第6話

『滉、明日いつものカフェに10時でいい?話したい事がある』

『おっけ~』

 これは、もしや「これから実家に行くよ」とかなって、あの名シーン「お父さん、娘さんをください」ってやつをやるのか。

 また、スマホが鳴った。

『先輩、明日俺の家で宅飲みしません?』

『いいけど、夜な。』

『いいっすけど、先輩明日仕事でしたっけ?』

『いや、彼女とデート♡』

『良い年した成人男性が文末にハートとか浮かれすぎです。』

志木の呆れ顔が目に浮かぶ。

 まぁ、じっさい浮かれてるからな。

 好きな人と結婚できるんだから当たり前だろ。

『先輩の名前って何でしたっけ?』

 え、俺って、仕事の後輩にも名前を忘れられるくらい存在感がないのか?

こりゃ、大問題だ。

『泉日滉』

『あ、違います。彼女の名前です。』

なんでだ?

『大出真理』

『じゃあ、太田莉愛って知ってますか?』

 なんで、志木が太田の事を知ってるんだ?

『高校の時の友達。というか、急にどうした?』

『太田さんは俺のバイト先の先輩で、この前お互いに高校の話をしてたら先輩の話が出てきたので。』

 なるほどな。

 高校か。懐かしいな。

 あの時、太田と真理と俺は友達だった。

 だけど、他の誰も気がつかなかったけど俺は分かっていた。

 あの二人の間には、俺が入り込めない何かがあった。

 それは、女子と男子の境ではなかった。

 なんというのか。

違うかもしれないが、それは恋のようなものだった。

 そんな気がした。

 でも、誰も知らない。

 俺だって、真理の事を好きにならなきゃ気がつかなかった。

 好きな人の好きな人っていうのは、嫌なほどわかるんだよ。

 世界で一番知りたくない事なのに、世界の誰よりもよくわかってしまう。

 きっと、それが恋ってやつなんだろう。

 俺はそういうことにしていた。

   そういうことにしている。

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