第850話

 このまま時間をかければ、このアンデットを潰すことができる。そう誰もが頭の中に浮かんでいただろう。だが、ここで最悪の連絡がやってくる。


「N放置で非検体Sが接近中、繰り返す、N放置で非検体Sが接近中」


 ネクロマンサーのところにいたキメラアンデットが勇者の方に近寄ってきたのだった。まだ決着がついていないが、どうやら魔力を使いすぎたようだ。ネクロマンサーも一応、魔法職の1つだ。しっかりと強化をしていれば、魔力探知のスキルは確実に生えているだろう。


 それが作用し、仲間のアンデットが死んだことよりも魔力が多く使われていることに気がついた。そのため、アンデットキメラが派遣された。


「このまま、1人でいるNを処分していいか?」との質問に対し、


「任せる」そうリーダーは返答する。


 その回答を聞き、Nがもう1人の死体をキメラにする前に殺すため動き出した。


 4本腕のキメラサイドでは、勇者のキメラと合流される前にその戦闘スピードが上がっている。勇者のジョブレベルを上げた時に手に入る「制限解除(リミットオフ)」を発動し、ステータスを伸ばして戦っている。もしこれで死ななければ負けは確定となってしまった。


 ステータスが上がったことにより、キメラを押し始める。そして2本目の剣を破壊した。そのまま、合流されることなく4本腕のキメラを殺し切った。


 そして切れ始めたスタミナの中、あの勇者の死体との対面だ。


「さっさとNを殺せ」


 と連絡を入れている。どうやら勝てるかどうかが怪しくなったのだろう。だが、返事はまだ来ない。なぜならもう終わっているからだ。この連絡が入る直前に、Nが死体をキメラに変えるために何が都合がいいかを考えていた。


 キメラにするにしても、相性が悪い死体が多いことが原因だ。取り柄は素早さと隠密性だ。それに合う死体が思いつかず、深く考え首を傾げている。その大きい隙が出ている背中に短剣が突き刺され、貫かれた。


 体に即効性の毒が注入された。体の表面や中身は魔法職特化なため、弱い。そのまま息だえてしまった。だが、倒れても少しの間は息があったようだ。


「憑依」


 と掠れた声でそう呟きスキルを発動する。その行き先はあの2つ目の死体だ。そこに憑依をした。だが、あの殺した勇者はそれに気がついていない。そのまま、持っていたマッチでNの死体を焼き始める。


「こっちは殺した。そっちは?」


「ああ、おかげで動きが止まった。」


 どうやら、ネクロマンサーが肉体が死んだことにより、その機能も停止したようだ。そこに何人かの仲間がやってき、本当に死んだのかや、仲間の死体の回収が始まった。本来であれば、荷物持ちの勇者の異空間に片づけることでさっさと撤収することができたがそうもいかないようだ。


 重要ではない死体を1箇所に集め、火の勇者が跡形も残らないように燃やし尽くした。ネクロマンサーの軍政は死んでしまった。勇者は自国に帰り、その勝利を掲げる。Nの死体は首だけを切り落とし、掲げられる。その体は燃やし尽くしていたところだ。


 この事件で、勇者に勝つことができるジョブがいくつかあるのだろうと考えられることになった。もちろん、それはネクロマンサーを持っていた人も同じだ。勇者に勝つことができる可能性を秘めているのだから、これを使えば強いだろうと考えるだろう。だが、勇者の国ではネクロマンサーは禁忌とされてしまった。その風潮が世界中に敷かれてしまうのも時間の問題だろう。


 その次の日、戦って死んだ勇者の2人を供養し、火葬してから棺桶に入れた。その夜のことだ。棺桶からその死体がなくなっている。周りは勝利を記念し宴会状態だ。そのため、誰も気がつくことはなかった。その何もない瞳でその街を見下ろし、あのネクロマンサーは復讐を誓うことになった。

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