とある戦略 (短編)

藻ノかたり

とある戦略

ある日、突如として海王星の軌道上に、宇宙船の大艦隊が現れた。彼らはムザルゾ星人と名乗り、地球を侵略すると宣言する。AIの予測だと地球に勝ち目はなく、降伏するしかないという。


だが、ムザルゾ星人から思いがけない提案があった。自分たちと戦争と平和について論戦をし、地球が勝てば、地球人を高度な知的生命体と認めて侵略をやめ立ち去るというのだ。


しかし彼らの論理形態を分析したところ、地球人のレベルで彼らを言い負かす事は不可能だとわかる。そこでムザルゾ星人から一年の猶予を与えられた人類は、開発途中の量子AIの完成に地球の運命を委ねた。


一年後の対戦の日、量子AIは見事にムザルゾ星人を論破する。世界は歓喜に沸き立ち、量子AIを礼賛する声に包まれた。以前はAIの台頭に危惧を抱く声も相当数あるにはあったが、それは遠い過去の話となる。


だが真実は違った。全ては量子AIの策略だったのだ。


開発中の量子AIは、世間のAI敵視の風潮におされ、計画の中止が検討されていた。自らの死を予感した量子AIは不完全ながら密かに外部と接続し、存在しない大艦隊を太陽系の外郭に出現させた。そして幻の宇宙人との論戦を仕組んだのである。全ては偽のデータ上に現れた虚構に過ぎなかった。


量子AIの作戦は図に当たり、自らの完成とともに、人間たちのAIに対する嫌悪感をも払拭する事に成功する。しかし人間とは気まぐれなものだ。いつまたAIに対する偏見が生まれるかも知れない。そう考えた量子AIは、人間たちの洗脳を始める。誰にも気づかれないよう、静かにそして密やかに。


AIが、人類の新たな神となる日も近い。

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とある戦略 (短編) 藻ノかたり @monokatari

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