第20話 後悔その一

 「い…痛いよ!やめてよ!」

 「ウルセェ!生意気なんだよお前は!」

 「そうだそうだ!」

 「そうでやんすよ!」


 校舎裏で僕のクラスメイトの子が同じく僕のクラスメイトの子3人に暴力を振るわれていた。


 いわゆるいじめだ。


 いじめはいつの時代も無くならない問題だ。


 僕は偶然それを見てしまった。


 僕は壁の角に隠れて様子を伺っていた。


 助けるか?


 いや、相手は3人もいる無理だ。


 そもそも仲良く無い。ただのクラスメイトだ。数回、言葉を交えたかも怪しい存在だ。


 見なかったことにするか?


 いや、見て見ぬふりをするか?傍観者になるのか?


 助けたら次は僕がいじめられるんじゃないか?


 今彼が受けているいじめを今度は僕が受けるかもしれない。


 それは絶対嫌だ。いじめられたくない。平和に生きたい。


 無理だ。


 無駄だ。


 無茶だ。


 そんな言葉達が僕の脳内を埋め尽くす。


 やっぱり助けるなんて無理だ、ごめん。


 僕は見て見ぬふりをして、逃げようとした。


 「誰か助けて!」


 僕の耳にそれが聞こえた。


 必死の訴え。苦しみの言霊。救済へと願い。


 僕は立ち止まる。


 が…やっぱり身体が動かない。


 立ち止まっただけだった。


 怖い。


 怖い。


 怖い。


 「誰か助けて!」


 また聞こえる。聞こえてしまった。


 やめてくれ。


 僕は君を助けられない。


 僕は君を助けたくても助け出す勇気が無い。


 だからもう僕を迷いさせないでくれ…。


 ごめん。


 ごめんなさい。


 本当にごめんなさい。


 僕はこんな意味もない謝罪を頭の中でひたすら吠えていた。


 彼は僕のそんな意味のない言葉など聞きたく無いだろう。ただ助けて欲しい、それだけだ。


 でも、やっぱりできない。


 僕は意を決して走ろうした。


 その場から逃げたかった。もう一回でもその助けを求める言葉を聞きたくなかった。


 その時だった。


 「やめなさいよ!あんた達」


 そう言ったのは同じクラスメイトの女子だった。

 

 震える僕を通り越して迷わずいじめている3人に言ったのだ。


 「ウルセェなぁ?お前もいじめるぞ?」

 「そうだそうだ!」

 「やっちまうでやんすよ!」


 3人が彼女に責めるように言う。


 「先生来てちょうだい!」


 彼女は後ろに向かって叫ぶ。


 「ゲッ!先生…?」


 3人が怯む。


 その隙に彼女はいじめられている子の手を掴み逃げた。


 「あっ!コラ待て!」


 3人が彼女を追う。


 僕はそれを影から見ていた。


 僕は彼女に憧れた。


 すごいなって思った。


 カッコいいなって思った。


 僕も彼女みたいになりたいって思った。


 僕も彼女ような勇気があれば……


 僕は自分を変えようと思った。


 が……その後は悲惨だった。


 彼女がいじめられている子を救ったことがキッカケでいじめの標的が彼女に移ってしまったのだ。


 それからは彼女がいじめを受けていた。


 校舎裏でいじめられているのを何度も見かけた。


 が…僕はまた何もできない。


 僕はただ見ていることしかできない。


 見て見ぬふりをした。


 僕は何も変わらないかった。


 僕は何も変えれなかった。

 

 僕は臆病だ。


 僕は弱虫だ。


 ごめんごめんごめんごめん。


 ごめなさい、ごめなさい、ごめなさい。


 そう思いながらただいじめを見ていた。


 そして、ある日のことだった。


 僕は決心した。


 このままじゃだめだ。


 助けたい、そう思うなら助けないとだめだ。


 僕は今度こそ彼女を救ってみせる。


 そう心に誓った。


 そして、放課後校舎裏に待機した。


 いつもいじめている3人はここに彼女を呼ぶ。


 だから僕は彼女が来たら助けようと思った。


 が…彼女は現れなかった。


 僕に僅かに嫌な予感が脳裏に浮かぶ。


 「まさかな…」


 僕は学校の屋上に向かった。


 彼女はいた。


 屋上の端で立っていた。


 腰ぐらいしかない柵の向こう側で。


 僕の最悪な予感は的中した。


 「待って!早まらないで!」


 僕は叫ぶ。


 彼女の後ろ姿しか見えない。


 「なんで………」


 彼女が振り返った。


 「なんで…助けてくれなかったの?」


 彼女は泣いていた。


 そして僕に問いただした。


 「いつも、私がいじめられてるのをなんで黙って見ていたの!助けてくれなかったの!ねえ!なんで!なんで!なんでなの!!!」


 彼女は叫ぶ。


 僕はその言葉に心突かれた。


 「ごめん…ごめんなさい…」


 僕には謝ることしかできなかった。


 「もういいよ」


 彼女は前を向く。


 僕は彼女に向かって走った。


 彼女は飛び降りた。


 僕は手を伸ばした。


 が……………


 手は届かななかった。


 僕はその場にうずくまった。


 僕は彼女を…助けることができなかった。


 僕が彼女を殺したも当然だ。


 僕は叫んだ。




 僕は目覚めた。


 「またこの夢か…」


 僕は最悪な夢を見ていた。


 僕の過去。


 時々あの夢を見る。


 この夢を見るたび僕は罪悪感に押しつぶされそうになる。


 僕はもう逃げない。


 絶対に見て見ぬ振りはしない。


 人を助けられる人間になりなりたい。


 そう心に誓った出来事だった。


 「ムニャ、ムニャ」


 ん?掛け布団の中から寝息が聞こえる。


 掛け布団をそっとめくった。


 寝息の正体はレーンだった。




 20話まで読んでくださってありがとうございます。

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キャラクター紹介

流星の勇者リュミア(今後登場予定)

7人の勇者の中の1人。彗星のような動き、スピードを兼ね備える。星系の魔法を使用可能。

 

 


 


 


 


 

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