第39話 真実


「ぶはあ!」


 危なかった。本当に危なかった。


 九死に一生を得る、とはまさにこういうことだろう。


 HPの残りは僅か4。運が良かったと言う他ない。


「ぶっは!」


 声がしたので驚いて隣を見ると、なんとそこにはレナがいた。


「れ、レナ!?」


「あいつら、一体なんなの?」


 レナは俺が驚愕していることなど全く意に介さず、そんなことを聞いてきた。


「俺が聞きたいよ、レナ。本当に、俺が聞きたい」


 俺が心底からの願いを口にすると、レナは俺の方を向いた。


「聞かせてくれる? 何があったのか」


 聞かせるも何もないよ、とは言わなかった。


 俺はその一部始終をレナに語った。





 死んだ、と思った。


 腹を貫いた魔法の槍は、今まで受けてきた攻撃の中で、1番威力が高かった。


 俺はそこでようやく、敵の存在に気付いた。


 推定、30人。


 多分、〈透明化インビジビリティ〉の魔法でも使って、俺に気づかれないように近づいてきたのだろう。

 さすがに何も使わずに近づいてきて全く気が付かないというほど、自分が鈍臭いとは認めたくない。


「逃げろ!」


 俺が咄嗟にした行動といえば、ロイにそう叫んだだけ。

 ロイは一瞬躊躇ったが、俺の有無を言わさぬ目を見て、納得してくれたようだった。

 もしかしたら、自分はこの場では役に立たないと悟ったのかもしれない。


 そしてポポにも、『〈透明化インビジビリティ〉を自分にかけろ』という命令を下した。

 指示ではない。強制力を持った『命令』。

 それから、『この戦闘中は他の魔法を使わないこと』とも。これは〈透明化インビジビリティ〉という魔法の性質上、他の魔法を使うとその効果が切れてしまうからだった。


 そこからは、正直言ってなす術がなかった。


 隙がない。

 7人くらいの戦士が俺に向かって来ている中、後ろでは魔法師が攻撃魔法を撃ちまくる。

 魔法を使えない俺にとって、遠くからポンポン撃たれては歯が立たない。

 それにもうふらふらだった。意識すら朦朧としている中、俺はとにかく川の方に逃げることしか出来なかった。


 で、俺は川に倒れ込むようにして飛び込んだ。いや、もはや倒れ込んだ、と言ったほうがいいかもしれない。


 俺はとにかく潜り続けた。早くいなくなってくれ、という思いを込めて、ひたすら潜り続けた。


 で、奴らの声がなぜだか遠くなっていったから顔を出してみた。





「ていうのが今の俺の状況」


 レナは少し考え込んだ後、『なるほど……』と小さく言った。


「それで、レナはいつの間にログインしてたんだ? それに奴らはなぜ離れていったんだ……?」


「そうね。私にも説明する義務があるわ」


 レナはそう言うと、話し始めた。





 私がログインした時、いや、瞬間とでも言うべきでしょうね。

 ミナトに攻撃魔法が突き刺さってたわ。


 私も咄嗟に〈透明化インビジビリティ〉の魔法を使ってミナトに近付いた。

 でも、私には状況を見守ることしかできなかった。

 下手に手を出して2人ともやられるっていうのが最悪のシナリオだもの。


 そんな時、目に飛び込んできたのがロイくんよ。


 2人くらいに追われて、随分傷を負ってた。

 だからロイくんにも透明化の魔法をかけたの。

 あの2人は見失ってるみたいだったから、多分無事なはずよ。今でも隠れていると思う。


 で、次の瞬間に、ミナトが川に倒れ込んだの。

 死んでたらもうどうしようもないところだったけど、生きているんだとしたら、ミナトを助ける最後のチャンスだと思ったわ。


 私はミナトに〈致命傷の罠リーサル・トラップ〉をかけた。

 覚えてる? 対象が死んだっていう幻影を見せる魔法。


 幻影で作り出した死体は川に流した。

 それでもなお攻撃魔法を撃ち込んできた時はさすがに焦ったけど、〈致命傷の罠リーサル・トラップ〉を重ねがけすることでなんとか対処したわ。


 で、私も〈致命傷の罠リーサル・トラップ〉を使ったせいで〈透明化インビジビリティ〉が解けちゃってるから、ミナトと同じように川の中に息を潜めようと思ったってわけ。

 ミナトが顔を出さないように見張ろうとしたってのもあるけど。





 正直言って、俺は感心していた。


 こういう土壇場で頭がキレるというのは、並の人間が出来ることではない。

 レナがいなければ、俺もロイも、間違いなく死んでいた。そして大きな死の代償デス・ペナルティを支払わなければならなかった。


「ありがとう、レナ」


 心から感謝だ。本当に。


「どういたしまして」


 レナが笑顔で返した、その時。


森林の力・フォレストパワー・大治癒グランドヒール


 ポポの魔法が俺に降り注ぐ。


「あいつ……!」


 最悪だ。これではポポの〈透明化インビジビリティ〉が解けてしまう。そして、奴らに殺されてしまう……!

 たしかに俺がした命令は『は他の魔法を使わないこと』。

 戦闘は終わった、という判定になってしまったのだ。


「助けに行かないと!」


 それまで首から下を川に浸けて話していた俺は、川から上がってポポを助けに行こうとする。


 何もできないかもしれないが、何もしないよりましだ。


 だが、そこで俺が聞いた声は、予想外のものだった。


「隊長! あれ、梟鸚鵡カカポじゃないですか!?」


 遠くから聞こえる声。多分相当大きな声で言っているのだろう。離れていても明瞭に聞こえる。

 そしてその声は、敵意を含んだものではなかった。

 ひとまず安心する俺。


 奴らの会話を耳を澄ませて聞く。


 何度か会話のラリー(主に俺を罵る言葉)を続けた後のことだった。


「可哀想なカカポよ……私たちと来るか?」


 1人がそんなことを言う。


「これは使えそうだな……」


 思わず口角が上がる。


 そして脳内でポポに指示を出す。


 『奴らの言うことに従って、着いていってくれ』と。


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