第11話 【第1章 8】

 翌日の夕方、加沼くわえぬま。千戸世と藤華が来た。

 人がいないのを確かめ、「千戸世です」「藤華です」と、湖に呼びかける。

「二人とも、久しぶり」

 サフィーヌだ。竹林の中から飛んできた。

「久しぶりね、サフィーヌ。アズマとレグリー、いる?」

 千戸世が聞く。

「もちろん。昨日の真夜中に帰ってきましたよ」

 サフィーヌは、そう言って、湖に入った。

(やっと、また会える)

 千戸世も藤華も、待つ時間をやたら長く感じていた。

 数分の後。湖面が静かに波立ち、爽やかな香りがした。

「よう、お久しぶり」

 まずレグリーが現れた。

 続いて、アズマが姿を見せた。

「アズマ、無事?」

 千戸世が真っ先に呼びかける。

「ああ。この通り、なんともない」

 アズマは変わらぬ微笑みで答えた。

「あの連中は来たのか」アズマが問う。

「ええ。『感謝祭』にも、警備とか言って張り付いてた」

 藤華が深刻そうに答えた。その後、

「ただ、あいつら、何も発見してないと思う。なんにもしないで帰ったから」

 と、表情を明るく戻して言った。

「それなら、問題無いだろう。我々はまた、ここの深い所で大人しくしているだけだ」

 アズマが言った。

「えー、またじっとしなきゃいけないのか」

 とレグリー。

「仕方ないでしょ。アズマ様の安全がいちばん大事なんだから」

 サフィーヌがたしなめる。

「わかっちゃいるけど、海は広くて自由だったから、余計にそう思うぜ」

 しょんぼりした感じのレグリー。

「すまない、レグリー、サフィーヌ。今後も、不自由な暮らしを強いることになるが、許しておくれ」

 アズマの言葉に、サフィーヌとレグリーはびっくり。

「そそそ、そんな、アズマ様。私達に、気を使う必要はありませんよ」

 慌てたようにサフィーヌは言う。

「そうだぜ、アズマ。俺達はアズマのためにいるんだからさ」

 レグリーも強く言った。

 アズマは、そこにいる自分の味方をじっと見た。

「……私は幸せなやつだ。私をしたう者が、こんなにいる」

 アズマは独り言を言うようにつぶやいた。

 皆の顔が輝く。

「もう、隠れねば。人が来るようだ」アズマが言う。

「アズマ、私達、必ずまた来るね」

 千戸世が言った。

 アズマは頷いた。くるりと向きを変え、湖に潜った。

「じゃあ、またな」レグリーも潜った。

「さよなら」サフィーヌも、水の中へ入っていった。

「帰ろうか」

 藤華が言うと、「うん」と千戸世。

 二人は加沼を離れ、竹林の中の道を通った。誰とも擦れ違わなかった。

「次は、いつにする?」

 千戸世が聞いた。

「夏休みになっちゃうかな。私達、忙しくなるもの」

 藤華が悔しそうに、でも笑いながら言った。

(安心した。アズマ達、元気そうで)

 藤華は思う。

(これからも、会えるよね)

 千戸世は次の再会を祈っていた。

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