第2話 珍客到来

 そうしてアントワネットの衝撃的な真実を知ってしまったものの、学院生活は予想外に順調だった。水島さんの人格が入ったアントワネットなんて修羅と阿修羅のキメラだと思っていたのだが、どうやら水島さんも改心したらしい。例えば、アントワネットが従者に横柄な態度をとるように、水島さんも派遣の子にキツく当たるタイプだったのだが、今はなんと従者に「ご苦労様、いつもありがとう」なんて言うのである。もちろんヒロインを虐めてなんかいないし、それどころか優美で親切で(文字通り人が変わっているのだから当然だが)「人が変わったよう」だと言われている。


「アントワネット、あなたも本当に変わったわよね。昔は従者相手に悪口しか言ってなかったのに」


 お陰でついつい口にしてしまったことがある。するとアントワネットはその可愛らしい顔にそっとうれいを浮かべた。


「私、反省したのよ」

「反省……」


 アントワネットの辞書に反省・後悔・謝罪はなかったのに。


「というか、今までの自分が信じられないわ。生まれ持った身分が違うだけで無条件に主人に尽くさなきゃいけないなんてただでさえ理不尽でしょう。それなのに自分が主人というだけで偉そうに振舞うなんて傲慢だわ」


 すごい。言ってることはものすごく普通だけれどこの世界で言うとまるで名言だ。さすが水島さんという名の別人格・令和の日本人が入っているだけある。


「……アントワネット、昔は前世の善行や悪行が現世の身分に影響するって話してたのにね」


 もちろん続きは「だから従者が従者の身分を嘆くなんて厚顔こうがん無恥むちはなはだしいわ!」であった。


「もちろんそれは今も変わってないわよ。でもほら、ノブレスオブリージュって言葉があるじゃない、それと一緒よ」


 それは別の話だし、水島さんが伯爵家の令嬢に転生できて当然だなんて、銀城を寝取ることを帳消しにできるほど一体どんな善行を積んでいたというのだ。いや寝取られたわけじゃないけど。


 そんなアントワネットを従者達がどう思っているかというと「使用人一同、混乱していないといえば嘘になりますが、学園入学を機に一層淑女らしくなられたのだと感服しております」とのことだった。十割十分十厘気遣いでしかない変換に私のほうが感服した。この世界の主従関係というのはすごい。


 それはさておき、件のアントワネットを悪役令嬢とした婚約破棄&追放イベントの行方はというと、アントワネットは入学当時から一生懸命婚約破棄を“狙っている”。


 どうやらアントワネットがプレイしていたゲームとは若干仕様・・が違うらしく、フレデリク殿下がダメ男なのだそうだ。ゲームヒロインとの接触も、ヒロインが積極的に働きかけるまでもなく、フレデリク殿下自ら関わり、婚約者アントワネットを差し置いて二人で出かけ、仲を深め、挙句の果てに「私は国のために仕方なくアントワネットと……」と愚痴を漏らしていると。そんな男は願い下げだと、アントワネットは見切りをつけたらしい。


 とはいえ、フレデリク殿下がそんな感じなので、アントワネットが積極的に悪女ムーブに出ることはなく、ただフレデリク殿下とヒロインの仲を静観しているそうだ。物分かりのいい女ポジションってヤツである。


 閑話かんわ休題きゅうだい


 そうして学院の卒業まで残り三ヶ月、フレデリク殿下はヒロインと仲良くなる一方でアントワネットを邪険にし始めたが、アントワネットは全く気にしないどころか生き生きと学院生活を楽しんでいる。


「ところでシルヴィア、もう学院生活も折り返して随分経つわよ? そろそろ婚約者を見つけてはいかがかしら?」


 こうして他人の世話を焼く余裕もある。


 しかし余計なお世話というヤツである。私は前世の銀城しつれんを引き摺ったままだ。傷を癒そうにも、毎日毎日隣にアントワネットという名の水島さん恋敵がいては忘れられるものも忘れられないというもの。


