『次回、男子の高校生 はると君、おうちに帰れず!』

ヴォーダン

第1話 男女関係強化月間

この世界は、地球にそっくりだ。


ただ違うとすれば、男女比が1:100。

男性が少なく、女性が圧倒的に多い。


遺伝子工学が進んでおり、同性妊娠、同族結婚が可能となっている。

もちろん、遺伝子の異常や劣化などは克服済みだ。

しかし男児出産に関しては、自然に従うことしかできなかった・・・。


◆◆◆


『生物の中でもっとも狩りがうまいのは、女性の群れである。』

男性の学者、メルカッツン。


◆◆◆


【体育館前】


僕の名前は、来夢はると(らいむ はると)。

高校1年生、男子。

クラスは1年2組。


今は男女関係強化月間のせいか、ついて来ている1年2組の女子はみんなピリピリしてる。


こんな時期に、スマホを置き忘れるなんて。

いつもは、幼馴染が最後に確認してくれるのになぁ。


ダメダメ。

女性のせいにしては、「男がすたる」。


そんなことわざ聞いた事ないけど、僕は好きだ。

だって、尊敬するじーく君の口癖だから。


◆◆◆


スマホは見つかった。


『男子』の落とし物として、先生に連絡がいってないみたい。

そのまま置いてあった。


でも男性のものに女性が気づかないなんて、ありえる?

うーん。


スマホが点滅していた。

着信が来てるのかな。


あっ、1年1組っ!じーく君からだ!

うれしい!

はやく再生しなくちゃ!


『キミが困っている時、そばで助けてくれる女性たちがいる。それを忘れないでくれ。彼女たちに何でも相談して、・・・・』

強化月間だから心配してるんだね。

ふふっ。


でも。

・・・じーく君は女性の意見を尊重しすぎだよ。

女性を大切にするのは良いことだと、僕も思うよ。

だけど男性を軽視するのは、じーく君の悪い癖だ。

少しだけ、むっとした。


あれ?

着信がもう1件ある。


1年5組のやっ君からだ。

めずらしい。


再生してみるか。


『はると君。今どこにいるんだい?1年13組がなにやら動いているようだよ。』


1年13組?

男子生徒がいないクラスだ!!


周りで、そのメッセージを聞いていた女子たちの顔つきが一瞬変わった・・・気がする。

男女関係強化月間中に、女子は通信機類を学校に持ち込めない。

過去に、とんでもない事をした女子生徒がいたせいらしい。


護衛として一緒に来ていた女子の動きは早い!

