第51話 盗人からの提案
裏路地でチンピラ3人に追い詰められていたのは僕の魔石を盗んだだろう女だった。
間違いない。あの時は一瞬だけしか見えなかったが、僕の記憶力を舐めないでもらいたい。
その理由を話しておこう。
学生時代に国語の漢字テストが行なわれることが多かった。授業の始めに漢字ワークからランダムで10問程の熟語や読みが混ざるものが出題されるのだ。大きく分けてパターンを2つに分類できる。1つ目のパターンは真面目な友達。真面目な友達は事前に漢字ワークで勉強する。勿論、いい点数は取れる。もう1つの不真面目君パターン。そのもの達は事前に勉強などしない。なので、授業の合間の10分の休み時間で無理やり覚えようとする。だが、それではいい点数が取れる確率は低い。
僕はどちらのパターンでもない。
そう、僕は家で勉強などしなくても10分休みに少し勉強すれば満点が余裕で取れたのだ。
いや、10分など使わない。実際は5分程度だろう。(トイレや水分補給などで5分ぐらい使う)
このことにより僕は記憶力に自信があるのだ。
と…いうか、僕が彼女をそう断定する理由はまだある。
仮にも顔が見えなかった場合でも顔意外は覚えているものだろう。
例えば服装。
僕の記憶の窃盗犯と彼女の服装は一致していた。
もう一つ例を挙げると身長も理由の一つだ。
単体の理由としては不十分だが、複数の場合は有効だ。
これらの理由から僕の魔石を盗んだ奴だと断定した。
落とした可能性は……あっても2パーセントだ。多分落としては…ない。
「おい、何オメーはしゃしゃり出て来てんだよ?」
チンピラ3人組の1人が、僕に大声で言った。
「お前らはそいつに金を盗まれたのか?」
僕は聞いてみた。
「ああ、コイツに金を盗まれたんだよ!」
男は彼女を睨みながら言った。
「はぁ?しょ…証拠はあるのか?」
彼女はしらを切った。
「あぁ?お前、俺にぶつかったときに盗んだんだろ?」
「うっ……な〜んのことだぁ〜オラ知らねーだ〜」
彼女は斜め右を見て白々しく誤魔化そうとした。
その反応は図星だろう。
彼女は嘘をつくのが苦手っぽいな。
「な…なぁ!お前、ウチを助けてくれよ!」
彼女は僕に助けを求めた。
僕は怒りに満ちた。
ふざけるな。僕の魔石を盗んだ癖に、その盗んだん相手に助けを求めるのか?それとも僕から魔石を盗んだことなんて覚えていないのか?
どちらにせよ、盗人なんて助ける義理も何もない。
逆にこっちも加勢したいぐらいだ。
「ふざけんなよ!僕の魔石を盗んだことを忘れたのか!」
僕は怒りに震え、大声で怒鳴った。
「あっ…そういえば……」
彼女は思い出したのか、察したのかは知らないが僕がどのような存在かを認識したようだ。
「んだよ…オメーもやられてんのか」
男は呆れたように言った。
「ええ…さあ、こんなやつ一緒に懲らしめましょう!」
僕は協調性を出して言った。
「まあ…いいぜ。オメーもそういう理由ならいいだろう」
「さっさとそいつから僕達のものを取りましょう!」
「あ?取るだけじゃダメだろ」
「え…?」
男はニヤつく。
「そうだなぁ…コイツなかなかいい顔立ちをしている…もう盗みなんてできないように調教でもしてやろうか…」
男はよだれを垂らすごとく言った。
「キモ!クソが!近づくな!」
「抵抗するな!」
男は彼女の手を掴み壁に押し付けた。
彼女は必死に抵抗するが、力では敵わない。
「体は貧相だが、まあ楽しみ方は沢山あるからなぁ…」
男は彼女の体をそっと撫でる。
あっ…これは…。
「やめろ」
僕は男に言った。
「そんなキモいことはやめるんだ」
「あぁ!ウルセェ!んなこと言うならテメーを潰すぞコラァ!」
男は彼女を他の男に拘束させた。
「テメーから潰してやるよ」
男は僕に近づいて来た。
そして見え見えの拳を僕に振るう。
僕はそれを軽く右サイドにかわし、膝蹴りを男のみぞおちにお見舞いした。
男は一撃で悶絶し、気絶した。
「え…親分…嘘だろ!」
他の男が慌てて言う。
「クソが!」
他の男が僕に突っ込んで来たが、一撃で終わらせた。
もう1人の男は尻尾を巻いて逃げて行った。
「………アンタ…ただモンじゃないね…」
彼女は驚いたように言う。
「……僕の魔石を返せ……」
僕は彼女に手を出して言った。
「悪いが…それは嫌だ…」
は?コイツは何を言っているだ?
「は?返せよ!」
「待て!返すは返す!」
ん…返す?返してくれんのか?
「魔石は返してやるが、1つ条件がある…」
彼女は唐突に条件を出してきた。
「なんで、お前が条件を出してんだよ!ふざけんな!さっさと返せ!」
「待て、ウチはアンタの魔石を盗んだことを反省しているのさ…だからタダでは返したくない…」
コイツは何を言っているだ?理解ができないぞ。
「アンタ…お金に困ってんだろ?」
唐突な僕の現状をついた言葉に固まる。
「だったらなんだよ…」
「だったらいい条件のクエストがあるんだ…」
「だから?」
「そのクエストに協力してくれよ」
「……嫌だよ!反省してるならさっさと返せ!」
「おい…少し落ち着けよ…そのクエストをクリアできれば、こんな魔石で得る金より何十倍の金が報酬として貰えるぞ?」
……なんだって…何十倍のお金?いや…待て落ち着け僕。コイツの嘘かもしれない…が…
「嘘…だろ…どうせ!」
「……あぁ、そう言うならもういいぜ。この大した金にもならない魔石で十分なんだろ?ほら、どうぞ」
彼女は僕の魔石を渡そうしてきた。
「…わかった…しょうがない…協力してやる」
僕は釣られてしまった。
「ハハ!そうこなくちゃな!」
彼女はガッツポーズをして言った。
「その代わり嘘だったら承知しないぞ…」
「嘘じゃねーよ。ウチの名前はシーフつんだ!よろしくな!」
彼女は手を出してきた。
「……僕は…」
おっと、ここで、デーモンとか、ナイト・メアとか言わない方がいいだろう。
じゃあ、単純に僕の名前。
「ユウエイだ」
「ユウエイか、よろしく頼むぜ」
僕はシーフと握手した。
大丈夫だろうか、コイツを信用して…。
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