 それをくとしても、享年25歳に現在16歳、記憶がよみがえったのが3歳なのでその分を引くとしても精神年齢は単純計算38歳に等しく、ただでさえ女性より精神年齢が低いと言われる男性と私の精神年齢が、もはや中学生と社会人並みに乖離してしまっている。端的に結婚自体が犯罪になる(精神)年齢の差だ。せめてアントワネットのように妙齢のキャラに突然降臨すればよかったが、こちとら3歳のときには転生していた。それなのに同い年の男性と結婚しろなんて無茶な話、これぞまさしくムリゲーである。


「そうね……。でも私はもう諦めているから、お父様には涙を呑んでいただこうと思って」

「でも卒業記念パーティで踊るお相手がいないなんて屈辱的じゃない? それに学院で婚約しなかったら結婚できないと決まっているようなもの、あとはもう修道女になるくらいしかないし……」

「そのときはそのときよ。卒業してから考えるわ」


 呑気な返事に「だから、卒業時に相手がいないともう修道女にしかなれないのよ?」とやきもきされても、好きな男ができないものは仕方がない。




 そんなある日、新年のパーティに珍客が現れた。


「見て、ベルンハルト殿下とロード・ルトガーよ」


 隣のミヌーレ王国のベルンハルト王子と、その護衛ルトガーのお出ましだった。


 噂には聞いていたが、二人は遠目にも分かるほどの美貌の持ち主で、さすがの私も唖然とした。


 ベルンハルト・ホルテンシア第一王子は、ギリシャ彫刻のように彫が深く、それでいてどこか繊細な美しい顔立ちで、髪と同じ藍色の瞳はまるで海の水晶。ただ、その双眸はどことなくうれいを帯びているというか、表情全体にかげりが見える。それでもその雰囲気さえベルンハルト殿下の美しさを際立てている気がした。


 そしてその護衛、ジルヴァン公爵デュークの嫡子ロード・ルトガーは、美しい金髪に、穏やかでそれでいて涼やかな碧い目をしていて、最初から細やかに計算し尽くして作られた硝子がらす細工ざいくのように美しい顔をしていた。


 二人は、フレデリク殿下に挨拶した後はどこの令嬢と踊るでもなく談笑を決め込んでいたのだが、偶然にも私が休んでいるテラスに涼みにやってきた。


「おや、先客がいらっしゃいましたか」


 二人とも近くで見ると迫力のイケメンで、男は精神年齢がどうのこうのとぼやく私も「眼福」以外出てこなかった。


「失礼いたしました、ベルンハルト王子殿下、ロード・ルトガー。私はホールに戻りますので、どうぞごゆっくりなさってください」

「構わん、先にいた側が席を外すことはない」


 そうして見惚れて硬直してしまうこと2秒、慌てて正式な礼をとったが、隣国の王子様は見た目によらず気さくらしい。


「エクロール王国から参った、ベルンハルト・ホルテンシアだ。名前をおうかがいしても?」


 知ってる。というか入ってきたとき知った。多分知らないヤツいない。というか王子が先に名乗るなんて気さく通り越して腰が低すぎて床につく勢いだ。慌ててもう一度膝を折った。


「失礼いたしました、私はシルヴィア・ブランシャールと申します。ご丁寧に恐縮でございます、ベルンハルト殿下」

「私はジルバン公爵家嫡子のルトガーと申します。平たく申し上げますと、ベルンハルト王子殿下の護衛として参りました。お見知りおきを」

「こちらこそ。“王の盾”と名高いロード・ルトガーにお会いできるとは、光栄でございます。お二方とも、ようこそシリゼ王国にいらっしゃいました」


 隣国から王子とその護衛がやってくることは、私は父伝いに聞いていた。同盟政策の一環で、この春学期の3ヶ月間だけ交換留学をするのだそうだ。つまりこれから卒業までの3ヶ月間は共に学院で過ごすことになる。


