第46話 花言葉

 「これから僕はラノール王国に戻りますけど、師匠はどうするのですか?」


 翡翠の花を摘み終わって洞窟の出口へ向かっているときにソルメイスは聞いてきた。


 「そうだな……私は一旦アジトにでも戻るとするか」


 まあ、嘘だけどね。アジトなんてあるわけがない。


 漆黒のエンジェルは架空の組織だから。


 元々の僕の目的は人間の国を少し覗くことだ。


 まだその目的を達成できていない。


 「良かったら、ラノール王国に来ませんか?」

 「ラノール王国に?」

 「はい!この翡翠の花を摘めたのも、僕が今無事なのも師匠のおかげなので、僕としても、師匠に、恩を返したいと思いまして!」

 「その気持ちは嬉しいが、残念だが、私には私のやるべき事が沢山あるのでな、お断りさせてもらう」

 「そ…そうですか……残念です…」

 「恩は気持ちとして受け取っておこう」

 「いや…いずれ形として返しますよ必ず…」

 「期待はしてやろう…」


 本当はラノール王国にソルメイスと一緒に行っていろいろ接待してもらいたいけど、ナイト・メアと調子こいて言ってしまったからな…怪しい組織と思われて面倒ごとになっても嫌だし。


 「そういえば、知ってますか師匠?」


 ソルメイスは唐突に話題を変えた。


 「何をだ?」


 「翡翠の花の花言葉を…」

 「花言葉?」


 そういや花には花言葉とういうものが存在するのだったな…。


 バラは本数によって異なるが大半は愛情に関するもの、紫陽花は浮気や,無常…そのくらいしかわからないな。

 

 そもそも僕の世界に翡翠の花なんてあるのか?


 「希望……か?」

 「違います」


 キッパリと言われてしまった。


 「翡翠の花の花言葉は繁栄・長寿・幸福・安定の意味があります」

 「それは知らなかった…」


 わかるかよ!知るはずがないだろ!


 「翡翠の花の花言葉のようにラノール王国もいい国になればいいな、なんて思いました」

 「ソルメイスにとってラノール王国は母国なのか?」

 「はい…僕が生まれ育った国です」

 「母国か……」


 懐かしいな……。


 うん…日本が恋しい…。


 もう僕の良き故郷の日本には戻れないのだ。だって、死んじゃったから。


 「師匠の母国はどこなんですか?」


 ソルメイスは聞いてきた。


 日本、from JAPAN!とも言えない…


 「……私の個人情報は言えないのだが、特別にヒントをやろう」

 「本当ですか!」

 「私の母国は遠いとこにある…そして何よりアニメ、ゲーム文化が素晴らしいのだ」

 「あにめ?げーむ?えっと…すみません…存じ上げないのですが…教えて頂けませんか?」

 「……いずれ知ることがあるだろう」


 絶対無いと思うけどね。


 ああ…僕はなんであの漫画の最終話を見る前に死んでしまったのだろう。


 あのゲームの続編もやりたかったな…。


 クソ!いずれ日本に戻りたい……無理だな…


 そして翡翠の洞窟を抜け、僕とソルメイスは無事に外へ出ることができた。


 「翡翠の洞窟…達成ということですね!」

 「フ…他愛もなかったな…」


 僕はまたカッコつけて言う。


 「師匠なら大迷宮とか大神殿とかも余裕そうですね!」

 「なに!そんな所があるのか?」

 「はい…翡翠の洞窟のような洞窟や大迷宮や大神殿と呼ばれる場所がこの世にはまだまだあります」

 

 マジか…めっちゃ面白そう。暇つぶしや、僕の腕を試すのには丁度いい。


 「各々の場所には翡翠の花のような珍しい物や植物があると言われています。中にはお宝など伝説の武器なんかもあると噂されています」

 「お宝……」


 お宝だって?よし、ある程度暇になったら今度絶対行こう。


 次はネイン達を、連れてってもいいかもな。別に僕が1人で行ってもいいけど、雑魚処理とかはめんどくさいからやってもらいたいな。


 「まあ、お宝なんて師匠には興味なんですよね〜」

 「当たり前だ…私が求めているのは命の駆け引き…スリルだけだ」

 「流石です師匠!」

 

 ソルメイスは尊敬の眼差しで僕を見る。


 そんな目で見られると嘘をついている罪悪感が込み上げてくる。


 お宝…是非とも欲しい!

 それを売って、億万長者になれば…いや、いかん…お金に溺れるのはよくない。


 


 「ソルメイス…ここでお別れだ」

 「えっ…」

 

 ソルメイスは驚きの表情をしていた。


 「ここでですか…」

 「そうだ…」


 ソルメイスは悲しみを浮かべていた。


 「ソルメイス…」

 「は…はい!」

 「お前はまだ弱い…が母国を守りたいという気持ちは誰よりも強い。やがてそれを守りたいという気持ちがお前の力になる。だからその時は己を信じて戦え」

 「は…はい!わかりました!」


 僕はソルメイスに背を向ける。


 「では達者でな」

 「師匠……」


 ソルメイスは頭を90度下げる。


 「ありがとうございました!」


 別れも真面目だな。


 そう思いながら僕は森の中へと姿を消したのだった。




 



 


 この時は思いもしませんでしたよ。


 あなたを殺すことになるなんて。


 「残念ですよ…師匠」


 



 


 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る