第2話 アラバイン王国
この世界に転生してから5年が過ぎた。
その間、俺なりに色々調べてわかったことがある。
まず、この国はアラバイン王国と言うらしい。
400年前に初代国王、アレクシウス・ドミテリア・アラバイン陛下が建国した国だ。建国神話によると、龍神様に遣わされた竜王ラーケイオス様と協力して魔族を打倒し、建国されたと言われている。
ちなみに俺の名前のラキウスというのは、竜王様にあやかって付けられた名前らしい。 ラキウスとラーケイオスと言うのは発音の違いだけで同じ名である。
ほんとにやめて欲しい。 歴史上の偉人と同じ名前を付けられて名前負けしていると笑われるのは勘弁である。 ましてや相手はこの国の伝説、竜王様だ。そんなのと同じ名前の平民なんてシャレにもならないじゃないか。
そう、俺は平民である。
で、逆説的だが、平民がいるということは貴族がいるのだ。では何が貴族と平民を分けているかというと、魔力の有無である。
この世界には魔法がある。
もっとも、魔力を有している人間はごくわずか。さらに貴族と認められるに足る魔力を持っている者は本当に希少である。 統計がある世界では無いから、正確な数値はわからないが、人口の1%にも満たないんじゃ無いだろうか。
さて、貴族の資格は強い魔力を有していることであって、必ずしも血統ではない。だが、魔力の強さは遺伝によるものが大きく、結果として世襲の貴族が幅を利かせる社会となっているのだ。
ただ、俺は平民でありながら魔力持ちだった。
これは母さんの影響が大きいだろう。母さんは平民にしては大きな魔力を持っており、それで冒険者として暮らしていて父さんと出会ったのだ。 俺の父、マーカスも魔力持ちだったこともあり、俺は平民の中ではかなりの魔力持ちである。
そうは言っても主観的なものだ。魔力の大きさなんて客観的にはわからない。異世界転生と知って、言葉が喋れるようになって真っ先にしたことは「ステータスオープン!」って叫ぶことだった。でも、何も起こらない。レベルとか能力値とか表示されるかと思ったのに残念である。それ以上に両親の「何してるんだ、こいつ?」っていう目が、残念なものを見る目だったけどね。
いずれにしても、小さい頃からかなりの魔力持ちの片鱗を見せていたこともあり、母さんが大喜びで魔法を教えてくれた。身体に魔力を流して強化する方法とか、魔法の術式を起動する方法とか。
今日も今日とて母さんと空き地で特訓である。離れたところで母さんが棒切れをブンブン振っている。
「ラキウスー、行くわよ!」
次の瞬間、母さんの姿がブレた。
「うおっ!」
目の前に振り下ろされる棒切れを、手にした棒切れで必死に受ける。が、一瞬の後、後ろに回り込んだ母さんに、ポコン、と頭を叩かれた。魔力で身体強化しているのに全然追いつけない。
「ダメだぁ、全然勝てない」
今日も10戦全敗。しょんぼりする俺を母さんが慰める。
「子供にしては良くやってる方よ。第一、母さん、現役時代は魔法使えば、この街最強だったんだから」
「父さんより強かったの?」
「もちろん」
「じゃあ何で父さんと結婚したの?」
母さんの目が泳ぐ。
「だって、お父さん、かっこよかったのよ」
はいはい、自分で聞いておいてなんだが、両親のガチの惚気話なんか聞きたくないよ。
「ラキウスも今にかっこよくなるわよ。父さんと母さんの子供なんだから」
良かった、良かった。イケメンと美女の夫婦の間に産まれて将来は女の子にモテモテ確定だな。彼女いない歴=年齢の前世の俺が聞いたら泣いてうらやましがるぞ。
「でも、眼だけ父さんにも母さんにも似てないのよね。何故なのかしら」
俺の瞳は、父の瞳の色とも、母の瞳の色とも違う金眼である。一時期、父さんが真剣に母さんの浮気を疑って険悪な状況になっていたが、周りに金眼の男なんて誰もいないし、医者の「両親と異なる特徴が出るなんて良くあることですよ」の一言で収まった。まあ、その良くあることの何割が、ただの遺伝子の組み合わせによるいたずらかは、当の母親で無いとわからないけどね。いずれにしても金髪金眼。イケメンの卵が俺である。え、調子に乗るな?
