第37話 【第3章 2-1】

 2月中旬。寒さが厳しい。

 午後4時。千戸世と藤華は部屋で勉強中。

 窓から、こんこんこんという音が聞こえた。

 二人が窓の方を見ると。

「サフィーヌ!」

 曇った窓の向こうに、紫色の小さな人影が見えた。

 千戸世が立ち上がって、窓を開けた。サフィーヌが部屋に入る。

「見つけたんだね」

 藤華も立つ。

「ええ」サフィーヌ。

「こんなに近くにあると思わなくて、随分と遠回りしちゃった」

「どこにあるの、ピアール隊の本部は」

 真剣な面持おももちで千戸世。

くわえ中学校の北側、真裏にある」

 サフィーヌは深刻そうに言う。

「ええっ!」

 声が揃ってしまう千戸世と藤華。

「そんな所に? 信じられない」

 と千戸世。

「表向きは、ただのオフィスビルっぽく見せてる。でも、確かにあの中身はピアール隊の拠点だよ。茶色の服を着た人間が常に出入りしてる」

 サフィーヌが言った。

「あれは見つけられた? 『青い心のかけら』は」

 と藤華が前のめりになる。

「ごめん、それは無理だった」

 片手を額に当ててサフィーヌが答えた。

「あいつら、扉を直ぐに閉めちゃうんだもの。入り込む隙さえ与えようとしない」

「私達が入って、探すしかないね」

 きびきびと千戸世が言う。

「でも、常にピアール隊が居るのでは、私達は近付くのも難しい」

 不安げな藤華。

「それは解決済み」

 サフィーヌが元の調子に戻って言った。

「今、レグリーが近くの沼で大暴れしてるから、ピアール隊はみーんなそっちに行ってるよ」

「レグリーが! 本当に大丈夫なの?」

 千戸世が心配そうに聞く。

「大丈夫。こういう事はレグリーの得意分野だから」

 サフィーヌは自信たっぷりと胸を叩いた。

「窓から外を見てみて」

 言われた通り、千戸世と藤華は窓の外を見た。

「嘘! 隊員がいない!」

 窓の外全体を見回す千戸世。

「今なら、どこへでも行けるでしょ?」

 サフィーヌはそう言うと、『太陽の声笛せいてき』を魔法で出した。

「誰が手にして使っても効くように、魔力を強くしてあるから、絶対にくさないでね」

 千戸世と藤華は1度顔を見合わせると、互いを真剣な目で見つめ、意志を確かめた。

(……大丈夫!)

 そして、サフィーヌの方に向き直って頷いた。

「行ってくる」

 藤華。サフィーヌから笛を受け取った。

「サフィーヌは、アズマにそれを知らせて」千戸世。

「うん」サフィーヌ。

「頑張って!」

 三人は家を出た。サフィーヌは加沼へ、千戸世と藤華は加中学校の方へ向かった。

 紫色の夕焼けを前方にして、二人は走り出した。

「人が全くいない。信じられない」

 千戸世はまた驚きの顔になる。

「頼りになるね、サフィーヌとレグリーは」

 藤華は今度は笑顔だ。

 学校の直前の十字路を右に曲がり、学校の北側に回る道に入る。

「見えた。あれだよね」

 灰色の建物を指して千戸世が言った。

 一見、何処どこにでもありそうな、5階建てのオフィスビル。しかし、低めの建物ばかりの住宅街のこの場所では、明らかに場違いだ。

「学校の窓から、いつでも見えたはずなのに。どうしてこれまで気付けなかったのだろう」

 藤華がこう言った時、ビルの前に着いた。

 千戸世が扉の取っ手を回してみた。回るが、開かない。

「藤華、『声笛』を吹いて」

 千戸世に言われ、藤華は上着のポケットから『太陽の声笛』を出し、吹いた。

 もう1度、千戸世が取っ手を回すと、扉は開いた。

「行こう」

 間髪を入れずに千戸世が言った。

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