第22話 【第2章 4】

 9月下旬の、ある日の昼間。

 加沼くわえぬまに、1隻の船が運び込まれた。ピアール隊が持ってきたのだ。

 船を湖面に浮かべ、20人の隊員達が乗り込んだ。

「いいか、隅々までこの網で捜索し、回収するのだ」

 船上で、隊員の女性が皆に言った。この人がこの部隊の仕切り役のようだ。

「了解」

 隊員達が声をそろえて返事した。

 隊員は、甲板かんぱんから、おもりの付いた網を下ろした。

「起動させよ」

 仕切り役の号令。

 船が動き出すのと同時に、長い網がどんどん水中に吸い込まれていく。

 船は加沼を、余す所無く航行した。

 日が暮れた頃。船が止まった。

「網を引き揚げよ。慎重にな」

 仕切り役がまた号令した。

 機械を使い、網をゆっくり巻き取りながら引き揚げる。

 水中から、網にからまる白い物が見えた。

「停止だ。人手を使うぞ」

 別の、男性隊員の声。

 乗っている20人が全員で、網を手動で船の上に揚げていった。

「なんて巨大な骸骨だ」

 さらに別の隊員の男性が大声を上げた。

「当然だ。これは、あのアズマオウの骨なのだから」

 仕切り役とは異なる女性隊員が答えた。

 竜の骨は、ばらばらだが、傷は付いていないように見えた。

「この網ごと本部へ輸送せよ、との指示だ」仕切り役。「梱包を開始する」

 船を湖岸に寄せた。あらかじめ用意していたコンテナの中に、割と慎重になって、網に絡めたままの骨を入れた。

 そこへ、竹林の道から大きなトラックが走ってきた。

「コンテナ護送部隊、只今ただいま到着しました」

 トラックから男性隊員が2人降りて、コンテナの側へ来て叫んだ。

 隊員20人は船から降りた。トラックの2人と協力して、人手でコンテナをトラックの荷台に乗せた。

「では、本部へ輸送します」

 トラックは竹林の道を戻って行った。

「今日の任務は無事、完了した。明日、船を運搬して借主に返却する」

 仕切り役が言うと、全ての隊員達が真顔で拍手した。

 ピアール隊は、船の見張り役の3人以外は、帰った。

 見張りの男性隊員達が話し出した。

「竜の骨を回収する手段に、深海漁用の網を使用するなんて、隊長はさすがのお考えだ」

「ああ、まさにそうだ。その上、漁業職の隊員を集合させるとは」

「船を丸ごと借り上げられたのも、我等の名声が上昇した成果だ」

 隊員達が笑う。

「骨はあの後、大棺おおひつぎと呼ぶ入れ物に入れられる予定だそうだ」

「回収したのはいいが、どうするんだ?」

「さあな。隊長には何かの名案がお有りなのだろう」

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