第5話 ポンコツお姉ちゃん爆誕!
あれから俺は敵のアジト全てを襲撃して、殆どのメンバーを殺し尽くした。流石に全員は無理だったようで、2~3人取りこぼしが出たようだが、敵の勢力を大きく削ぐことには成功した。これでしばらく同様のことは起こるまい。
だが、安心してはならない。相手はやはりミノス神聖帝国の連中だった。一方、予想外だったのは、狙いはセリアでは無く、俺だったらしい。セリアはあくまで俺に対する人質として狙われたようだ。俺は邪竜の使徒、悪魔の使いとのこと。馬鹿げている。だが、こうした狂信者どもの活動が収まることは無いだろう。今後、彼らが活動を再開したときに、すぐに動きを察知できるよう、国内に網を張っておかねば。
そう言えば、あの日、狂信者どもを殺しまくって帰った俺を、エヴァは何も言わずに抱きしめてくれた。全くあいつはお節介で、優しすぎるんだよ。俺はあいつの胸に顔をうずめ───まあ、うずめるほど胸無かったけどな。
ガンッ!
「あ痛!!」
後頭部を思い切り殴られた。振り返るとリアーナが真っ赤な顔して、スタッフを握りしめている。どうやらスタッフで殴られたらしい。
「ラキウス君、今、何をしてるか分かってますか⁉」
「何って……パスを繋ぐ練習」
「そうです。私とパス繋いでるのに、何か物騒なこと考えてるなと思ったら、今度はエヴァ様の胸のこととか、何考えるんですかあっ!」
「ご、ごめんなさい!」
リアーナはため息をついている。俺はパスの制御が下手過ぎて、考えていることや感情が駄々洩れになっているらしい。本来は、相手に伝わってはいけないことには枷をかけて、伝わらないようにするのだが、その枷の掛け方が良く分からない。
「難しく考える必要はありませんよ。竜王様の魔力は詠唱とか必要無いですし、イメージすればいいんです。伝えたいことだけを思い浮かべ、それ以外、特に伝えたくないことには蓋をするイメージですよ。やってみてください」
伝えたくないことに蓋ねえ。伝えたくないことと言えば、やっぱりセリアとのことだろうか。セリアとの思い出に蓋───蓋───あ、ダメだ、セリアのことを考えると、彼女の美しい姿が浮かんできてたまらなくなる。あのプラチナのような髪も、サファイアみたいな瞳も───あんな綺麗で素敵な子が俺のことを好きでいてくれる。なんて幸せなんだ。大好きだ、セリア!
ガンッ!
「だから、何で私がセーシェリア様への愛の告白を聞かなきゃならないんですか!!」
「す、すみません……」
リアーナはブツブツ言ってる。
「まったく、騎士様と巫女の間でパスを通すって、とても特別で、深い絆を示すものなのに、これじゃ台無しです。まるで閨を共にしている殿方から、別の女への睦言を耳元で囁かれている気分ですよ」
「閨を共にって、リアーナ様、そういう経験あるんですか……って、ちょっと待った。ちょっと待った!」
リアーナが顔真っ赤にして、スタッフを大きく振りかぶってる。今にもフルスイングされそうだ。
「それで殴られたら、ホントに死んじゃうから!」
「ラキウス君なんか、一回死んで、エヴァ様に生き返らせてもらえばいいんです! 生まれ変わったら少しはまともになるでしょう!」
「いや、俺もう二回死んでるから! 勘弁して」
しばらく、ギャアギャアと言い争いしていたが、リアーナはガックリと膝をついた。
「……パスの練習は今日はこれくらいにしておきましょう……」
気力を失ってしまったみたいだ。申し訳ない。でも、早めに終わってしまったせいでまだたっぷり時間がある。なので、ガックリしているリアーナには悪いけど、気になっていたことを聞いてみた。
「リアーナ様、竜の騎士の認定式の時に、フワーって飛んできたじゃないですか?」
「認定式の時? ああ、あなたが私をアホ呼ばわりした時のことですね。思い出したら、またムカついてきました」
「だからあ! あれはリアーナ様が、自分がどれだけ美人かって自覚しないで群衆の中にホイホイやって来るなんて危険なことをするから」
「ううう……」
リアーナに上目遣いで睨まれてしまった。何この可愛い生き物。遥かに年上とは思えないね。
「ま、まあいいです。で、何が聞きたいんですか?」
少し機嫌を直してくれたらしい。良かった。とにかく、機嫌のいいうちに聞いてしまおう。
「いや、あの飛んできたの、あれも竜の魔力を使ったんですか?」
「そうですよ。実はラーケイオス様も、魔力で飛んでるんです。まあ普段は翼も使ってるようですけど、あくまで補助で、翼無しでも飛べるんですよ」
「マジですか?」
それは凄い。翼で飛んでるんだと、空気を押して進んでる分、速度に限界があるが、魔法だとその辺どうなんだろう? 今度、ラーケイオスに聞いてみよう。今はそれよりもだ。
「リアーナ様、それより、あの空飛ぶの、どうやるんですか? 教えてください」
「どうやるのも何も、イメージするだけですよ」
「イメージするだけ?」
「そう、飛んでる自分を思い浮かべるんです。最初はコツがいるかもしれませんが、すぐに飛べるようになりますよ、ほら、こんな風に」
そう言うと、リアーナは目の前で、いきなり空に飛びあがった。
「どうですか?」
いや、凄いけど、目の前でいきなり高く飛びあがったから、その、スカートの奥が、奥が───。
俺はバッと目を逸らした。これ以上はいけない。
「あーっ!!」
その視線の動きに、何を見られているのか、気づいたのだろう。リアーナが慌ててスカートの裾を抑える。だが、それで精神の集中が解けたせいなのか、バランスが崩れたのか、リアーナが落下してきた。それを慌てて受け止める。
「だ、大丈夫ですか? リアーナ様」
リアーナは呆然としていたが、すぐに真っ赤になった。
「バカァああああああ!!」
俺からバッと離れると騒ぎ出す。
「何なんですか、あなたは! パスを繋げば、他の女のことばかり考えてる! 空を飛んでみせれば、スカートの中を覗く! ホントにもう!」
「いや、今のはリアーナ様が急に飛び上がるからでしょ」
「口答えなんて、ラキウス君のくせに生意気です!」
また出たよ。何その、ラキウス君のくせにって。
リアーナは再びガックリと膝をついていた。
「私の騎士様のイメージはボロボロです。素敵な騎士様と心を繋げて戦う日を夢見ていたのに、私の騎士様はこんなのです」
悪かったな、こんなので。
しきりに嘆いていたリアーナだったが、突然ハッとしたように顔を上げる。
「わかりました、この気持ち。ダメな弟を持った姉の気持ちなんです!」
いや、いきなり何言ってるの? 意味が分からないんだけど。
「ラキウス君、前世でお姉さんがいたでしょう。お姉さんを魔王とか言ってましたが、それは違います! ラキウス君が前世でもダメダメだったから、お姉さんは厳しくしてたんですよ!」
いや、それは多分違うと思う。うちの姉貴に限ってそんなこと考えてない。でも、リアーナは勝手に納得してしまったようだ。
「私もお姉ちゃんとしてラキウス君を厳しく躾けますから、覚悟してください!」
何それ? だいたい、リアーナ様、お姉ちゃんと言うにはポンコツ過ぎるでしょ。でも、彼女はもう完全に俺の姉のつもりでいるようだ。俺はこれからこのポンコツお姉ちゃんとコンビを組むことになるのか。まあ、それはそれで面白いかもしれないな。うん、そう思うことにしよう───。
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