また夜も更けて、眠りに落ちる

千歳依瑠

僕が生まれたばかりの頃、あの子はずっと泣いていた。

暗くて狭いクローゼットの中で、怖いのと、苦しいのと、寂しいのと、そんないろいろな感情が涙になって溢れてきて、ずっと一人で、泣いていた。

そのたびにうるさいって言って大きな男が扉を開けて、アクアの小さな体を引っ張り出して、何度も何度も殴られた。

ごめんなさい、ってアクアが叫んで謝っても、黙れって言われて今度は蹴られる。

アクアが気を失うまでそれは続いて、その後は乱暴に、また暗闇の中に戻される。

目を覚ましたら、いや、はっきりとは目が覚めないうちから、あの子はまた泣きだして、それに気づいた男に殴られる。その繰り返し。

きっと、理由は何だって良かったんだ。

ちょっとしたことであいつは怒ったをして、何度もあの子のことを殺そうとした。だけど必ず最後には、その手を離す。

愉しんでいるんだ。

あの子を犯して傷つけて、そして苦しんでいるのを見て、いつもあいつは気味の悪い笑顔で、僕らのことを見下ろした。

最悪の日々。

でも、だからきっと、僕は生まれたんだろう。あの子のことを守るために。

もう大丈夫だよ。痛いのも、苦しいのも、全部僕が引き受けてあげる。だから君はまた、前みたいに、何も知らずに笑っていて。

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