第39話 真実
「ぶはあ!」
危なかった。本当に危なかった。
九死に一生を得る、とはまさにこういうことだろう。
HPの残りは僅か4。運が良かったと言う他ない。
「ぶっは!」
声がしたので驚いて隣を見ると、なんとそこにはレナがいた。
「れ、レナ!?」
「あいつら、一体なんなの?」
レナは俺が驚愕していることなど全く意に介さず、そんなことを聞いてきた。
「俺が聞きたいよ、レナ。本当に、俺が聞きたい」
俺が心底からの願いを口にすると、レナは俺の方を向いた。
「聞かせてくれる? 何があったのか」
聞かせるも何もないよ、とは言わなかった。
俺はその一部始終をレナに語った。
*
死んだ、と思った。
腹を貫いた魔法の槍は、今まで受けてきた攻撃の中で、1番威力が高かった。
俺はそこでようやく、敵の存在に気付いた。
推定、30人。
多分、〈
さすがに何も使わずに近づいてきて全く気が付かないというほど、自分が鈍臭いとは認めたくない。
「逃げろ!」
俺が咄嗟にした行動といえば、ロイにそう叫んだだけ。
ロイは一瞬躊躇ったが、俺の有無を言わさぬ目を見て、納得してくれたようだった。
もしかしたら、自分はこの場では役に立たないと悟ったのかもしれない。
そしてポポにも、『〈
指示ではない。強制力を持った『命令』。
それから、『この戦闘中は他の魔法を使わないこと』とも。これは〈
そこからは、正直言ってなす術がなかった。
隙がない。
7人くらいの戦士が俺に向かって来ている中、後ろでは魔法師が攻撃魔法を撃ちまくる。
魔法を使えない俺にとって、遠くからポンポン撃たれては歯が立たない。
それにもうふらふらだった。意識すら朦朧としている中、俺はとにかく川の方に逃げることしか出来なかった。
で、俺は川に倒れ込むようにして飛び込んだ。いや、もはや倒れ込んだ、と言ったほうがいいかもしれない。
俺はとにかく潜り続けた。早くいなくなってくれ、という思いを込めて、ひたすら潜り続けた。
で、奴らの声がなぜだか遠くなっていったから顔を出してみた。
*
「ていうのが今の俺の状況」
レナは少し考え込んだ後、『なるほど……』と小さく言った。
「それで、レナはいつの間にログインしてたんだ? それに奴らはなぜ離れていったんだ……?」
「そうね。私にも説明する義務があるわ」
レナはそう言うと、話し始めた。
*
私がログインした時、いや、瞬間とでも言うべきでしょうね。
ミナトに攻撃魔法が突き刺さってたわ。
私も咄嗟に〈
でも、私には状況を見守ることしかできなかった。
下手に手を出して2人ともやられるっていうのが最悪のシナリオだもの。
そんな時、目に飛び込んできたのがロイくんよ。
2人くらいに追われて、随分傷を負ってた。
だからロイくんにも透明化の魔法をかけたの。
あの2人は見失ってるみたいだったから、多分無事なはずよ。今でも隠れていると思う。
で、次の瞬間に、ミナトが川に倒れ込んだの。
死んでたらもうどうしようもないところだったけど、生きているんだとしたら、ミナトを助ける最後のチャンスだと思ったわ。
私はミナトに〈
覚えてる? 対象が死んだっていう幻影を見せる魔法。
幻影で作り出した死体は川に流した。
それでもなお攻撃魔法を撃ち込んできた時はさすがに焦ったけど、〈
で、私も〈
ミナトが顔を出さないように見張ろうとしたってのもあるけど。
*
正直言って、俺は感心していた。
こういう土壇場で頭がキレるというのは、並の人間が出来ることではない。
レナがいなければ、俺もロイも、間違いなく死んでいた。そして大きな
「ありがとう、レナ」
心から感謝だ。本当に。
「どういたしまして」
レナが笑顔で返した、その時。
〈
ポポの魔法が俺に降り注ぐ。
「あいつ……!」
最悪だ。これではポポの〈
たしかに俺がした命令は『この戦闘中は他の魔法を使わないこと』。
戦闘は終わった、という判定になってしまったのだ。
「助けに行かないと!」
それまで首から下を川に浸けて話していた俺は、川から上がってポポを助けに行こうとする。
何もできないかもしれないが、何もしないよりましだ。
だが、そこで俺が聞いた声は、予想外のものだった。
「隊長! あれ、
遠くから聞こえる声。多分相当大きな声で言っているのだろう。離れていても明瞭に聞こえる。
そしてその声は、敵意を含んだものではなかった。
ひとまず安心する俺。
奴らの会話を耳を澄ませて聞く。
何度か会話のラリー(主に俺を罵る言葉)を続けた後のことだった。
「可哀想なカカポよ……私たちと来るか?」
1人がそんなことを言う。
「これは使えそうだな……」
思わず口角が上がる。
そして脳内でポポに指示を出す。
『奴らの言うことに従って、着いていってくれ』と。
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