第19話 決着

 死闘であった。


 鎧は至る所が歪み、大蛇の牙によって穴が空いた所もある。さらに言えばレオン自身も毒によるスリップダメージを受けている。

 それは他の3人も同じで、全員のHPが1割を切り、スキルもほとんど使い切ってしまった。


 それでも、猛毒大蛇ジャイアント・ポイズン・スネークは既に虫の息。地面に伏して、トドメを刺されるのを待つことしか出来なかった。


 レオンは毒のデバフでふらふらになりながらも大蛇に歩み寄る。最後の一撃を与えるために。


「これで……終わりだ!」


 剣を大きく振りかぶる。


 〈斬撃〉というスキルの最後の一回を使う。



 その一撃は——空振りに終わった。





「面白い考え……ですか?」


「あぁ、面白い考えだ」


 俺が笑いながらそう言う。


「このまま戦闘が続くと、多分お互いがボロボロになりながらの決着になると思うわ。勝つのは多分、羅刹天の方だと思うけどね」


 説明を始めたのはレナだ。レナと俺の考えは恐らく同じだろう。


「……もしかして!」


 それだけでロイは察したようだった。


「えぇ、そういうこと。決着間際に、全部持っていけば良いのよ」


 醜悪な顔に似合う悪そうな顔だ。


「具体的にはどうする。この戦闘が終わる前に、それを詰めよう」


「そんなに難しいことにはならないと思うわ。まず、この戦闘をこのまま続けた場合、勝つのは羅刹天だと私は思う。ミナトはどう?」


「俺も同じだ。ギリギリにはなるだろうが、ヘビの方も攻め手を欠いてきている」


「そこの意見は一致ね。良かったわ。——私は羅刹天がヘビにトドメを刺すその瞬間に、介入したいと思ってる」


「大丈夫か、それ。手遅れにならないか?」


「厳密にはもっと前からってことになるんだけど……」


 俺としてはなかなか話が見えない


「詳しく説明してくれ」


「えぇ。今もそうなんだけど、羅刹天のメンバーは毒のデバフによって、意識や注意がそれほど明瞭ではないわ」


「そうだな」


「そこで私は、猛毒大蛇がやられる直前に幻術をかけようと思ってる」


「なんの幻術を?」


「猛毒大蛇の幻術を、よ。倒される直前に幻の大蛇を生み出し、本体は森の保護色になるように幻術をかける」


「なるほど。ようやく見えてきた気がする」


「デバフによって注意が散漫になった4人はそれに気づかない。そのときには既に勝ちを確信しているでしょうしね。するとトドメの一撃は当然空振り。全員が油断してるし、背後は取りやすい。あのレオンとて、そんな場面での奇襲は対応出来ないはずよ」


「そして4人を倒して、瀕死のヘビをゆっくり料理する、ってことか」


「そういうこと。レオンはミナトに任せて良い? 近づくときは〈隠密〉を発動してね。私も幻術でフォローするから」


「オーケー。残りの3人は?」


「カエラとイグバルって人は私がやるわ。攻撃魔法を撃ち込む。でもミリナは任されてくれない? 多分接近戦の方が分が良いわ」


「了解。俺はレオンを倒した後、ミリナに向かってダッシュ、でいいな?」


「えぇ。ロイくんはミナトのサポートをお願い。私はひとりで大丈夫だと思うから」


「わかりました!」

 

 小さい声で、しかし気合を入れてロイは答えた。


 

 そのときは、近づいてきていた。





「へ?」


 その鎧の主に似合わない、素っ頓狂な声が、レオンから漏れた。

 しかしそれも無理はない。目の前から瀕死の大蛇が姿を消したからだ。



——グサリ。



 嫌な音が背後から聞こえる。

 何が起こったのか、レオンには理解できなかった。


 猛毒大蛇との死闘で、僅かに14だけ残っていたHPは、0を示した。   


 瞬時に振り返ると、そこには既にこちらに背を向けた、『なにか』がいた。


 レオンはポリゴンとなって消えた。





 レオン撃破!作戦通りだ!


〈レベルが15に上がりました〉


 一気に15!? とんでもないぞこれは。


 俺は〈疾走〉を発動させ一気にミリナに詰め寄る。


「〈二重魔法付与・炎ツイン・エンチャント・ファイア〉」


 その間にロイは魔法を発動。


 それと同時に脳内でも声が聞こえる。


〈プレイヤーをキルしました。今後、PNが赤で表示されます〉


 そういえば聞いたことがあるな。プレイヤーをキルしたプレイヤーは名前が赤で表示されて懸賞金もかかるとかなんとか。


 まあそんなことは魔物である俺には関係ない。


 そんなことを考えている間にミリナが剣の間合い。


 その間、ミリナは一歩も動かず、ただ俺を怯えた目で見つめるだけだった。


〈斬撃〉


「ほ、〈聖なる光線ホーリー・レイ〉」


 ミリナはなんとか詠唱を完了させるが、発動する前に、俺の剣がその腹を引き裂いた。


 ミリナはポリゴンとなって消える。


「終わったかぁー!?」


 俺はレナの方を向く。レナの相手は既におらず、無傷で仁王立ちするレナだけがそこにはいた。


〈レベルが17に上がりました〉


「えぇ。カエラとイグバル、撃破よ!」


 ピースを作った手を突き出してレナが言う。


「あとは……こいつだけね」


 既に虫の息で倒れ伏す大蛇を、レナは見つめた。


「どうやって倒す? 経験値は均等に分配されるんじゃなく、貢献度によって決められるんだろ? これ、一撃で死んじゃわないか?」


 一撃で死んでしまってはうまく分配できない。

 ちなみに、いくら貢献度が高くても戦闘中に死んでしまった者には経験値は一切入らない。つまりレオンたちに経験値が入ることはないのだ。

 だから猛毒大蛇を殺させることなく幻術までかけて大事に取っておいたのだ。


 レナしばらく考えるそぶりを見せたあと言う。


「……ミナト、あなたに譲ってあげる」


「え? 良いのか、レナは」


「私はさっきの2人を倒して21レベルになったし。ミナトはきっとそれより低いでしょ? それに、ミナトがいなかったらこんな作戦無理だったし」


 それを言うならレナがいなくても到底無理だったとは思うが、この厚意はありがたく頂戴することにする。


「ありがとう」


 短くそれだけ言って、俺は〈斬撃〉を発動させた。


 猛毒大蛇はポリゴンとなって消えた。



〈レベルが20に上がりました〉








———————————————————————


ここまで見てくださってありがとうございます!

短かったですが、これにて第1章『カルティエ大森林編』は終了となります。

この後掲示板回(1話)と閑話(2話)を挟んで、

第2章『魔銀ミスリル争奪戦争編』へと移ります。

ここで投稿間隔を開けるといったことはないので、これまで通りお付き合いいただければ幸いです。

⭐︎とフォローも是非よろしくお願いします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る