第29話 【第2章 8-2】

 四人は目を開けた。

 目の前にあるのは――。

「アズマ!」

 白骨の主の、綺麗な体が現れていた。爽やかな香りが、水中でも感じ取れた。

 アズマは、静かに微笑んだ。

「千戸世、藤華、サフィーヌ、レグリー。皆よ、よくぞ私を蘇生してくれた。本当に良く頑張ったな。ありがとう」

 地の底から響いてくるような、懐かしいあの声でアズマが言った。

「やっと、やっと会えたね、アズマ」

 千戸世は感激して、思わず涙を流した。自然に笑顔になる。

「アズマ様、やっとこの日を迎えられました」

 サフィーヌが大泣きしていた。

「良かった、ほんとに良かった」藤華はほっとしていた。

「さんざん、苦労してきたんだぜ」レグリーが照れる。

 その様子を温かい眼差しで見つめるアズマ。

「さあ、千戸世と藤華は陸へ上がろう。もうすぐ、魔法が切れる」

 千戸世と藤華は頷いた。アズマに背を向け、岸へ泳いだ。

 二人の後を、アズマとサフィーヌとレグリーが付いて来る。

 いきなり、サフィーヌが叫んだ。

「皆の者、アズマ様を、きちんとおそれなさい!」

 それを聞いて、まず藤華が吹き出し、それから千戸世とレグリーも笑った。

「まったく。調子良いぜ」とレグリー。

「面白い」藤華が言う。

 千戸世と藤華は岸に着き、歩いて、海から上がった。

 、、、銃声が聞こえた。

 千戸世と藤華がびくりとして正面を向くと。

 皆の目の前、十数メートルの所に、人が3人。黒路染くろじ・そめる茨野元蔵いばらの・げんぞうが立っていた。さらにもう1人は、茶色のピアール隊制服を着た、くわえ中学校の教頭の女性教師だ。3人とも、細銃さいじゅうを2丁ずつ手にしている。

「くそっ、外したか」

 先程の発砲は茨野だったのだ。

「絶命したのに、また復活するとは。なんという化け物だ!」

 黒路が千戸世達に向かって叫んだ。

「アズマ様、どうしましょう……」

 サフィーヌはおろおろしている。

「俺とあんたは、あいつらに見えないぜ」レグリー。「問題は、アズマと千戸世と藤華だ」

 アズマは海から上半身を出したまま、ピアール隊の三人を見据えている。

「今度こそ、あの連中と決着をつけねば」

 アズマが囁いた。「二人は隠れろ」

 言われた通り、サフィーヌとレグリーは海中に隠れた。

 黒路、茨野、女性教頭は細銃を構えた。

「やめて!」

 千戸世が大声で言いながら、アズマの前に急いで立ち、両腕を横に広げた。

「何の真似だ!」

 黒路が怒鳴る。

「アズマは渡さない、お前達なんかに」

 千戸世の声はとても勇ましく聞こえた。

「竜に心を奪われたか、八上やがみ千戸世、須勢理すせり藤華!」黒路。

 突然、千戸世が目を閉じた。

 その動作に黒路等は驚いた。

 千戸世が目を開けた。と同時に、彼女の背後の海が波立ち、高く舞った。

 青く光る千戸世の目は、海を操っていた。

 今起こっている現象を、信じられないと言うような顔で黒路等は見ている。

(今の内に)

 藤華は、3人が自分を視界から外した瞬間を逃さず、その場を離れた。

「八上は魔女に違いないわ、隊長」

 女性教頭がおびえた声で言った。

 黒路は首を横に振った。

「たった13歳の子供が、魔法を使える訳が無い。きっと、アズマオウの力だ」

「何だっていい」

 最初に正気に戻った茨野が、また撃った。

 ところが、銃弾は千戸世の前を横切った海水がさらっていった。

「そんな馬鹿な! 水が弾を……。有り得ない」

 目を丸くする茨野の真後ろに、藤華。

「撃つな、この野郎!」

 藤華の拳が、彼女の気配を感じ取れなかった茨野の頭に命中。茨野は失神し、倒れた。

 それに気付いた黒路が、逃げようとする藤華を捕らえた。

「小娘のくせに」

 黒路は藤華を地面に叩き付けた。

 地に強く当たった藤華は、気を失った。

「藤華!」

 千戸世は藤華の所へ行こうと思ったが、動けない。

 黒路が再度、千戸世に銃口を向けていた。引き金に指を掛けている。

「お前は、仲間をここへ呼んで来い」

 隣につっ立っている女性教頭に向かって、黒路が命じた。

「はいっ」

 女性教頭は慌てて、海岸を南に走って行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る