第49話 盗人
よし。なんとかラノール王国に不法入国できた。
壁は中々の高さだったので登るのは少し苦労した。僕が高所恐怖症だったら終わっていた。
だが、高い所はやっぱり怖い。下を見たら足がすくんでしまうので絶対に下を見ないように心がけた。
街並みは外国みたいな感じだ。
日本とは異なることはわかる。
魔人の国と差ほど変わりはない。平和にただただ暮らしているだけだ。人間も、魔人もそこに関しては変わらなかった。
とりあえず僕は、国を回ることにした。
せっかく人間の国に来たのだから、一通り見てまわりたい。
市場らしきところに来た。大変賑わっている。市場のおっちゃんが「安いよ〜買った買った」と、声かける。
なんだか、懐かしいな…。僕はこういう光景を一度たりとも見たことないが、なぜか懐かしい気持ちになる。
そして、なぜだか安心する。魔人のエリアにずっといたからかもしれない。僕は元々は人間だ。魔人も、人間とほぼ変わらないが魔人は魔人なのだ。久々に僕と同じ人間の姿を見れて心が緩んだのかもしれない。
美味しそうな実がずらりと並んでいる。
フルーツらしきものだ。
よく見ると、りんごや、パイナップル、バナナなど見覚えのあるフルーツも並んでいた。
お腹が空いた。そういえば、出発してからろくに食べ物を食べていない。
森に実っている知らない実を食べる勇気はないし、キノコにしてもなんだか危なそうな色をしている。
万が一食べて食中毒でも起こしたらたまったものではない。
最悪の場合死ぬ可能性もあるし。そんなんで死ぬのは情け無い。
「ぐぅ〜」
僕の胃袋が鳴いている。
「何か食わせろ」と。
しかし、僕は重大なことに気づいてしまった。
そう。お金がない。
僕は絶望した。
僕に人間のお金なんて持っているわけがなかった。
魔人が使っているお金ならあるが、こちらで使えるはずもない。
てか僕は無一文でよく来たな。今更になって気づく。
例えると無一文で田舎民が都会に上京するようなものじゃないか!
無謀なことをしてしまったものだ。
馬鹿だ。大馬鹿だ。
どうする?
こんなことならソルメイスからお助け代として金を巻き上げれば良かったか?
いや、落ち着け……僕はそんなヤンキーのカツアゲみたいなことはしない。
あくまで僕は心優しき正義の味方、ナイト・メアだ。
ん?待てよ……。
そういば……。
僕は自分のポケットに手を突っ込む。
あっ!これは…
僕は魔石と呼ばれるものをポケットから取り出した。
翡翠の洞窟でソルメイスにとった方がいいと言われてとったんだった。
「魔石は魔道具などを作るときに使います。このような洞窟に取れるものは結構貴重なんですよ」
「ワンチャン売れば結構高かったりするのか?」
「まあ、物によりますが大体は高額で取引されますね」
「マジか…なら、一個だけ持っておこう」
「一個だけでいいのですか?」
「だって、たくさん持ったら重いじゃないか」
っていう過去の回想を思い出した。
ソルメイス…ナイス!
僕は心の中でそっと呟いた。
よし!早速、質屋で売ろっと!
僕はポケットに魔石を入れて質屋に向かった。
「すみません…質屋はどこですか?」
僕は通行人の人に質屋の場所を聞いた。
「質屋だったら、この先を行って左に曲がった先にあるよ」
親切に教えてくれた。
因みにあのカッコいい仮面はもうとってある。今の僕は顔出しだ。
案外近くて良かった。
「おっと……」
「わっ!」
歩いている最中に人とぶつかってしまった。
いや、ぶつかられたように感じたが…ふらついたか、躓いたか。
「す、すみません…」
「いえいえ」
その人はフードを被っていて顔は少しか見えなかった。
多分みた感じ少女ぽかった。絶対とは言えないが。
その時は何も気にはしなかった。
僕はそのまま質屋に到着した。
「なんだい、ボーイ君は一体何を持ってきてくれたんだい?」
オネエ気味の店員が僕に聞いてきた。
「ちょっと待って下さいね…実は魔石を……」
僕はポケットに手を突っ込む。
が…ない。
僕のポケットには何もなかった。
「はー?」
「どうしたんだい?ボーイ?」
「ちょ…ちょっと待って下さいね!」
僕はもう一度ポケットの隅々まで手を突っ込み探る。
だが、ポケットに入っていた魔石の感触は得られなかった。
僕は魔石が無くなった事実を思い知った。
「んー?魔石を持って来てくれたんじゃなーいの?」
「……無くなりました…」
僕は泣きそうになった。
頼みの綱だった魔石を無くしてしまったのだ。
「魔石を…無くしてしまいました…」
僕はか細い声で言った。
「あらら、落としたの?ボーイ?うっかりさんね」
「いや…落としたとは思いませんが…」
落としたなら、落としたときの音で気づくと思うのだが…
ていうかまず走ったりしていない。
「んーそうねぇ〜もしかして、あなたここに来る前までに人と、ぶつからなかった?」
僕はその言葉聞いて全てを理解した。
あのぶつかってきた野郎がいたことに。
あのときに盗まれたのだ。あの一瞬で僕の懐のポケットの魔石を盗んだというのだ。
「……ぶつかりました…」
「やっぱりね〜最近そういう盗人がいるときいていたのよ〜あなたもその盗人にヤ・ラ・レ・タ♡、ってわけね」
僕は怒りに満ち溢れた。
絶対、許さない。
「しかし、盗人もなかなかの腕前よね〜ぶつかったときにあなたのポケットから盗むなんてね〜まさに神業ね」
店員さんは感心していた。
たしかに、僕は全く気付かなかった。
盗まれたことも悔しいが、盗まれたことに気づかなかった自分に腹が立つ。
さて、もう僕にお金を得る手段が無くなってしまった。
終わりだ…もう帰ろうかな…。
「あなた、お金に困っているの?」
「あっ…はい…お金が無くて…」
「だったら、ギルドクエストの魔物討伐でもして、お金を稼げば?あなた、その剣を装備しているってことは、少しは戦えるでしょ?」
「えっ?」
「あら、あなた知らなかったの?」
そんな簡単にお金が稼げるのか。
なら始めからそうすれば良かった。
「ありがとうございます…店員さん!」
「別にいいってことよ♡」
僕は店員に言われた通り、魔物討伐の仕事を受けるため、ギルドクエストの窓口の場所に向かうのだった。
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