10月15日 土曜日

第39話 仕掛け

■10月15日 土曜日


 さよりちゃんは今日は髪型指定、ポニーテールで学校に来てもらうことになっている。

 わたしも髪をポニーテールにし、しっぽをネジってまるめお団子にしている。放課後になったらお団子をといて、ただのポニーテールにする予定だ。

 さよりちゃんには今日の作業は一瞬、打ち合わせをするだけだと言ってある。土曜日だしちょうどいい。彼女は海藤先輩に送ってもらうことになっていて、わたしはさよりちゃんになりすまし、小松君とストーカーを迎え撃つ。





 2のFで打ち合わせをし、さよりちゃんには髪型を変えてもらった。そっと裏口から帰した後、わたしと小松君は会議室に向かう。


「ひっかかるかな」


「何言ってるんですか。食いつかせるんですよ」


 え? どういうこと? と聞こうとしたのに、足は会議室に入ってしまった。


「相原、今日さ、小萩先輩も南野先輩も来られないってさ。だから今日は2人だ」


「そ…そうね」


 声からバレる可能性もあるから、あんまりわたしは話さないことになっている。


「うれしいな。今日は2人で」


 小松君がわたしを見てにっこり微笑む。

 状況も何もかも忘れて、一瞬どきっとしてしまったことが口惜しい。


「ほら、いつも先輩たちもいて。にぎやかだけどさ。おれ、相原と一度ゆっくり話したかったんだ」


 小松君っていつも自分を〝僕〟って言ってなかったっけ?


「相原ってさ、つきあってるやついるの?」


 な、なんなの〜。この気恥ずかしさは。

 誰かの告白を間違って聞いてしまっているようで、いたたまれない。


「特進生との噂は?」


 小松君が一歩近づいてきて


「え? 聞こえない?」


 と両手をとられる。


 え? ええ??


「こ、小松君、ど、どうした…」


 一歩下がろうとしたら、椅子に足があたる。


「好きだ」


 小松君はわたしの両手を持つ手をゆるめずに、わたしの目を見て言った。


「鈍いから絶対気づいてないと思っていたけどさ。そこまで驚かなくても」


 いや、驚くだろ、この展開は。そ、そっか、こういう展開で敵を焦らすつもりだったのね。でもそれならそれで、わたしにも一言あってしかるべきなんじゃ。危うくドキドキして使い物にならなくなるところよ。今もなおぎりぎりのところで踏ん張ってる状況だ。だって、小松、あんたやけにかっこいいんだもん。勘弁してよこんな役。でも、それを言いたいのは小松君のほうかも。いくら役でだといっても相手はさよりちゃんのおとりのわたしになんだもんね。

 小松君が囁く。


「先輩、ちょっと我慢です」


 両手の戒めが解けたと思ったとたん、背中に手がまわり…。


「ちょっ、待って」


 おでこが小松君の肩にぶつかり。

 なんか、すぽっと、これは、小松君にだ、だ、抱きしめられているっていうものでは…。


 っていうか、小松君、小柄のはずなのに、こ、このすぽっは何よ、すぽっは。


 ガラっ。


「かかった」


 小さな声で小松君。


「何やってるんだ!」


 え?

 そちらを振り返ろうとするのを、小松君は許してくれなかった。

 ばたんと音がした。恐らく準備室のドアが開いた音。


 準備室から黒い固まりが飛び出してきて、ドアを開けた男子生徒を捕らえる。


「こちらが聞きたいな。俺たちの部室で、お前は何をやっているんだ?」


 南野に押さえ込まれ、冷静に問いかけられた男子生徒の顔が青ざめた。


 最初は会議室に入っただけで、なんでこんな捕まえられなきゃいけないんだとか言ってたのもの、盗聴器を外し、これ、調べればわかるよな。先生に言って調べてもらうか?とこれからの予定をわたしたちで相談しだすと、学校には言わないでくれと短い叫び声をあげた。

 盗聴器は外すのにも本当は許可がいるんだよなー(どこに?)と呟きながら、南野は取り外していた。

 学校にバレるというか、裏ファンクラブ同好会で活動しているので、このことが同好会にわかると永久追放だそうで、それを怖がっていた。

 裏ファンクラブに通報するのが、この人の一番罰になりそうなのでそうしたいところだけど、被害者はさよりちゃんなので、さよりちゃんに判断を仰ぐことにする。

 ってな話し合いをしていると、彼が言う。


「俺が言えることじゃないけど、2度と相原さんの周りをうろつかないから、君たちが相原さんを助けて」


 小松君の上にゴミ箱を落としたのは彼のしたことだった。

 盗聴器を仕掛けたのは彼で、小松君とさよりちゃんが急接近したので、小松君とさよりちゃんがじゃれあっているところを見て、突発的に行動してしまったのだと。

 ちょっとだけ、お前の耳はおかしい、と思った。

 さよりちゃんの相手は違うだろう?

 わたしたちはそれから3時間、彼から話を聞いた。

 聞きたくない、話だった。




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