学級委員長が、みんなに指示を出してる。


「魚鱗の陣を展開!守りを固めつつ、△の形で教室に戻ります」

「外様(とざま)女子は左翼を。少しは良い所を見せなさい」


1年2組女子たちが、次々に情報を伝える。


「偵察班よりハンドサイン!『包囲・危険性』です!」

「半径20メートル内に女性を近づけないで」


「9時の方向から女子生徒1名。顔を伏せており、所属不明」


「右への進路、安全確保しました!」

「1年13組の本体が近いかも知れません。みなさん、気をひきしめて」


「!? 正面、1年13組の女子5名を確認!・・・直接来ます!」


「13組の後続女子、突撃陣形を構築中!」

「中央突破を図るつもりね」


「それにしても、展開があまりに早い」


「向こうは、例の彼女が指揮しているみたいよ」


「おしゃべりはそこまで」


「左翼、取りつかれました!」

「分断されつつあります!」


「脱落者は置いていく」

「みなさん、覚悟はいいですか?」


「「「「 いいですとも! 」」」」


◆◆◆


【1年2組教室】

【1年13組の奇襲、30分前】


はると君のクラスに急報が飛びこむ。

教室にはカースト上位の子たちが、タイミング良くそろっていた。


「このまま13組に行動の自由を許せば、はると君は最初で最後のご経験をされるでしょう」


「はると君が?それ、どこ情報?」


「教室へ来る前に1階出入口を見てきました。13組の行動は尋常ならざるものです」

「そうなる前に13組の教室、指揮系統を抑えようというのね?」


「はい。そうすれば13組の、あの図書委員長なら止まってくれるはず」

「1年13組、不敗の図書委員長殿か」


「彼女は、男子生徒との会話より大切なものがある事を肌で感じています。それは稀有ではありますが・・・」


「だからと言って毎回思いとどまってくれるとは限るまい。なにせ今回は、はると君だ」


「では、私の案は無駄たとおっしゃるのですか?」

「・・・いえ、貴女の案以外に手はなさそうね」


「「「「 この案こそ、採用すべし! 」」」」


「では、わたくしは5組のやっ君さまに連絡していただけるよう、うかがってきますわ」


「「「「 さすが、許嫁。やっ君のナンバ-ワン! 」」」」


「では、それ以外で1年13組の教室と、1階出入口をおさえる。各員、行動を開始。それでいいな?」


「「「「 いいですとも! 」」」」


「・・・ナンバ-ワンか・・・」

「え?」

はると君の幼馴染が、意図せず出した言葉に親友が反応する。


「いえ。・・もし間に合わなかったらと、心配しただけよ」

「ふふっ。幼馴染の貴女が、はると君のナンバーワンなんだから。信じてあげなくてどうするの?」


「・・・そうね」

「さぁ、行きましょ!」


「・・・ナンバ-ワン以外、不要論か」



(※)ナンバ-ワン以外不要論、または一夫一妻論と呼ばれている。

夫1人に対し妻は1人だけで良いとする、論法。


男性の学者、メルカッツンが提唱したことで有名。


◆◆◆


【1年13組 教室内】

【奇襲成功! 勝利はもう目の前】


13組の教室出入口は、現在2組の女子たちに制圧されている。


「結論から言おう。1年2組からの中止を受け入れる」


「学級委員長!?クラスメイトが頑張っているのに中止とは・・!13組の団結を、純情を踏みにじる行為はおやめ下さい!」


「今さら、はると君onlyだと言う気かね?私は知っているのだよ?キミがほかの男子たちに何通も恋文を出しているのを」


「私はいくら言われようと構いません。ですがクラスメイト達が悲しむような事を、なされないで下さい!」


「そうだ!私達は今勝ちつつある。いや、勝っている。それをなぜ中止しなければならない!」


「賛成!私たちは会話がしたいだけ。はると君を独占する2組の悪女たちに負けて良いはずがないわ!」


「まぁ興奮せず、最後まで聞きたまえ。広報委員長、説明してくれるかな?」


「はい。今、中止すれば1年1組のじーく君と2時間おしゃべりする事ができます」


「「「「 !? 」」」」


「どうせ、あんた達だけなんだろ?いつもそうだ!」


「はははっ。あのじーく君がそんな小さな事を言うとでも?1年13組全員に決まっている」


「「「「 !!! 」」」」


「答えは決まったようだね。あぁ、いつもの多数決でもかまわんよ?w」


「「「「 中止に賛成でーす! 」」」」


「・・・やむを得えませんな」


「では解散といこうか。2組に伝え・・」


!!


ひとりの女子が突然、机をたたいた。

「・・・私は」


「私は、はると君を幼稚園のときからずっと見守ってきた。力ずくでも行かせてもらう」


ほかの女子も立ち上がる。

「それなら、私もお供しましょう」


「わたしも連れて行ってください!」


「はぁ、やれやれ。学級委員長である私の努力が理解できないのかね。残念だよ。彼女たちを取り押さえたまえ」


「なっ、貴女たちは!?」


「そのバッジ!やっ君×じーく君主義派か!」


「そう、彼女たちは私の良き理解者でね。さぁ、みなさんを教室のすみっこへお連れして」


◆◆◆


【1年2組 教室内】



「そうか、また守られたんだね、僕は。守ってもらってばかりだ。はははっ。」


「「「「 ・・・はると君・・・ 」」」」


周りの女子が心配している。

でも、感情をおさえられない。


「守られたんだ。そう、まるで泣き虫男子(※1)のように!」


(※1)不適切な発言ですが、表現尊重のためそのままにしております。



僕は、じーく君のようにはなれない。

今回はあいだに入ってもらって、迷惑をかけた。


せめて助け合う友人として、隣りに立ちたかった。


ああ。

この教室はあまりにも寒い。

男子1人には広すぎるのだ。


スマホの待機画面を見る。

『My friends (僕の友達)』


いつか、この心にあいた空洞を埋める事ができるのだろうか?


それは、新しい男子友達か?


それとも・・・。




"To be Continued"



◆◆◆


そのとき、たまたま、大雨が降った・・・。

そのとき、たまたま、幼馴染の家で2人きりだった・・・。

そのとき、たまたま、先にお風呂をすすめられた・・・。


そして・・・。


そのとき、たまたま、幼馴染がお風呂場に向かってきた・・・。



次回、「異世界転生に気付かず生涯を終える、はると君!」


転生、第5839日目



『  はると君、帰れず  』




男女比の歴史がまた1ページ

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