Re:ライフボ―イとシザーガール(三人称)

かわくや

第1話

パチッ ガラガラガラ


キャッ!!

うおー……


 そんな音を立てて崩れ落ちた梁に、そんな歓声じみた声を上げる多くの野次馬。どうやらいつの時代も野次馬というのはこうも無能なものであるらしい。

 

「すっげー。俺、火事なんか初めて見たよ」


 そんな事実を自ら証明するように次々とフラッシュが焚かれ、録画の開始を示す間の抜けた効果音が歴史を燃やす音の間を縫って、微かに響く。

 そんな騒ぎを遠巻きに眺めていた中年の女性は、野次馬の中に見知った顔を見つけて話しかけに行った。


「なんだかすごいことになってるわねぇ」

「あぁ、犬塚さん。ほんとにねぇ。」

「ねぇ、この火事ってやっぱり……」

「あぁ、やっぱり犬塚さんもそう思う?やっぱりロクな人間じゃなかったのよ。あの人。」


 そう言って、二人が視線を向けた先には赤々と燃える一軒家の姿。

 これは誰も知りえるはずのないことなのだが、この時、奇跡的にこの女性と家の中の人物の目線は燃える壁を挟んで合っていた。

 それは全くの偶然ではあるのだが、仮に、こちらにいる人間がその視線を認知したとしても、返す物は決して好意的なものではなかっただろう。なんせ家の中にいる人間……この家、糸崎家の長男である和弘はもはや死に体であったから。

 なりふり構わず苦しんだ結果、多くの物をまき散らすことになった両腕は既に焼け爛れ、骨と皮しかないと思っていた腹からは、ピンクの筋繊維と肉が顔を覗かしている。

 もとより、微かな光しか宿していなかったその目は肉体より一足先に力尽きており、ただ自分を平らげようと舌なめずりする真っ赤な悪魔の愛撫をじっと受け入れていた。

 そういった様子で、奪われた体に唯一残された生存の悦びですらも手放そうとしていた少年だったが、彼には一つ心残りが有った。

 それは、無責任に逃がしたただ一人の妹の存在。ほかの生まれてすぐ楽になった兄弟とは違い、思い入れが有っただけに逃がしたこの小さな世界で唯一の人間のことについてだった。

 なんの責任も無く逃がしてしまったが、酷い目に遭ってないだろうか。「外」の常識も知らないから何とも言えないが、無事だといいな。

 そんなことを常に頭の片隅で祈っていた彼は、自分の命に危機が迫った時でさえ、それを忘れることは無かったのだ。

 その健気さ故だろうか。そんな彼を哀れに思った何かは彼に手を差し伸べたのだった。

 彼の願いをかなえるため。彼に幸せを教え込むため。

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