本編完結済み『次回、男子の高校生 はると君、おうちに帰れず!』

ヴォーダン

第1話 男女関係強化月間

この世界は、地球にそっくりだ。


ただ違うとすれば男女比が1:100。

男性が少なく女性が多いということ。


それはこの世界の人類にとって致命的であった。

実際、古代石器時代に絶滅しかけたことがある。


だが現在は違う。


人類は繁栄し、宇宙にまで生存圏が拡大しつつある。

その要因の一つが遺伝子工学のすさまじい発展であった。

遺伝子の劣化や異常などを克服し、同性妊娠、同族結婚も可能にした。

またこれらの技術による出産でも男児が生まれることは確認されている。


だがクローン技術などによる複製は頓挫とんざした。

そして男児出生のコントロールもかなわず、自然に従うしかなかった・・・。


さて、ここで人類繁栄のもう一つの要因を伝えておこう。

それは古来から続く女性たちの『工夫』である。

・・・

・・・

・・・


◆◆◆


聖女王歴1402年


『生物の中でもっとも狩りがうまいのは、女性の群れである』

男性の学者、メルカッツン


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僕の名前は、来夢はると(らいむ はると)。

高校1年生、男子。

クラスは1年2組。

金髪碧眼きんぱつへきがん、西大陸の血が濃いみたい。


今月は男女関係強化月間。

ええっと、『知らない女子とも男子は仲良くしよう』だったかな?

まぁ僕にはあまり関係ないかも。


だってほら、

こうやって1年2組の女子達がほかの女子をガードしちゃうもん。


それより、今はスマホを探さなきゃ。

たぶん体育館に置いて来ちゃったんだと思う。

いつもは幼馴染が最後に確認してくれるのになぁ。


あっ!

ダメダメ。

女性のせいにしては、「男がすたる」。


そんなことわざ聞いた事ないけど、僕は好きだ。

だって、尊敬するじーく君の口癖だから。


◆◆◆


スマホは見つかった。


『男子』の落とし物として、先生に連絡が届いてないみたい。

そのまま置いてあった。


でも男性のものに女性が気づかないなんて、ありえる?

うーん。


スマホが点滅していた。

着信が来てるのかな。


あっ、1年1組っ!じーく君からだ!

うれしい!

遊びのお誘いかな?

再生っと!


『キミが困っている時、そばで助けてくれる女性たちがいる。

それを忘れないでくれ。彼女たちに何でも相談して―――』

強化月間だから心配してるんだね。

ふふっ。


でも、

・・・じーく君は女性の意見を尊重しすぎだよ。

女性を大切にするのは良いことだと、僕も思うよ。

だけど男性を軽視するのは、じーく君の悪い癖だ。

少しだけ、むっとした。


あれ?

着信がもう1件ある。


1年5組のやっ君からだ。

めずらしい。


再生してみるかぁ。


『はると君、今どこにいるんだい。1年13組がなにやら動いているようだよ?』


1年13組?

男子生徒がいないクラスだ!!


周りで、そのメッセージを聞いていた女子たちの顔つきが一瞬変わった・・・気がする。

男女関係強化月間中に、女子は通信機類を学校に持ち込めない。

過去に、とんでもない事をした女子生徒がいたせいらしい。


護衛として一緒に来ていた女子の行動は早い!

学級委員長が、みんなに指示を出してる。


魚鱗ぎょりんの陣を展開!守りを固めつつ、△の形で教室に戻ります」

「外様(とざま)女子は左翼を。少しは良い所を見せなさい」


1年2組女子たちが次々に情報を伝えている。

すごいなぁ。


「偵察班よりハンドサイン!『包囲・危険』です!」

「半径20メートル内に女性を近づけないで」


「9時の方向から女子生徒1名。顔を伏せており、所属不明」


「右への進路、安全確保しました!」

「1年13組の本体が近いかも知れません。みなさん、気をひきしめて」


「!? 正面、1年13組の女子5名を確認!・・・直接来ます!」


「13組の後続女子、突撃陣形を構築中!」

「中央突破を図るつもりね」


「それにしても、展開があまりに早い」


「向こうは、例の彼女が指揮しているみたいよ」


「おしゃべりはそこまで」


「左翼、取りつかれました!」

「分断されつつあります!」

「救援の要請です。いかがなさいますか」


「脱落者は置いていく。みなさん、覚悟はいいですね?」


「「「「 いいですとも! 」」」」


◆◆◆


【1年2組教室】

【1年13組の奇襲、30分前】


はると君のクラスに急報が飛びこむ。

教室にはカースト上位の子たちが、タイミング良くそろっていた。


「このまま13組に行動の自由を許せば、はると君は最初で最後のご経験をされるでしょう」


「はると君が?それ、どこ情報?」


「教室へ来る前に1階出入口を見てきました。13組の行動は尋常じんじょうならざるものです」

「そうなる前に13組の教室、指揮系統を抑えようというのね?」


「はい。そうすれば13組の、あの図書委員長なら止まってくれるはず」

「1年13組、不敗の図書委員長殿か」


「彼女は、男子生徒との会話より大切なものがある事を肌で感じています。それは稀有けうではありますが・・・」


「だからと言って毎回思いとどまってくれるとは限るまい。なにせ今回は、はると君だ」


「では、私の案は無駄たとおっしゃるのですか?」

「・・・いえ、貴女の案以外に手はなさそうね」


「「「「 この案こそ、採用すべし! 」」」」


「では、わたくしは5組のやっ君さまに連絡していただけるよう、うかがってきますわ」


「「「「 さすが、許嫁。やっ君のナンバ-ワン! 」」」」


「ではそれ以外で1年13組の教室と1階出入口をおさえる。各員、行動を開始。それでいいわね?」


「「「「 いいですとも! 」」」」


(ちっ、1年13組のやつらめ。情報を与えたのに存外ぞんがい不甲斐ふがいない・・)


