cadenza -カデンツァ-
@aonotodai
prologue
年明けを前日に街は煌びやかに装飾されていた。
街中、至る場所で恋人を待つ人や子連れの家族が食事といった雰囲気で行き交う人々はどこが浮き足立っていた。
真昼の空からは年終わりを祝福するかのように白い粉雪が街を彩る。
しかし、飾られた街にそぐわない異物が目立つ、武装した自衛隊が至る所に配置。
戦車が道路を走る異様な光景だった。
前触れもなく突然、街の大型ビジョンに速報のニュースが流れた。
『速報をお伝えします。首相官邸と国会議事堂が武装した異能者集団によって占拠されました』
報道と共に街中で爆発。
駅のホームで電車が脱線。
高層ビルの倒壊と立て続けに起き始める。
そして、ノイズを打ち大型モニターが切り替わった。
そこには顔の上半分を覆うような仮面を着けたスーツ姿の男=
『少し早いがあけましておめでとう、旧人類の諸君。これよりこの国は我々 〈
†
襲撃を受けた街の空に報道局のヘリコプターが飛んでいた。女性リポーターはカメラマンと共に上空から街の様子を報道する。
「ご覧くださいこれが現在の街並みです。各所で〈
報道中、次々と建物の爆発が起こる。
「また爆発です。もはや私達に対抗できる力はないのでしょうか?私達の味方になってくれる異能者はもう現れないのでしょうか?」
女性リポーターは報道を終え可視モードでメニューを開き、フォトホルダーに入っていた写真を見る。
写真の被写体は黒いコートを羽織り両手には剣を武装した人物の後ろ姿だった。
†
電柱はなぎ倒され、車は横転、車がビルに突き刺さっているものまである。
映画に出てきそうな破壊された街そのものだった。
とあるビルのエントランスに老若男女 数人が避難していた。
「くそ!異能者共が!」
スーツ姿の男が苛立ち壁を叩くくと、奥にいた小学生位の女の子びくりと驚き母親に縋るように訊ねる。
「ねぇ、黒いお兄ちゃんたちいつ来るの?」
「黒いお兄ちゃん、たち?」
「うん」と元気よく女の子は頷く。
女の子は可視モードでフォトを開き母親に画像を見せる。
「こんな時はこのお兄ちゃんとお姉ちゃんが前みたいに助けてくれるんでしょう」
女の子につられるように女子高生の一人が話題に出すと隣の少年が応える。
「確かそれって黒衣の剣士と戦姫だよね」
「ああ、なんか異能の力を使って人助けしてた奴らだろう」
女子大生の一人が振り返る。
「わたしの両親も助けてもらったことあるわっ」
しかし、スーツの男が吠える。
「助けになんか来るか!ヤツだって同じ異能者!騒ぎの
スーツの男の言葉に顔を歪ませ沈み込む女の子。
「異能者、〈
フードを深く被ったコートの人物が立ち上がる。声からして少女だ。
「あの人たちならどんなに打ちのめされても皆さんを助けたはずですよ」
「お姉ちゃんはお兄ちゃんたちのこと知ってるの?」
少女はフードの奥から女の子に笑いかけるだけで去って行く。
「ガキが解ったように!どうしようがガキ一人で何が変えられるってんだ!」
男の言葉を背にして少女は建物を出る。と、黒いマントにフード被った青年が大破した車や建物を物色している。
少女は風貌からして知ってる人であると確信を持って声を掛けた。
「ヨシツネ!」
マントの青年は声に反応し周囲を見渡し視界の中に少女を見つけた。
「おお、
「ヨシツネもこんなところにいちゃ危ないよ!」
フードで顔が見えないがお互いに誰であるか解ったように会話をする。
「使える物ないかと思ってな」
「泥棒さんだよそれ〜」
「こんな状況で泥棒はないだろう」
「そうなんだけどね。なんかヨシツネと会ったからかな。ホッとしてる自分がいるんだっ」
「そんな恥ずかしいセリフよく言えるよ、なっ」
青年はあまりの気恥ずかしさに少女の額にデコピンした。
「はわ、ヨシツネいじめっこ〜」
少女は額を両手でさする。
「ま、オレもお前も考えてる事は一緒なんだろうけどなっ」
突然、青年は少女と戯れていたおちゃらけた雰囲気から一変、真剣なトーンで言葉を放つ。
「ええ、そうですね。あの人たちはもう居ないのですから」
「オレたちは奴らじゃない。出来る事は限られている」
「見誤っちゃいけない、でしょ?」
そして、少女は改めて周りの惨状を見渡す。
「あの人たちならこうなる前に止められたのでしょうか?」
「解らない。だけどこんなのは望んではなかった。それだけは解る!」
「そうですね。ヨシツネ」
まだ、至る所から爆音や機関銃の発砲音が響き渡る。
「ホント、力を振りかざして自分を誇示して何にが残るって言うんだろうな」
「ふふっ、そのセリフ昔のヨシツネに訊かせたいね」
「異能者の殆どが久喜の組織に属している。オレも二人に出逢ってなければ、アイツらの仲間になっていたのかもな」
「そうですね。私もあなたと一緒です。二人から教わりました」
二人は爆煙で灰色に染まる空を見上げた。
「どんなに力に優れていてもそれを行使すればそれはただの暴力、人にとって脅威でしかない。だからわたしは今できることをやるだけっ」
「確か、想いだけでは何も成し遂げられず、力だけならそれはただの破壊だけでしかない。貫き通す覚悟と揺るぎない信念。そして、何事にも折れない決意が必要だ。それが力を持つ者の務め。だったよなっ」
クスっと少女は笑い「あの言葉やっぱり憶えてるんですね」と青年を見上げる。
全てが一瞬。
