよ」
「ねえ、ソフィア、あなた本当に結婚しないで王国宰相とか目指すつもりなの?」
セリアが口を挟んだ。彼女には、この世界の常識から外れたソフィアの行動は理解しがたいのだろう。俺は前世での経験があるから違和感を感じないけれど。
「あなたがラキウス君を譲ってくれると言うなら、すぐにでも結婚するんですけど」
「絶対ダメ!」
───二人とも何バカな話してるんだよ。呆れていると、ソフィアはクスクス笑いながら行ってしまった。セリアと二人、顔を見合わす。
「ソフィアはやっぱりソフィアね」
「そうだね。少し見習いたい……かな?」
「皮肉屋のラキウスとか見たくないわ」
思わず二人して笑い出した。ソフィアの前途に幸あれ。レオニードに着任すれば、またしばらくは会えなくなるだろう。次に会う時には、どれだけ偉くなっているか、楽しみである。
ソフィアと離れたら、今度はクリストフがやって来た。
「やあ、二人とも婚約おめでとう」
「団長、いらしていただき、ありがとうございます」
クリストフは近衛騎士団長。セリアにとっては上司だ。彼女に何度も聞いているであろう問いを確認のように投げかける。
「セーシェリア君はやっぱり婚約後は近衛騎士団を辞めるつもりなのですか?」
「申し訳ありません。レオニードに向かうラキウスの手助けをしないといけませんし、結婚前に一度フェルナシアに戻ろうと思うので」
「謝る必要はありませんよ。事情はそれぞれですからね。ただ、ドミニクが寂しがるでしょうね」
「ドミニク隊長にも良くしていただいたのに申し訳ないです」
「そうだよー、セーシェリアぁ!」
「ええっ?」
後ろから、いつの間に近づいたのか、ドミニクがガバっとセリアに抱き着いた。さらに後ろにはルビーネとサンドラだったか、セリアを脱がそうとしていた、あの二人組もいる。
「せっかく次の隊長候補が見つかったと思ったのにー。私より先に結婚しちゃうなんて酷いじゃない」
「まだ結婚じゃ無くて、婚約ですからね、隊長」
「どっちも同じー。こら、竜の騎士!」
え、俺?
「セーシェリアを幸せにしないと承知しないんだからね!」
「もちろんですよ。必ず幸せにします」
言われるまでも無い。セリアと共に歩み、彼女を幸せにする。それこそが俺の願いなのだから。それを聞くと、ドミニクは笑うと、耳元に唇を寄せた。
「お願いね。私たちの下着姿見たのはそれでチャラにしてあげるから」
───いや、俺、一方的に見せられてただけだと思うんだけど。でも、今ここでそんなこと言っても仕方ない。苦笑いしながら、「ありがとうございます」と言うにとどめた。
会は和やかに進んだ。途中では、フィリーナからセリアに花束贈呈というサプライズもあった。漸く兄離れしてくれたかと感無量である。そうした楽しい時間も、いよいよお開き。締めの挨拶をしろと言われて、セリアと共に壇上に登る。そこから改めて眺めると、本当に多くの人が来てくれているのが分かる。リアーナがいる。エヴァがいる。テオドラが、ソフィアが、マティスが、エルミーナが、ヘンリエッタが、ライオットが、───まだまだたくさんの人たちがいて、皆に支えてもらっていたことを実感する。
「皆さん、今宵は私たち二人のために集まっていただき、ありがとうございます。こんなにも多くの方に祝福していただき、私たちは幸せです。同時に、こんなにも多くの人達に支えていただいていたのだと改めて実感しています。ご存じの方も多いと思いますが、私は元は平民です。セリアに……セーシェリアにいつか並び立てるようになりたいと、ひたすら努力して……」
「こらあ、竜の騎士!」
響き渡る大声に何事かと見たら、ドミニクの目が座ってた。あ、これ酔っぱらってる?
「つまらん挨拶してないで、ちゃんと覚悟を見せろ!」
「え、覚悟って?」
「誓いのキスだよ、決まってんだろ!」
その瞬間、会場が割れんばかりの歓声と拍手に包まれた。あれ、これ、卒業前夜祭と同じ流れ? ええと、でも、この会場にはセリアのお父さんもいるんだけど……。その辺境伯の方を見たら、苦笑しながら頷いてくれた。どうやら婚約したことでOKが出たらしい。
改めてセリアに向き直る。彼女も頬を朱に染めながら、俺の言葉を待ってくれている。
「セリア、誓うよ。君を必ず幸せにして見せる」
「ありがとう。でも、もう私は十分に幸せよ」
「もっとだ。もっと。君がもういらないと言っても幸せを運ぶから」
「うん、信じてる」
彼女をそっと抱き寄せる。その宝石のような瞳に光る涙に胸がいっぱいになって、それ以上、何も言えないまま口づけた。
改めて沸き起こる歓声と拍手に包まれ、今日の日を迎えられた幸せを噛みしめる。腕の中の華奢な少女の温もりこそが、今の俺の全て。彼女を必ず幸せにする、その誓いを固く心に刻みつけながら。
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