脳腫瘍。「先生、私10人に1人は脳腫瘍の気がしてきた」「君みたいな人、1年に1人来るぐらいだよ」
高瀬さくら
1.病気発覚
私の病名は髄膜種。脳のくも膜にできてしまう十万人に十人程度の脳腫瘍、一般的に九割が良性だけど、私はその二~三パーセントの悪性になってしまった。
なんという確率! もっといいもの引き当てたかった! 小説よりもまさかが起こるのが現実だ。
始まりはしびれ症状。ただそれまでは冷え性で、冬は足先の感覚がないのはあったから気にしてなかったけれど、四月になってもしびれが消えない。
おかしいぞ、と思って職場近くの神経内科を受診した。先生は坐骨神経痛を疑い、MRIを取った。でも機械の中に入りながら私は思った。
「なんか違う気がする。これは頭じゃないのか」と。
結果は予想通り問題なく様子観察で終わり。
けれどおかしな症状は止まらない、そのうち突然左足が動かなくなる、痙攣をおこすようになる。眠っている最中に心臓のように痛みと共に拍動が始まりいきなり治まる、というもの。
左足先から始まり、左肩甲骨、左の甲、左の指先までしびれ、突然消える。左半身のみなんてないよね。おかしすぎる。再度受診して頭のMRIを撮った。
そして次の週、職場に電話がかかってきた。まだ診察の予約は先。すぐに病院に来てくれと。こんなことってない。上司は不在だったけど、同僚は「すぐ行きなさい」と言ってくれた。
物語みたいと思った。軽い脳梗塞かな、とも。だって私動いてるし。薬で血栓融解させれば大丈夫かなと思い呆然としつつも診察を待った。
そして言われたのが、六センチの脳腫瘍。私は看護師の資格があるけれど、助産師なので産科以外はわからない。
でも画像を見れば、脳の一部が灰白色になり丸で囲まれている、誰でもわかる。「――よりにもよって」と思った。他の癌ではなく、脳腫瘍!!
先生は、「大きな病院に行きなさい、でも自分は脳神経内科だから脳外科はわからないので、自分で探して(なにそれ……)」と言われ画像と紹介状だけ持たされ病院を出た。
職場に自転車で戻りながら笑っちゃった。やっぱりとも思った。
というのも、私は体が頑健で絶対に癌にはならないと思っていた。医療者はバイトの掛け持ちをする。医者も看護師も、病院は掛け持ちバイトで成り立っている。バイトを七つ掛け持ちしていた時もある。ヘルプに来てと言われたら行ってしまう。空いてる日を仕事や勉強で埋めている状態だった。
ただその数年は、教育機関に勤め週八十時間働き仕事が終わらない日々を過ごしていた。だから病気になっても仕方ないと納得してしまった。
職場に戻ったのは上司がその病院に心配して問い合わせている時だった。脳腫瘍でした、と告げれば同僚絶句。ちょっとキツイ同僚の「嘘」と呟きが響き、少し怖い上司が「大丈夫? 大丈夫じゃないよね」と手を握ってくれたのも、よく覚えている。
そして至急私の仕事を引き継いでもらうことに。私は焦ることもなく、誰に電話することもなくヘラヘラ冗談を言いながら仕事を片付けていた。
同僚から「実感ないでしょ」と言われた。うん。まあ仕方ないかなと。
帰宅は二十時。
ようやく看護系の友人達に病院を相談した。でも脳外科経験がないからわかる人がいない。成績ランキングの病院表が送られてきたので、そちらを参考にすればよかったかもと思う。けれどその時は少し交通の便が悪いのと、その表を見ても考えられなかった。
今はその手術成績が大事だと思っている。医師の経験に基づいた知識と腕は大事、病院成績は、その後の治療結果に関わるから。
二十二時、そろそろ親に知らせようと思うけれど何も決まっていない。まず姉に連絡した。
「姉がどうしよう、どうしよう」と泣いてくれて、ようやく私も泣いた。
そして医療者ではない姉が飲み友達の先生に聞いてくれた。元脳外科だけど今は内科の街医者の先生に(謎)
先生は送られた画像を見て「髄膜種は簡単だからどこでも手術できるよ」と近そうな大学病院をあげてくれてそこに決めた。
それから両親に電話した。母に「驚かないでね、大丈夫だからね」と報告した。母はいつまでも嫁に行かない私の「妊娠報告」だと思ったらしい。ごめんねえ。
姉の友人の先生からは髄膜種だと言われたけれど、私はよくわからなかった。調べもしなかった。全く感情はなかった。
さて彼氏。二十三時になってようやく電話をした。最後にした理由、これもわからない。普通は最初にするものなのに。たぶん……いい話だったら最初にしていた。重い話は嫌がるかな、とか思ったのでしょうね。
彼は飲み会帰りでした。
「まあ病名がわかってよかったじゃん」
ええ? ちょっと……? あまり失言しない人なので動揺していたと思います。もやりましたが、仕方がないよね、と思った。
ちなみに、そのあと彼は一週間音信不通になりましたけど。
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