青年と少女は異変を感じ取り建物から離れるように回避。視界に入ったのは一瞬そこには空には削ぐわない異物 戦車が落下。
瞬間ドンと言う重い音を立てビルの出入り口を塞いだ。
「間一髪です」
「てか、なんでこんなピンポイントに!」
青年と少女はビルから離れた交差点の真ん中で疑問を呟くと、カーンと金属音が響き青年と少女は音の発生源である戦車の上を見上げる。
そこには戦車を落とした張本人であろう現代にはそぐわない甲冑姿の少女が立って居た。
甲冑少女は戦車から飛び降りると戦車とビル僅かな隙間から中を確認。
エントランスにいた人たちは軽傷、重傷様々で唸りを上げていた。
「あらあら、さすが旧人類ゴキブリ並の生命力、しぶとく生きてるわね〜」
甲冑少女は右手を掲げた後、地面に添えた。その時ビルを中心に魔法陣が出現。
「今から数分後にこのビル破壊しまーす」
「あの子、
少女は甲冑少女の名前を叫んだ。
「あれ、莉乃じゃない。こんなとこで何してるの?」
「それはこっちのセリフ。こんなことしてなんになるの。みんなを解放して!」
少女は甲冑少女に向かって走り出したバンッと彼女の目の前て見えない壁に弾かれる。
「知らないの?詠唱中は結界が展開するから中には入れませーん」
バカにしたような言葉を少女に向かって吐き捨てる。
偶然通りかかった街の避難民は何事かと野次馬のように観ていた。
「なんでっ!」
少女は自分の不甲斐なさに詠唱結界を叩き座り込む。
「結局レベルの違い!あの人たちならどうしたんでしょう」
「まだだ!諦めたらそこで自分の限界を決めた事になる!!」
青年は落ちていたパイプで詠唱結界を殴るが弾かれる。しかし、諦めることなく叩き続ける。
「諦めるなんで言ってない!」
少女は立ち上がり甲冑少女を見据え説得を始めた。
「夢美ちゃんなんで犯罪者の仲間なんかになったの?」
「…これは私の人生よ!」
甲冑少女は叫ぶ。
「いい高校?いい大学?そんなの私には関係ない!行きたいならジジイ、ババア、テメーらが行けよ!」
「両親の重圧、かっ」
青年が甲冑少女の心を察する。
「この国を変えて私は自由になるのよ」
「壊して自由になって夢美!その先に何があるの!」
「私のまだ知らない新天地が待っている。だからその邪魔はさせな!」
「バカッ!」
少女は焦りと苛立ちが込み上げ結界を叩く。
「ムダよ莉乃。この詠唱結界は簡単には破れません。ましてやアンタなんかには破れやしない!」
突然、何処からともなく女の声が響く。
「でしたらそれ以上の力でアナタごと壊させて頂きます」
瞬間、青年と少女の眼の前が虹色に輝いた。と、共に結界は破壊され甲冑少女諸共戦車を吹っ飛ばした。
「えっ?なんで?」
白を基調とし赤で彩られたコートと黒く長い髪を翻し少女が現れた。
少女が絞り出すように声を出す一方で青年は言葉を失いおどろきを隠せない。
「どうして私の邪魔をするの!」
甲冑少女が拳銃を取り出し長髪の少女に向けた。
瞬間、青年が距離を詰め剣で拳銃だけを狙い破壊。詰めた距離を再び広げた。
「もう、止めといた方がいい」
「莉乃!貴様ら全員、出来損ないの異能者か!」
甲冑少女が放った異能者と言う言葉に周りが騒めく。
長髪の少女が思い出せと言うように語りだす。
「異能者も悪い人ばかりじゃないのですよ。他と何も変わらないひとりひとりの生きた人間。ただ少し力を持ってしまっただけっ」
突然、空を飛ぶ報道局のヘリコプターが撃ち落とされ青年や少女、避難民達がいる交差点に向かって落下。
逃げ惑う人々。
しかし、一人微動だにしない長髪の少女は一言 「大丈夫です」
そう告げる。
刹那___
閃光、眩く輝きヘリコプターは見る影もなく文字通り粉砕。
空から爆煙を裂き黒いコートを靡かせ少年は降りたった。
その両手にヘリコプターに乗車していた人達だろう。
彼の作り出した保護球の中に男女合わせて四人救出していた。
地に降り立つと少年は保護球を解き直ぐに指示を出す。
「早く下がって!」
彼の言葉にすぐ走り去る三人。
そして、入れ替わるように長髪の少女が黒いコートの少年に並ぶ。
「わたくしも一緒にっ」
「ああ、頼む」
離れた場所から女性リポーターが黒いコートの少年の後ろ姿に「まさか!彼等!!」と予想を口にした。
「ええ、これは夢かもしれない。希望が欲しいとその為にオレたちが作り出した幻」
そう、青年は女性リポーターに告げる。
上空から魔法弾と車や戦車、ありとあらゆる物が二人に目掛けて降り注ぐ。
黒いコートの少年と長髪の少女は、何か呪文を唱えると溢れんばかりの閃光が煌めく。
刹那___
全てが一瞬で終わった。
空から降り注いでいたあらゆる人工物は跡形もなく粉砕。
物であった残骸が燃え上がり、二人は炎の揺らめきの中で変容した姿でそれぞれ武器を手に立っていた。
青年、少女、女性リポーター、その場に居た者達は一連の光景を奇跡、想定外、立て続けに起きた出来事にただ呆然と流れる映画のように魅入っていたのだった。
___
まだ人類が何も知らなかった時。
世界がこんな事になるとは誰も予測してなかった。
しかし、世界の変化によって人々も変化しなくてはならない。
そうしなければ時代の変化に取り残され生きてはいけない。
そう常に世界は変化し続ける___
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