「レディ・シルヴィア、そうよそよそしくなさらないでください。私達はこれから同級生ですし、私のことはルトとでも呼んでいただければ」

「おい、他国に来てまで女性を口説くな」

「ついでに殿下のことはベルとでも呼んでいただければ」

「お前が言うことじゃないだろう」


 穏やかな笑みを浮かべるロード・ルトガーに、口を尖らせながらも否定はしないベルンハルト王子殿下。二人とも身分のわりに権高けんだかさはなく、そのまま冬の夜空の下で三人で談笑することになった。


「ところで、ブランシャール家のシルヴィアとはあのレディ・シルヴィアだろうか?」


 そこそこ話も盛り上がったところで、不意にベルンハルト殿下がそんなことを口にした。あのそのどのこのレディ・シルヴィア、ブランシャール家のシルヴィアは先祖代々私だけだ。


「……“あの”とは?」

「大層変わり者と有名だ、“ブランシャール家の奇娘”と」


 ニヤッと悪戯っぽく笑われ、こっちはヒクッと頬をひきつらせた。


 女なんていい家にとついでなんぼで、それどころか令和の日本と同じノリで勉強と仕事ができる女は「女のくせにはしたないッ」と敬遠されてしまうこの世界。好きな男と営業のエースを争った男勝りな性格を持ち、転生を機に天才児になろうと張り切ってしまった私は、最初は「私の武器が……」と肩を落としたが、アントワネットの度重なる嫌がらせでその評判が地に落ちた後は「もう結婚なんてできなくね?」と開き直って好き勝手やっていた。


 結果、なんと「ブランシャール家の奇娘きむすめ」なんてとんでもない異名を隣国にまで轟かせてしまっていたらしい。まさかモテないのにかこつけて生娘とかけてんじゃないだろうな、誰だそんな不名誉なことを言いやがったのは、と発信源をぶん殴りたい。多分こういうところがはしたない。


「……お恥ずかしながら、おそらく、いえ間違いなく、私でございます……」

「恥ずかしがることはない、有名なのはいいことだ」

「意外とポジティブな方なんですね、殿下」


 そりゃ無名よりいいかもしれないが、それは悪名というのだ。つい投げやりな返事をしてしまったのだが、予想通り、ロード・ルトガーは「顔は辛気臭いんですけどね」と笑い飛ばしたし、ベルンハルト殿下はそんなロード・ルトガーを飾り剣で殴って親愛なるツッコミを入れていた。


「冷えてきましたね、そろそろ戻りましょうか」

「そうするか。ついでと言っては失礼だが、レディ・シルヴィア、私と一曲踊っていただいても?」

「光栄でございます」


 この世界で踊りを断るのは「鏡で面見て出直せ」と同義だし、何よりベルンハルト王子殿下は顔が良いし、この感じならいい友達にはなれそうだ。はい喜んで、と居酒屋みたいなノリを口に出しそうになったのを慌てて抑えて手を差し出した。


 そうして足を踏み出した瞬間、今まで踊った坊ちゃん達の未熟っぷりを否応なく知るところとなった。ベルンハルト王子殿下は単純に踊りが上手いだけではなく、リードしてくれる体の安定感が違う。エクロール王国は王自ら軍を率いる国だし、鍛え方が違うのだろう。踊りながらペラペラ自慢話をするでもなく、ただ黙ってクールにこなすのもポイントが高い。そしてダメ押しとばかりに間近に迫るいい顔……。


 これは、一曲で骨抜きになるな。柄にもなく赤面してしまいそうになりながら、意識してベルンハルト殿下の顔から視線を逸らした。ろくに美肌ケアもできないこの世界でなんだその肌理きめの細かさは、と悪態でもついて恥ずかしさを誤魔化したかった。睫毛だって長すぎだ、前世にいたら睫毛美容液のCMに引っ張りだこだったろう。


 さっきまで話していて思ったけれど、精神年齢の低さもないし、むしろ年齢不相応なくらい落ち着いている。これが王子の風格というヤツなのかもしれない。転生して初めて、十年ぶりくらいにトキメキさえ感じた。


