第10話 必要なら作る! リワークですから(作業療法)



 前章にて、病院内の除草が実は重要なリハビリになるということをお話した。


 今回もこれに似たような話である。職場でこんなことを上司から言われたらどうするだろうか?


「駐車場と玄関の間に植栽が欲しい。プランターだけじゃ貧祖だから、カバーも欲しいな」


 もちろん、いろいろな手段があると思う。業務上における経費だと認められれば、植栽業者にリースをお願いをすることもできるし、そこまでいかなくても、ホームセンターなどで既製品を購入することもたやすい話だ。


 しかし、このリワークの部屋での話はもっとスケールが違う。


 既製品として購入するのは、「花、土、プランター」のみだ。


『無いものは作る!』


 どこかのテレビ局の番組ではないが、ノリと勢いはまさにそのものである。


 まず、どういうものを作るのか、段ボール箱でイメージを作る。それを元に設計図に起こすのだが、この当時メンバーの中で偶然にもCADのプロがいた。普段は金属での構造物などを設計しているけれど「木製だって基本は同じ」とのことで、イメージ図から逆算して図面をスイスイ描いていく。長く使えるようにと、補強材もきちんと入っている(当初説明を受けるまで、私たちはその補強材の必要性を失念していたほどの、単純だが重要な部分だった)。⇒結果、作ってから4年目にもなる2024年現在でも常時雨ざらしにも関わらず現役である。


 それが終わり、病院側から予算をいただいて、看護師&メンバー一団がマイクロバスで乗りつけたのは大型のホームセンター。


 ここで、既製品班と、工作班に分かれて物探しだ。


 工作班が探したのは、水に濡れても平気なように防腐剤をしみこませてある屋根の野地板のじいた(瓦やスレートを乗せる前の基礎の板の事)、同じく骨組みとなる角材、打ち込むビス、撥水用のペンキなどを。

 既製品班もそれぞれ物を選び、マイクロバスに運び込む。


 翌日から、工作作業が始まった。


 材料はいわゆる「大工さん」が使うそのままを買ってきてあるので、寸法に合わせてカットしなければならない。


 担当の看護師さんが電動丸ノコギリ、私たちも自宅から電動インパクト、ドリル刃などを持ち込んだ。


 もはや「病院の一室」ではなく「木工作業場」となった。


 ステンレスの定規で長さを図り、カット線に合わせて切断、組み立てを1台こなしたところで、実際に設置してみる。


 試作品で「これでいい」となれば量産品(笑)の製造になるが、みんなそれぞれの職場のプロだ。自然と分業するからやることが早い。


 材料の下準備、運搬、カット、ユニットごとの整理。


 それが終わればまた役割分担を変えて組み立て。材料合わせ、ドリルで下穴をあけて、インパクトでビスを打ち込む……。


 さすが、設計図の段階から量産した時の寸法公差(工場で機械生産しているわけではないので、刃厚などの数㎜単位での誤差が出る)を織り込んであるし、どうしてもガタついてしまうときは端材をカットして調整するなんてことはお手のもの。


 一番時間がかかったのは塗ったペンキが乾燥するまで一晩だったという……。


 都合3日間で合計7台のプランターカバーを作り上げてしまった。その間にプランターに土を入れ、花を植えるなどの作業が並行して行われて、植栽のDIYは完成をみた。


 全体に男性の作業が多いと感じるかもしれないけれど、花の選択や植込みの作業、ペンキ塗りなどは女性のメンバーも喜んで手伝ってくれた。


 みんな「自分ができること」をやる。そしてできた達成感を共有することでチームの中での存在感が生まれ、自己肯定につなげていく。


 この間、薬などは一切使わないが、これも立派なリハビリ治療なのである。



 前話で述べた松沢病院においても、外作業ができない患者には、封筒のあて名書きやラベル貼りといった作業を充てたそうで、そこから少しずつ自信をつけて大きな作業ができるようになったり、症状が改善するといった例が実際にあったわけで、治療というのはさまざまな方法があるものだと素直に感じたものだった。


 なにしろ、作業中のメンバーの会話は「ここ病院だよね?」「これってリハビリ治療だよな?」と笑いながら確認するほど、この工作作業(作業療法)はみな楽しんでいた。

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