ささくれ

「そうなんだ、気をつけてね」

 今月中に申請しなければいけない手続きがあったので有給を取って市役所に行くことを伝えると、夫くんは大変だねという顔をして会社に出かけていった。

 行ってらっしゃいと笑顔で手を振るその内側で普段は気にならないその言葉や表情がなんとなく心をざわつかせた。わたしはどんな言葉が欲しかったのだろう。ご苦労さまとかのねぎらいの言葉だろうか。それとも用事を代わって欲しかったのか。

 夫くんは家族思いだと思うし、子育てにも協力的なのだと思う。けれども、どこか受け身な部分が時折わたしの胸の奥にあるなにかを小さな針で突っつくのだ。

 娘はいつも通りに保育園に預けるつもりだったのだけれど、園ではインフルが流行ってるらしく、どうにも間が悪い。今日は自分で見ることにした。市役所にひなこを連れて行くのは正直大変なんだけど仕方がない。こういったことが重なって、気持ちを重くしているなあと自覚するのだった。

「じゃあひなちゃん、お出かけの準備しようか」

 最低限の家の中の細々としたことを終えて、一歳半になる娘に呼びかける。パズルを片付けさせたらトイレに連れて行って、お茶を飲ませて、着替えて──。家を出るまでの手順を頭の中で確認しながら、並行して自分の準備もしていく。

 そう言えば夫くんは、ひなこが今日は保育園に行かないことに気づいていただろうか。

 事前にまとめてあるお着替えセットをカバンに突っ込みながら、そんなことをふと考えるのだった。


 了



 KAC2024のお題で書こうとしたのだけれど、後半がうまく消化できなくてここに。

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