第8話 毎日の散歩時間(運動療法)



 前回は、認知行動療法ということで、どちらかと言えば屋内で黙々と図書やパソコンに向かっての読書や執筆ということを紹介したが、今回は屋外に出て行うプログラムについて紹介したいと思う。


 朝9時30分に各自の「疑似業務」を開始してから1時間。10時30分になると「散歩」というカリキュラムが予定として組み込まれている。


 以前にも紹介したように、医療リワークにおける課題というのは個人個人で異なるので、この散歩に参加するかは本人の裁量に任されている。ちなみに、私はこの時間が結構好きで、雨天中止か診察がある日を除いてほぼ参加していた。


 治療・療法という名目で行うので、大抵は看護師や作業療法士の方も一緒に参加してくれる。

 私の精神科医療の現状や知識というのは、書籍に加えてこの散歩の時間で教えていただいた項目というものも多い。


 さて、この散歩。コースもいろいろあり、最短10分程度から、最長1時間近くかかるものまである。

 参加者も様々で、ゆっくり歩きたい人、スタスタと早歩きが得意な人、その中間といるわけだ。


 その日のメンバー構成、天候、体調などを勘定し、参加者全員でどのコースを選ぶかを決める。


 次にペース配分というものをどうするか? ここに非常に個性が出る。


 わが道を行くのごとく独走してしまう人もいるが、その方はコースを外れることはない(そもそもが、リワークに入るためには社会復帰が前提なので、痴呆などの医療ケアが必要な人は通常のデイケア対象となる)ので、スタッフの方にお願いしたり、コース全体が見える場所で再合流するまでこちらは休憩などということも行っていた。


 これまでの仕事や、趣味・嗜好、自宅での過ごし方、それこそ当時のコロナ禍でのステイホームに乗じて急に始まった各家庭での家庭園芸の話、コース上にある桜の開花状況など、話すネタはいくらでもある。


 こういったものをお互いに話しながら、その人となりを理解していく。実はこれこそ私が産業医から宿題として与えられている「自己開示(アサーション)」の一部が自然と実施されている例でもあった。


 また、各自のペース配分について「団体行動を指示するのか、各自の独自性に任せるか」の判断を決定したり、「団体行動をとるためにはどういうメンバーを同行させればよいか」などのリーダーとしての素質などというものが自然と磨かれる場でもある(と私なりには理解した)。


 また、これは本来の目的ではないのだが、特に抗うつ剤などの服薬を続けていくと、様々な副作用の一つとして体重の増加がほぼ例外なく起こってしまう。

 このような薬を飲むと、どうしても一人で外出・運動、また「他人と出会う」というアクティビティは実施しにくくなってしまうことも原因のひとつだろう。


 体調管理、体調・メンタルの維持という面でも、一見すると自由に思えるこの散歩という時間も大切な治療法の一つとして十分機能しているものなのだなと、後半になってくると私などは思ってしまい、これを毎日同じ時間にスタートさせて、その日の状況(天候・メンバー等)によってお互いに相談をして自分達で決めて実施するという「疑似業務」の一つであると捉えていたものだった。

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