「優雅な踊りでしたね、レディ・シルヴィア」


 踊り終えると、私達を冷やかすようにロード・ルトガーが微笑んでいた。


「ブランシャール家の奇娘とはいかにと思っておりましたが、見た目のとおり大層可憐でお美しい」

「ロード・ルトガーにそう言っていただくのは畏れ多いですよ」


 というか通り越して嫌味まである。そのくらいベルンハルト殿下とロード・ルトガーの顔が綺麗なのだ。


「お前、口を開くと口説き文句しか出てこないのか?」

「そういう殿下こそ、舞踏会で挨拶以外にろくに女性の手を取ることもないのに。かこつけて踊るとは、よほどレディ・シルヴィアがお気に召したのでしょう?」


 ゴンッ……と痛々しい鈍器ツッコミの音が響いた。なお、二人は乳兄弟らしく、あまり主従関係らしさがない。「痛いですよ殿下」「当たり前だ、痛めつけたのだから」「エクロール王国が野蛮な国だと思われたらどうするんです」と続く遣り取りを見つめていて――。


「では、今期の代表プリミエを発表いたします――」


 舞踏会が終わりに近づいていることをすっかり忘れていた。秋学期と春学期、それぞれで最も優雅な踊りを披露したカップルに与えられる称号の発表だ。


「あれ、もうそんな時間ですか?」


 ついホールの前方に目を向けると、学園長が「フレデリク殿下、そしてレディ・アントワネット」と2人の名前を呼ぶところだった。


 そういえば、アントワネットがぼやいていた。「新年パーティで私はヒロインのドレスに難癖つけて、しかも代表プリミエに選ばれて、ヒロインに殿下との仲を見せつける悪女ムーブをかますのよね。それが殿下に嫌われるひとつの原因になるんだけど」と。他人のドレスに難癖って、なんてアントワネットらしい意地悪なんだ、私が抱いた感想はそのくらいだった。


「そういえば、さっき玄関で少し騒ぎがあったようですよ。なんでもレディ・アントワネットがどこかのご令嬢におとしめられたようで」

「どちらのご令嬢ですか?」

「名前は存じ上げませんが。長く美しい黒髪のご令嬢でしたよ」


 その目で見たことを思い出すように、ロード・ルトガーは少し遠くへ視線を動かした。


「なんでも、レディ・アントワネットのドレスと同じ赤色のドレスを身に纏い、フレデリク殿下の心を惑わそうとしたとか。私は詳しいことは存じ上げませんが、ねえ殿下」

「令嬢が何人か騒いでいるのは聞こえていたが、内容は知らん」


 なるほど間違いない、アントワネットは婚約破棄の一要因となる悪女ムーブをぶちかましたらしい。


 慌ててホール内を探すと、黒髪に赤いドレスのご令嬢はすぐに見つかった。遠目にも分かるくらい、みじめそうにうつむいてひとりでポツンと立っている。きっとアントワネットの取り巻きにいびられたせいで彼女を相手にする男がいないのだろう。


「……ロード・ルトガー」

「なんでしょう、レディ・シルヴィア」

「よろしければ最後に踊っていただけますか?」

「もちろん、喜んで」

「あちらのご令嬢と」


 ヒロインを示すと、ロード・ルトガーは金色の睫毛を不思議そうに上下させた。


「あちらの方は、現状、この国において重要な地位を占めてはおりませんが、ここだけの話、そうなるものと目されております。それだけの能力が彼女にはあるのです」


 アントワネットによれば、ヒロインはアントワネットからフレデリク殿下を強奪し、シリゼ王国の王妃となる。アントワネットは仕様変更が云々とぼやいていたが、私の知るフレデリク殿下は、色香に惑わされる馬鹿な王子ではない。


 ということはつまり、ヒロインにはなんらかの特殊能力がある。


 フレデリク殿下がアントワネットと婚約するに至った決定打はアントワネットの持つ『聖域指定』という広域回復能力。魔法なんてドンドコ好きなだけ使えると思っていたけれど実は体力と同じように限界があり、ゆえにその魔力回復がかなめとなる以上、女性限定の回復系能力が圧倒的に重宝されるのだ。残念ながら私にはそんなものはなく、そんなところまでこの世界の女性らしさに欠けている。


