こちら、異世界一ホワイトな悪の組織でございます。 ~突然魔王の座を託されたモブ戦闘員による、異世界一アットームな帝国再建譚~

鍵宮ファング

プロローグ 『こちら、異世界一ホワイトな悪の組織でございます』

「申し上げます、マガツ殿! リーガン王国に動きがあるとの報告が上がりました!」


 黒い鎧に身を包んだ男は跪き、黒衣の男に報告する。

 マガツと呼ばれた男は、チェスを中断して振り返る。


 清涼感のある黒の頭髪、黒龍の鱗を思わせるようなデザインの黒い羽織。

 その下には着物のような白い服を纏っている。彼曰く、かの第六天魔王『織田信長』の着物を模した服装である。


 彼こそこの国、もとい“悪の組織”の総帥。その名は、マガツ=V=ブランク。

 ブランク帝国八代目魔王にして、この『国』という組織の総帥である。


「思ったよりも早い。随分とせっかちなお客様が来たようだな」


「マガツ様、偵察班からの伝言です! 敵軍には、およそ400人の少年兵がいるそうです!」


 続けて、金色の長い髪を靡かせながら、ぴっちりとした黒い衣装を纏った女性が現れる。


「何、それは本当かデザストッ⁉ おのれ、未来ある子供をも戦争に駆り立てると言うのか……ブラックなクソ国家め……」


 デザストと呼ばれた女幹部の報告に、マガツは憤りを覚える。

 マガツは残っていたワインを一気に飲み干すと、椅子から立ち上がり、オーマとデザストに指示を出した。


「軍の指揮はシャトラに任せる。オーマ率いる騎馬隊は左翼側から仕掛けろ」


「はっ!」


 言うと鎧の男、もといオーマは影に溶けていくように消えていく。


「デザストには後援を任せる。レイメイには、早速例の新薬を試す機会だと伝えておけ」


「承知しました、マガツ様!」


 続けて、デザストは背中から蝙蝠のような羽を展開し、空へと飛び去っていく。


 そんな緊迫した様子に、金髪の少女はマガツの袖を引く。


 振り返ると、そこには不安げな表情をした少女がいた。


「マガツ……敵兵に子供がいるって、本当なの? シャトラ、不安なの……」


「誤報だったらいいんだがな。でも安心してくれ。子供は未来ある宝、できる限りは保護するつもりだ」


「マガツ……やっぱり、いい人なの」


「そ、それを言うならシャトラもな」


 そう言うと、マガツは腰にかけた刀を抜き、改めて仲間に向けて宣言した。


「我々ブランク帝国は、リーガン王国からの挑戦を受け、全面戦争を行うと宣言するッ!」


 続けて、マガツは部下達に言葉を贈る。


「これは命令だッ! 全軍、必ずその命を落とすことなく生きて帰るのだッ! 家族を泣かせることは、この俺が許さんッ!」


 その言葉に、街の群衆はざわめく。


 しかしそれはどよめきなどではなく、身体の内側からやる気と勇気が湧き上がるような、熱いものだった。


「先頭にはこの俺、マガツ=V=ブランクが立つッ!」


 そして、大きく息を吸い込み、群衆に向けて叫んだ。



「これより、世界征服と世界平和のために――」



ッ!」




 これは理不尽な死を遂げた戦闘員が、魔王としてあがきながら、異世界一ホワイトな悪の組織として世界を統一するまでの記録である。

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