第17話 決戦へ
「このカルティエ大森林、魔物がやけに弱いな」
ギルド『羅刹天』の選抜メンバー4人は、昨日の会議の通り、エリアボスを倒すべく動き出していた。
「そうね。前の湖沼エリアより随分弱い。何か裏があるのかしら」
ミリナは心底不思議そうにそう言う。
「意外と理由なんてないんじゃないか? この運営はやるだろ。こういうこと」
返したのはレオンだ。銀のフルプレートを纏っている。
「そうだよ。考えたって仕方ない。目的はあくまでもエリアボスなんだから。弱いのはラッキーくらいに思わないと」
お気楽にもそう答えたのはカエラ。身軽な鎧を纏う盗賊風の女だ。
「にしても広いねー、まるで抜けそうにないし」
「都市長の言っていた通りだな。少し時間がかかるかもしれんな」
そう言ったレオンに、これまでほとんど話さなかったイグバルが地図を凝視しながら返した。
「いえ、もう少しでボスがいると思います。プランの確認をしておきましょう」
「おっ、そうなのか。では確認をしておこう」
4人が歩みを止めることはない。あくまでもボスの方に進みながら話す。
「基本的に攻撃は俺が受ける。ミリナは後ろで援護と回復に努めてくれ」
これはいつも通りなので、ミリナは声に出すこともなく、首を振ることだけで返事をする。
「カエラは隠密を発動しつつ、ダメージを稼いでくれ。なるべく攻撃を受けないようにな」
「りょーかい!」
カエラはふんす! と気合を入れ、元気よく返事をした。
「イグバルは後衛でスキル
イグバルが修めている
「……はい」
小さな、しかしはっきりと聞こえる声でイグバルは応える。
「まあプランの確認といっても、何か特別なことをするわけじゃない。いつも通りのことをやれば勝てるはずだ」
「そうね。変に肩肘張る必要は無いと思うわ」
「次は、エリアボスのことも確認しておこう。種族名は
羅刹天が猛毒大蛇について知っていることは、実を言うとこれくらいだった。
都市長や冒険者からの話、図書館から引っ張り出した
それらを持ってして、手に入れた情報は即死効果のある毒霧を持つことくらい。
レオンたちには、それで充分だという自信があった。
「……見えてきたよ」
最初に見つけたのはカエラだった。斥候という職業も修めているカエラは、敵の発見や地形の調査においては羅刹天でも右に出る者はいなかった。
「あぁ」
他の3人もその蛇を視界に捉えたところで、レオンの前にウィンドウが現れる。
〈エリアボス:
レオンはゆっくりとNoを押した。
これは猛毒大蛇と戦わないということでは無い。
戦うことは決定としても、Yesを選んだときとNoを選んだときとでは、それぞれメリットとデメリットがある。
まずはYesを選んだとき。ここでYesを選ぶと、戦闘エリアが完全に封鎖され、戦闘中、他のプレイヤーに邪魔をされることがなくなる。人の多い地帯で戦うときは、これは必須だ。
しかしデメリットもある。それは、敵から逃げられないということだ。当然だが、戦闘エリアが完全に封鎖されるということは、外から邪魔することが出来なくなるが、同時に中から出ることも出来なくなる。
このデメリットのために、レオンはここでNoを押した。最前線を走っていることを自負しているレオンたち羅刹天は、エリアボスとの戦闘中に邪魔が入ることはまず無いと考えている。
レオンたちは馬鹿ではない。負け戦を悟ればすぐに逃げる。実際、エリアボスから逃げ仰たこともあった。だが、死んだことはない。死にさえしなければ、決定的な敗北ではないとレオンは言う。
HPが0になれば、
5レベルのダウン。死亡した戦闘への復帰不可。所持金の半分消失。アイテムボックスにあるアイテムをランダムでひとつ消失。
これらのデメリットは、膨大な資産と他とは一線を画したレベルを有する羅刹天にとっては致命的ともいえるものだ。
当然そんなリスクは犯さない。
Noを押し終えたレオンは猛毒大蛇に目をやる。
猛毒大蛇も、レオンたちに気づく。
「いくぞ!」
「おうっ!」
レオンの発破にカエラだけが応える。
ミリナも気合いの入った表情を浮かべ、イグバルは俯きがちに口角を上げた。
「シャーッ!」
猛毒大蛇もそれに応えるように、口をいっぱいに広げて威嚇した。
*
「おはよう、レナ」
「おはよ、ミナト」
「お、おはようございます。ミナト様、レナ様」
決戦当日。俺たちは大岩の前でログインし、落ち合った。
「いよいよね。このエリアボスに勝てば、私たちが最前線よ」
「早速だが……いくか」
「えぇ。でも作戦は……」
「俺が前衛、レナが後衛。ロイは武器に魔法付与。それ以外にあるか?」
正直、そんなに捻ってうまくいくことはないように感じる。ここは正面からやり合うのがいいだろうと昨日2人で結論を出した。
「それもそうね」
俺は大岩を一瞥する。視界の端にユーライの姿を見つけた。
「じゃ、いってくる」
それだけ言って、俺は歩き始める。
「ご武運を」
背中にユーライの声がかかった。
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