 私の話はともかくとしても、つまりここでロード・ルトガーがヒロインに恩を売り、くっつくことになっても、それはロード・ルトガーにとって悪い話ではないということだ。アントワネットがかこつけて婚約破棄したい話は頓挫とんざするが、それは知ったことではない。私が頼まれたのは破滅の回避だけだし。


「そうでなかったとしても、私の父はブランシャール伯爵。どちらにも恩を売って損はございません」


 仮にそうでさえなかったとしても、ブランシャール伯爵家うちはシリゼ王国内の名門だ。


 どう転んでも、今ここでエクロール王国の人間には、私のためにヒロインに優しくする意味がある。


 ロード・ルトガーは公爵デューク。ブランシャール伯爵家より格上だし、そもそも男女である時点で私が指図できる相手ではない。でも、この数分間で見ていたロード・ルトガーの言動からすれば、これくらいは不敬と言わず許容してくれるだろう。さすがにベルンハルト殿下は無理そうだが。


 その予想に違わず、ロード・ルトガーはハハッと明るい声を上げて笑った。


「面白い、いいですよ。踊ってまいりましょう」

「ルトガー」

「いいじゃないですか、殿下。ここはシリゼ王国のブランシャール伯爵家のご令嬢と、今は名もなきご令嬢に貸しを作っておきましょう」


 ベルンハルト殿下は顔をしかめたけれど、ロード・ルトガーはそれをなだめるように微笑み、悠々とヒロインに踊りを申込みに行った。


「……彼女は知り合いか?」


 残されたベルンハルト殿下を見上げると、ロード・ルトガー達を睨むように見つめていた。


「いえまったく。ほんの数秒前に初めてこの目で見ました」

「ではなぜルトをあてがった」

「なぜって、学園初日の舞踏会の最後の一曲で踊る相手がいないことの意味くらい、殿下もお分かりでしょう?」


 前世でいえば、同僚達に見られる中で別の女性の肩を抱く恋人に「お前なんて女として何の価値もない」と嘲笑われ捨てられるより酷い。現状はアントワネットとヒロインのどちらに非があるとも分からないのに(なんならアントワネットによれば10:0でアントワネットが悪い)、入学早々そんな目に遭わされる人を見て見ぬふりをする人がいるだろうか。そんなヒロインにロード・ルトガーをなぜ宛がうのかと訊ねるなんて、私のほうが「なぜ」とたずねたい。


「そうだとして、その程度の相手に随分優しくするんだなと言ってる」

「困っている人を助けるくらい、優しいも何もないでしょう。大して減るものもありませんし」


 しいていうなら、ヒロインが王妃にならず・ろくな能力もなくだった場合、私自身がロード・ルトガーに借りを作ってしまうことにはなる。でもそれならそれでいい。あのロード・ルトガーなら大した借りにはすまい。


 たったそれだけのことだったのだけれど、ベルンハルト殿下が吹き出したので驚いて二度見した。


「いや失敬、可笑おかしなことを言うと思ったわけではない」


 ゴホ、と咳き込んで表情を隠しながら、ベルンハルト殿下は2人に視線を戻す。


「昔、同じことを言う女性がいて、少し懐かしく思っただけだ」

「あら、仲良くなれそうですね。機会があれば私に紹介してもらえると嬉しいです」

「……ああ、機会があればな」


 そうして新年パーティが終わり「またお茶会でご一緒しましょう」とロード・ルトガーが微笑み(ベルンハルト殿下は無言で会釈だった)、二人にお辞儀をした後。


「シルヴィア! シルヴィア!」


 嬉しくてスキップでもしてそうなアントワネットの声に顔を上げると、その声のとおり満面の笑みを浮かべるアントワネットが駆け寄ってきて、私の手を取り身を乗り出した。


「DLCよ!」


 ……ディーエルシーって、なに?

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