第6話 産業医面談前の材料集めと仰天な事実
リワークが始まり2週間が過ぎたころ、これまでの状況整理と今後の方針について、産業医と職場、そして私との面談が行われることになった。
この面談での目的は、復職に向けたロードマップを全体で共有することと、これまでの事象に関する整理をすること。そのため、この年齢で情けない話ではあるが、父親にも同席を依頼した。管理職の経験もある父にこれまでの経緯を話したところ、これは完全に職場運営としては問題ありだという意見であったため、それを確かめるという名目であった。
実はこの面談の前、私は二か所に独自に連絡を取っていた。
これは、私が「適応障害」を引き起こした要因の中に当時の職場環境があるということの裏付けをとっておきたかったからだ。背後にしかるべき第三者箇所の意見をもらって理論武装を固めておく必要性を感じていた。
一か所目は、会社の人事課である。これまでの経緯を話したうえ、以前(リワーク通所前)に一度人事課に直接連絡・相談をしたことに対し、「職場を通していない、勝手に連絡するな」と上司から叱責を受けたことを引き合いに出し、これは問題になるようなことなのかと相談した。人事課では私の職制を確認してくれたうえで「小林は現在の職制上、常時人事課などとの連絡を取るのが本来の仕事ではないか。仮に病気で職務に就けていないとはいえ社員なのだから人事課は誰からの相談も分け隔てなく受ける。そのような隠ぺいとも取れる発言は自己に都合の悪いことにフィルターを掛けたいだけであり許容することはできない。人事課としては見逃せない指導対象事例である」という意見を取り付けた。
二か所目は、会社所在地の労働局・労働基準監督署の相談窓口である。これまでの経緯、発言内容はメモとしてすべてまとめてあった。電話口での相談ではあったが労基署の相談員は「これは完全にアウトの事例だ」と即断言した。そのうえで、私には人事課と連絡を密にしておくことと、「それでも職場側が非を認めなかったり、人事課への連絡を阻害するような発言が継続するようであれば、この情報だけでも十分に監督指導対象となるので再度連絡を」という内容を確認した。
つまり、この両者とも「所属社員が発病した要因(全部ではないにせよ)の一部として、職場運営に問題あり」という判断を下した。
この内容を面談時の手持ち資料に追記した。
また、リワークの作業部屋から、認知行動療法を進めていく際に使用した書籍(院長の著書)を貸してもらい、それを産業医に見せられるよう持参した。
これらを材料に産業医面談に臨んだ当日、驚くべきことが産業医から告げられた。
最初に、産業医と私たち親子の面談があった。
上記二か所との連絡の内容と共に、リワークの状況と「院長の著書だ」と書籍を出したところ、産業医はその著者名を見た瞬間に「この先生のもとでのリワークであれば絶対に復帰できる」と断言した。(それまでは、病院での医療リワークでは職場復帰時の負荷に耐えられるかの懸念もあると口にしていたのだが…)
それまで、リワークにも毎日のように顔を出している院長についてあまり詳しく調べることもなかった。地元にある国内でも有名な大学病院の名誉教授であり、現在の病院の院長程度の認識であった。
しかし、精神科担当の産業医に言わせると、国内でもこのようなリワークを積極的に推進する第一人者であると同時に、国内で採用されている様々な適性検査を開発した人物を親戚に持つなど、精神科では名前を知らない人はいないほどの権威(一家)だという。正直そこまでの名医が自宅からわずか数分のところに院長として治療を行っているなど想像もしていなかった。(同様のケースは復帰直前の面談でもまた驚きの展開があった)
この院長のもとで通院、リワークを行っているのであれば治療やリハビリの方針に不安はない。逆に「その先生であればお願いしてトレーニングしてもらえないか?」という課題まで付与された。
次に、職場の上司との三者面談となったとき、これまでの発言をまとめたメモを開示し、「このような数々の発言は人事課も労基署も、これが事実であればアウトだとの見解を得ている。現場管理責任者として、部下がこういう状況に陥った重大性と責任をどのように考えているのか?」と父が迫ったところ、(想定内ではあったが)現場長自身の発言とメモしたものは全否定したが、副長の発言については弁解理由を上げたうえではあるが認めた(これでは「その場面を黙認していた」ことになるので、自身の発言否定にも信憑性がなくなる…)。
発言否定は想定内であったので、安易に「言った・言わない」の議論には持ち込まず、どういう条件の下であれば復職を実現できるだろうかという路線に向けたところ、「本人は現状こういった権威の下でのリハビリを行って復帰を目指している。少なくとも現場長なのだから自職場内でできることはあるだろう!」という産業医からの援護射撃があった。
それまでは、「夜勤勤務ができるようになるまで復帰は無理だ」という現場長に対し打つ手がなかったのだが、人事課・労基署・医療機関・本人が日付まで詳細に記述したメモを前にしては、いくら発言を否定したところで、産業医としても職場運営上のトラブルが原因と断定したのであろう。(ハラスメントというものは「受け手がどう感じたか」が全てであり、受け手が苦痛を訴えたのであれば相手の攻撃意図の有無は関係ない)
そこで、確かに「労基署からの指導」という企業としては一番避けたい事象の一歩手前(しかも労基署は「完全に黒」と断定している)に指をかけている状態で、これを行使することもできるが、今後の事を考えるとハレーションも大きい。可能な限り穏便に解決したいという意向を伝える。
最終的に、「日勤勤務を作る」という合意をしたうえでその日の面談は終了した。(すかさずその旨の発言をしたことを産業医がカルテに記述したことをいまだに覚えている)
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