第32話 身勝手な心情

 一定の間合いによりセイバーとヤマトは刀を構える。


 「貴様、名はなんという…」

 

 セイバーはヤマトに問いただした。


 「魔王デーモン様の下部、No.012ヤマトと申す」


 「そうか…ゾルデニック幹部セイバーだ」


 「いざ尋常に勝負!」


 セイバーの掛け声とともに斬り合いは幕を開けた。


 セイバー、ヤマトの刀が、ぶつかり合う。


 どちらも互角だ。


 「剣術円周散歩乱間えんしゅうさんぽらんかん


 セイバーは周囲を円周にそって斬る剣術を放った。


 ヤマトはそれを飛んでかわす。


 「剣術下方進撃」


 ヤマトは飛んだ勢いを利用して下へ強い斬撃をセイバーへと刻む。


 セイバーはそれを受け止める。


 両者は一旦離れる。


 また一定の間合いが生まれる。


 「な…なぜそれほどの剣技術がありなが、盗賊なんだ?」


 ヤマトはセイバーに問いただした。


 「知りたいか?」


 「理由は単純だ…俺は人斬りが好きなんだ」


 「人斬りが…好きだと?」


 「そう…」


 セイバーは自信の刀を眺めながら語る。


 「あの感触、あの感覚、あの音、あの動作、あの匂い、あの快楽、あの優越感、あの命の尊さ…」


 「斬ったときの感覚、音、返り血、絶望の表情、苦痛の叫び…」


 「とっても、快感だよな…」


 セイバーは僅かに刀についたヤマトの血を舐めて言った。


 ヤマトはその男から、感じるのは狂気。


 身の毛のよだつような感覚がヤマトを襲う。


 「この…狂人め…」


 ヤマトは少し震えながら言った。


 「貴様もわかるだろう?あの斬ったときの快感…」

 「わからないな!人を斬ることはその、命を奪うということだ!命を奪ってしまうのに、快感、快楽もあるはずないだろう!」


 「本当にそうか?貴様は敵を斬り殺したときに、少しでも嬉しいとか、達成感とかを感じてないと言うのか?」


 「…………」


 「俺は快感を得るために戦い、斬る。じゃあお前は何のために戦ってる?」


 「私は………」


 「認めちまえよ」


 「私は生きるために戦っている」


 ヤマトは真っ直ぐな眼差しで答えた。


 「綺麗事を……」


 「綺麗事でも何でも構わない。だが私は死なないために戦うのだ。生きるために戦うのだ。決して誰かを、守るとか平和を作るとかそんな偉大なものじゃない。私は私情で人を斬る。身勝手な武士だ……」


 「その答え、嫌いじゃねーが…ボチボチ貴様の感覚も味わいたいな!」


 セイバーはヤマトに走り迫る。


 「剣術………」


 ヤマトは刀を鞘に納める。


 「菊一文字…」


 高速の居合い斬りだった。


 セイバーはスピードについていけず斬られ血が溢れ出した。


 「……やるじゃねーか…」

 「斬り捨て御免」


 「見事よ、身勝手な…ぶ…」


 セイバーは倒れながらそう言った。


 セイバー対ヤマトはヤマトの勝利。



 



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る