第4話 高校生なのです

「今日もしけたツラしてんねー、ミナトくん」


 今日は1学期最後の登校日。即ち明日から夏休みという訳で、一段とテンションの高い友人、片山かたやま つよしがおちゃらけたように話しかけてくる。


「眠いの。昨日はセカライばっかりだったから」


「おいおい、夜の0時にリリースされたゲームをもうやってんのかよ」


「ツヨシもやったでしょ。どーせ」


「当然」


 ニッというような笑顔を作るツヨシ。セカライの話をしたくてきたんだろう。


「種族はどうしたんだよ、ミナト」


「内緒」


 さすがにムカデであるとはバラせない。ゲーム内で出会ったら別だけど。


「んぇー! なんでだよ。いいじゃねーか、それくらい」


「そういうツヨシはどうしたのさ。人間?」


 この話題に限り、ツヨシに語らせた方が良いと判断した俺は、即座に話を逸らす。

 内緒にしたいことが多すぎる。


「なわけあるかよ。俺は巨人ジャイアント! 筋力とHPに大幅上方補正! どうよ、強くない?」


 巨人ジャイアントは確か選択出来る種族だったはずだ。

 まあ、脳筋なところのあるツヨシにはぴったりかもしれないな。


巨人ジャイアントって、街に入れるの?」


「入れるぜ。進化先によっては後々入らなくなるってことはあるけど、少なくともライトワンには入れてる。あぁ、国によっても別とかなんとか言ってたな。あのNPCは」


「へぇ」


 巨人ジャイアントって確か、3メートル以上あったと思うんだけど、それは大丈夫なのか。異世界の価値観おそろしや。


「おはよう。ミナトくんにツヨシくん」


「おはよ。ソーイチ」


 彼は幼馴染である西野にしの 創一そういち


 幼馴染で1番の友人(恐らく)である俺に対しても『くん』と付けるほどに気弱で奥手な彼だが、テストではいつも1位を争っているし、運動もクラス内ならば1番を目指せるくらいには出来るというハイスペックぶり。

 顔もかなり良いし、女子にもモテる。本人はそれに気づいていないらしいが。

 そして何よりいいヤツだ。ソーイチ以上に優しいヤツを、俺は見たことがない。


「おはよう! 創一もやったか? セカライ!」


 ツヨシが勢いよくソーイチに迫る。


「や、やったよ。キャラメイクだけ。夜遅かったから」


「優等生だねぇ。創一くんは。で、どの種族にしたのよ」


「僕ランダムにしちゃって……」


 む! これは聞き捨てならない。

 と思ったのだが、先に反応したのはツヨシだった。


「ランダム!? あの特大地雷と噂の?」


「地雷?」


 またしても聞き捨てならないワードだな。


「いや、ランダムを選んだ場合、50%で人間、30%で選択可能な亜人、15%で選択可能な魔物。残りの5%がランダム限定の種族ってことになってるんだぜ? 95%で選択出来る種族になるんだから、初めから選んだ方が絶対ぜってーいいよ」


 そうだったのか。


「そうだったんだ」


 ソーイチの声と俺の心の声がリンクする。

 まさかそんなに低い確率を引いていたとは。


「それに運営はリセマラさせる気が一切ないからな。種族を選択した時点でデータは削除出来ないし、新しいソフトを買っても脳波で同一人物判定喰らうし。ヘッドギアもそう」


「それは随分と攻めたな」


「まあ、ランダムを選んだお前が悪いってスタンスなんだろうな。それを面と向かって言えるだけの力はある。今のVR界を引っ張ってる3社だからな。誰も文句は言えん」


 なるほど。


「やけに詳しいね。ツヨシくん」


「まあな! セカライをするにあたっての前準備は完璧ってわけよ」


 ツヨシの話からすると、百足人センチピートマンの希少性は物凄いってことになるな。


「で、ソーイチは何になったのさ」


 話を戻す。気になるし。


「ツヨシくんの話では、どうやら僕は5%を引いちゃったみたい……」


 おいおい君もかい。5%って本当なのか? 今のところ2/2だぞ。


「マジで!? すげぇ……」


 目を丸くして驚き、ひとりでぶつぶつ言ってるツヨシは置いておくことにする。


「それで、なんて種族?」


精霊エレメンタルって言ってたと思う。たしか」


 精霊エレメンタルか。聞いたことはないな。


「精霊? 妖精じゃなく?」


 自分の世界から戻ったらしいツヨシが問う。


「うん。そう言ってたよ。それに説明文には『実体がない』とも書いてあったから、全然想像つかないんだよね」


「実体がない? そんなこともあるのか。さすがセカライだな。となると……」


 再びツヨシは自分の世界に没入する。


 そんな折、教室の空気が変わった。


天音あまねさんだね」


「天音さんだな」


 扉の方に目をやれば、クラスの——というか学校の超人気者、天音あまね 有栖ありすが登校してきたようだった。


「人気だね。天音さん」


「人気だな。天音さん」


 ソーイチはやけに天音さんを気にしている節がある。……好きなの?

 ソーイチとならお似合いな気もするけど。


 成績優秀、身体能力抜群、ルックス超抜群という彼女は、今のように登校しただけで人だかりができてしまう。

 テストでソーイチと1位を争っているのも彼女だ。というかこの2人が抜けすぎて3位以下は入る隙がない。

 

「有栖ちゃんもやった? セカライ」


 むむっ。


 気になる単語が聞こえ、思わず聞き耳を立てる。


「やったわよ。少しだけね」


 へぇ。少し意外だな。


「それで、種族は何にしたの? 森妖精エルフとか? それともやっぱり人間?」


「それは——」


 言いかけたところで、チャイムと先生が同時にやってきた。


 天音は鼻に指を当てて『内緒』というポーズを作り、女神のように微笑んだ。

 




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