そんなやり取りをしていると、特訓の間中、空き地の隅で手持ち無沙汰にしていた妹が、特訓が終わったと見て、トテトテ駆け寄ってくる。
そう、妹ができたのである。やったね、家族が増えたよ!
いや、俺何もやってないけどね。やったのは父さんだけどね。
妹のフィリーナは3歳。可愛い盛りである。
ちなみに前世では姉がいたけど、その関係は一言で言うと、魔王と下僕だった。あんな姉でも、俺が死んだ時は悲しんでくれただろうか。あの頃は、死んだら来世は弟を甘々に甘やかしてくれる優しい姉が欲しいなんて思ってたけど、そんな願いもむなしく俺は長子として生まれてしまった。せめてフィリーナには俺が甘受していた理不尽さを感じさせないよう、優しくしてあげよう。
「にーに、まほー見せてー」
「はいはい、ちょっと待っててね」
魔法をせがむ妹に、火系統の魔法を細かく制御して火の輪をクルクル回したり、線香花火のように散らせたりして見せる。
「すごーい!」
目をキラキラさせるフィリーナに気をよくして、今度は土系統の魔法を操作する。土塊を作った後、一旦バラバラにしてそれを動物の形に組み上げて手渡す。フィリーナは大喜びだ。
「にーに、大好き。フィリーナ、大きくなったらにーにのお嫁たんになる」
嬉しいじゃないか。誰だ、どうせ大きくなったら「お兄ちゃんのパンツとあたしの服をいっしょに洗わないで」って言うようになるなんて言ってる奴は。
そうやって妹と遊んでいると母さんが俺の魔法制御を覗き込んで感心している。
「ほんと、ラキウスって器用よね」
母さんは、しばらく何か考えているようだったが、思いもしないことを提案してきた。
「そうだ、ラキウス、王立学院目指してみない?」
「王立学院?」
「そう、貴族の子弟が騎士や魔法士になるためのお勉強をする学校なの」
「でも、貴族の学校なんでしょ」
「そう思うでしょ。でも平民枠だってあるのよ。競争率凄いけど。騎士や魔法士になれば貴族に取り立てられる可能性だってあるんだから」
「本当⁉」
それは凄い。まあ貴族と言っても、平民上がりじゃ騎士爵か準男爵がせいぜいだろうけど、それでも騎士団や魔法士団に入れば、国から給料をもらえるし、社会的地位もただの平民とは大違いだ。
「それでどうやったら入学できるの?」
「そうねえ、王立学院の入学年齢って14歳だから、それまでに魔力高めて試験受けてってことになるかな」
……魔力を高めるって言ってもなあ。
魔力を高める手っ取り早い方法は魔法を使って戦うことである。そのためには冒険者か傭兵だが、どちらも未成年者お断りってところがネックだ。この国の成人年齢は16歳。14歳の入学には間に合わないじゃないか。
と、そこでふと思い浮かんだ疑問を口にしてみる。
「お母さんは王立学院受けなかったの?」
母さんこそかなりの魔力持ちだ。王立学院を受けていてもおかしくない。
でも、母さんはちょっと遠い目をする。
「母さんはお金が無かったのよね。両親が早くに死んじゃって、その頃は孤児だったから」
そうだったのか。悪いことを聞いてしまった。
「ごめんなさい」
「いいの、いいの。それでね、その時、知り合いの冒険者の人が、冒険者登録の必要の無いサポーターの仕事をやらせてくれてね。それで実績示して、母さん、特例で12歳で冒険者登録認められたんだから」
そうか、16歳にならなくても冒険者登録認められる可能性あるんだ。
「そうだ、ラキウスももう少し大きくなったら、お父さんに頼んでサポーターしてみない?そうしたら魔力高めるにもいいかも」
母さんが提案してくるが、それも遠回りだ。前例があるなら無理やりにでも認めさせてやる。俺はもう少し強くなったら、冒険者ギルドに直接乗り込んでやろうと心に決め、筋トレ代わりにフィリーナを抱えながら家路につくのであった。
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