「え?」

はると君の幼馴染が発したひとり言に親友が反応する。


「・・いえ。もし間に合わなかったらと、心配しただけよ」

「ふふっ。幼馴染の貴女が、はると君のナンバーワンなんだから。信じてあげなくてどうするの?」


「・・・そうね」

「さぁ、行きましょ!」


「・・・ナンバ-ワン以外、不要論か」



(※)ナンバ-ワン以外不要論、または一夫一妻いっぷいっさい論と呼ばれている。

夫1人に対し妻は1人だけで良いとする考え方。


男性の学者、メルカッツンが提唱したことで有名。


◆◆◆


【1年13組 教室内】

【奇襲成功! 勝利はもう目の前】


13組の教室出入口は、現在2組の女子たちに制圧されている。


「結論から言おう。1年2組からの中止要請を受け入れる」


「学級委員長!?クラスメイトが頑張っているのに中止とは・・!13組の団結を、純情を踏みにじる行為はおやめ下さい!」


「今さら、はると君onlyだと言う気かね?私は知っているのだよ?キミがほかの男子たちに何通も恋文を出しているのを」


「私はいくら言われようと構いません。ですがクラスメイト達が悲しむような事を、なされないで下さい!」


「そうだ!私達は今勝ちつつある。いや、勝っている。それをなぜ中止しなければならない!」


「賛成!私たちはお話ししたいだけ。はると君を独占する2組の悪女たちに負けて良いはずがないわ!」


「まぁ興奮せず、最後まで聞きたまえ。広報委員長、説明してくれるかな?」


「はい。今、中止すれば1年1組のじーく君と2時間おしゃべりする事ができます」


「「「「 !? 」」」」


「どうせ、あんた達だけなんだろ?いつもそうだ!」


「はははっ。あのじーく君がそんな小さな事を言うとでも?1年13組全員に決まっている」


「「「「 !!! 」」」」


「答えは決まったようだね。あぁ、いつもの多数決でもかまわんよ?w」


「「「「 中止に賛成でーす! 」」」」


「・・・やむを得えませんな」


「では解散といこうか。2組に伝え――」


ドンッ!!


ひとりの女子が突然、机をたたいた。

「私は・・・

私は、はると君を幼稚園のときからずっと見守ってきた。力ずくでも行かせてもらう」


ほかの女子も立ち上がる。

「それなら、私もお供します」


「わたしも連れて行ってください!」


賛同者たちが声をあげ始める。

だが学級委員長はそれを予測していた。


「はぁ、やれやれ。私の努力が理解できないのかね?残念だよ。彼女達を取り押さえたまえ」


その号令とともにたくさんの女子が周りを囲む。

胸にはバッジが付いている。

そのバッジには男性が男性を『壁ドン』した絵が描かれていた。


「なっ、貴女たちは!?」


「そのバッジ!やっ君×じーく君主義派か!」


「そう、彼女らは私の良き理解者でね。さぁ、みなさんを教室のすみっこへお連れして」


◆◆◆


Side: 来夢らいむはると(1年2組 男性)



「そうか、また守られたんだね、僕は。守ってもらってばかりだ。はははっ!」


「「「「 ・・・はると君・・・ 」」」」


周りの女子が心配している。

でも、感情をおさえられない。


「守られたんだ。そう、まるで泣き虫男子(※1)のように!」


(※1)不適切な発言ですが、表現尊重のためそのままにしております。



僕は、じーく君のようにはなれない。

今回はあいだに入ってもらって、迷惑をかけた。


せめて助け合う友人として、隣りに立ちたかった。


ああ。

この教室はあまりにも寒い。

男子1人には広すぎるのだ。


スマホの待機画面を見る。

そこには赤髪と金髪の男子の姿が写っていた。

そしてひと言だけそえられている。

『My friends (僕の友達)』


涙がひとつ、またひとつと落ちた。


いつか、この心にあいた空洞を埋める事ができるのだろうか?


それは、新しい男子友達か?


それとも・・・。




"To be Continued"



◆◆◆


そのとき、たまたま、大雨が降った・・・。

そのとき、たまたま、幼馴染の家で2人きりだった・・・。

そのとき、たまたま、先にお風呂をすすめられた・・・。


そして・・・。


そのとき、たまたま、幼馴染がお風呂場に向かってきた・・・。



次回、「異世界転生に気付かず生涯を終える、はると君!」


転生、第5839日目



『  はると君、帰れず  』




男女比の歴史がまた1ページ

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