012



そこは知っている街に似ていた。

自身が住んでいる街を忘れるはずがない。

そう、住んでいる街に似ている。

違いがあるとするなら崩壊していると言う事。

しかし、少年はその場所をよく知っていた。

何度も訪れたことがある場所。


「__ここ、〈リインカーネイション〉だよな ?」


サアキスは呟くと、右手のあたたかさを感じ視線を落とす。

そこにはサアキスの右手をしっかり握りしめた幼女が眠っていた。


「……彼女は?」


サアキスは現状が把握出来ずに混乱。

ここが本当にサアキスの知る場所なのか。

それともただ似ているだけなのか。

情報を得るために幼女を起こすことにした。

彼女を起こすが「むにゃ〜…まだ眠い〜」と、いった状況。

仕方なく彼女を背負い周囲を歩き情報収集を開始した。


____


出来る限りの情報を集めるとサアキスは背負っていた幼女に膝枕をする形で河川敷に座った。


「取り合えず今はこんなところか」


サアキスは左手を突き出し左から右にはらうと〈メニューウインドウ〉が開いた。


「アイテムや装備はそのままか、パラメータも異常なし」


サアキスは操作して行く。

そして、サアキスの手がピタリと止まった。


「情報通りここだけ、ないのかっ」


以前には存在した〈オプション〉画面の一番下 〈ログアウト〉の項目が消えていた。


「〈ハカタの街〉と外を繋ぐ東西南北の橋の四本は健在。という事は外には出られるという事だな」


「ふにゅ〜」


幼女は目をこすりながら起き上がると伸びをした。

そして、周りを見渡す。

彼女には見慣れないであろう景色。


「こ、こ、は?」


「おはよう。よく眠ってたな」


「おは、よう?」


彼女は現状が解っていないらしい。


「えっと、ここは__」


彼女はサアキスの服を引っ張る。


「〈ハカタの街〉?」


「えっと、君は?どちら様?」


「わたしはミューレ」


「オレはサアキス、どうして、君はオレと一緒に?」


「解りません、気付いたらここにいたもので」


「さいですか、はぁ、情報不足だな」


「えっと、サアキスさんは」


「サアキスで構わない」


「では、サアキスはどうしてここに?」


「普通にログインしたはずなんだけど、ここにいた」


「それ、わたしも一緒です。ログインしたら、ここにいました」


サアキスとミューレはお互いに情報を交換しあった。


「現状が解らない以上は下手に街を出ない方が賢明、ということですね?」


「いつもと違う、バグの可能性もある」


「確かに、下手すると、致命傷を負いかねませんね」


「それでだミューレ、その格好どうにかならないか目のやり場に困る」


と、サアキスは明後日の方を向く。

大きめの黒いワンピースの両肩の紐がはだけまだ膨らみを知らない両胸が見えそうで見えないきわどい姿。


「えっちぃ、それともちっさい方が好きですか?触ってみます?幼児体型ですけど〈リアル〉では成人してるので犯罪にはなりませんよ?」


ミューレは冗談半分で胸を出そうとする。


「どうでもいいからその格好どうにかしてくれ!」


「えっちぃ」


「失敬な、見たくて見たわけではない」


「もしかして、幼児体型がお好みですか?」


「って違〜う」


ミューレはサアキスを誘惑するように胸を強調するポーズをとった。


「どちらにしても君は本体じゃないんだからそんな事しても意味ないだろ?」


サアキスは言い終えた時、自分がとんでもない事を言ったことに気が付き軽蔑されるか?殴られるか?どちらにせよ覚悟した。

しかし、意外な言葉が帰ってきた。


「それって〈リアル〉でも会ってくれるってことですか?」


「あ…いやっ」


「そして、わたしの身体にあんなことやこんなことをして、『お前はオレのモノだっ』て言う証を刻みつけたいってことですね」


ミューレは一人で想像し盛り上がり暴走。


「話が飛躍しすぎだっ!」


殴る。

引っ叩く。

は、さすがに気が引けたのでサアキスは軽くチョップすることで暴走を止めた。


「あぅ〜サアちゃんにいじめられた〜」


ミューレは頭をさすり捨てられた仔犬のような眼でサアキスを見上げてくる。


「だぁぁああ〜俺が悪かった。謝るからその呼び方ほ辞めてくれっ」


「いえぃ」と、いうようにミューレはVサインを突き出す。


「やっと追い付きましたよサアキス!」


ハアハアと、息を切らせながら大きな胸の少女が河川敷を駆け降りてくる。

その度に効果音を付けるならプルンプルンだろう。胸を揺らしながら降りてきた。


「ハァハァ、この、短時間で、移動しすぎです」


少女はサアキスの前まで来ると肩で息をし呼吸を整える。

しかし少年的には目のやり場に困る状況だった。

少女の膨よかな胸の谷間があるからである。

右側にいるミューレは少女の大きな胸になのか、少女が現れたことになのか、ムッとしていた。

それをよそにサアキスは平常心で……


「天音、君もいたのか!」


「ええ!〈フレンドリスト〉で確認してないんですか?」


「ああ!色々と簡単にしかまだ確認してない」


天音はサアキスの右側に居るミューレに視線を落す。


「サアキス、その子は?」


天音の問いにミューレは意外な言葉を口にした。


「サアキス、あの無駄に大きいデカ乳は?」


瞬間__周辺が凍り付く音がサアキスには訊こえたきがした。


「挑戦的ですね。ちょっと言い換えようかしら」


天音は怒りを抑えながらフルフルと震え、あまりにも怖い笑顔を作り__


「サアキス、そのナ、イ、チ、チは誰かしら?」


バチッバチッと一瞬、二人の間に火花が見えるようだった。

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