第6話 マツとタケ
「タケ久しぶり~ノート持ってく?」
大学で松寿が話しかけてきた。彩葉と二人で失神した日から数日経った。だいぶ体が楽になったという彩葉と大学来ていた。彩葉はトイレに行き、竹彪は教室で席を取って待っていた。
「悪ぃ、持ってく。あと、俺ら合コン行かねぇから」
「あー、それね。あとで黒木に言うけど、なしにするわ」
女の子と合コン大好きな松寿にしては珍しい。親が死んでも合コンに参加するだろう男が、一体どうしたというのか。
「なんだよ、なんかあったのか?」
「いや、さ。俺もいい加減特定の子と、ちゃんとお付き合いしたいなと思って。気になってる子がいんのよ。合コンするよりその子と仲深めたほうがいいかなって。近所の幼馴染ってやつなんだけどさ、ほんと可愛くて」
「あいつ遅ぇな。何やってんだ」
「聞いて~俺の話聞いて。黒木来る前に聞きたいんだけど、…男同士ってどんな感じ?」
松寿が声を潜めて竹彪に聞いてきた。その顔は珍しく真剣で、竹彪はやっと松寿に向き合った。
「幼馴染、男なのか」
「聞いてたんだ。そう。そんで年下。怖がらせたくないなーとか、色々考えちゃってさ」
竹彪は自分がそこそこ経験豊富だと思っていたが、松寿はそれを上回る女好きだった。大学でも松寿の元カノが何人かいて、その元カノ同士が友達だったりしている。軽薄な松寿がそこまで考えるほど、大切な幼馴染なのだろう。
「前から可愛いとは思ってたんだけど、大きくなったらもっと可愛くなってきちゃって。大切にしたいと思うと余計に強く行けなくなるし」
「あー、な。わかるわ」
「で。黒木はどうやって落としたん?」
竹彪は答えようとしたが、後ろで声が聞こえて振り返った。
「黒木、久しぶりじゃーん。風邪ー?」
「生理休暇ー」
「うっわ、最低~」
ゲラゲラと下品な笑い声が教室内に響く。何人かに囲まれた彩葉は一緒に笑っている。ノリが良いのはいいが、話してる内容がよろしくない。竹彪は舌打ちをして彩葉を呼んだ。
「おい、彩葉!」
「あーいたいた。マツもおつー。おい、タケ」
近づいてきた彩葉は竹彪の胸ぐらを掴む。
「下で呼ぶなっつったよな?黒木だ、黒木。返事は?」
「…はい」
「うぃー。体調大丈夫なん?」
彩葉が竹彪の隣に腰かける。彩葉は竹彪越しに松寿に話しかけた。
「大丈夫、大丈夫。もう、4日目だから」
「お前な、生理とかそういうことを言うな」
「あー女の子になっちゃったってやつ?まだ言ってんのかよ」
松寿は笑っている。女になったことは隠しておけといっておいたのに、松寿には言ったらしい。竹彪が睨むと彩葉は平然としていた。
「あんだよ本当のことだろ。隠してもそのうちバレるって」
「そういえば都内で急に性別が変わるってニュースやってたなぁ集団感染とかなんとか。感染して性別がかわるってどんなウイル…」
松寿が言葉を切って彩葉をまじまじと見つめた。
「なぁ。黒木、まじで女の子なんじゃね?」
「だからそうだって言ってんじゃん。それそれ、都内で流行ってるやつ」
「おい、だから」
「まじかーこんな町にいるんだなぁ。意外と身近に、もう一人くらいいるんじゃね?」
「あー、会ってみたいわ!どっちがおっぱい大きいか対決したい。そんで勝ちたい」
「何いってんだ無乳が。マツ、こいつ落とした話が参考になると思うか?」
「思わん。もういいや、聞かんとく」
教員が入ってきて授業が始まった。すでに寝そうな彩葉の肩をゆすりながら、竹彪は思った。確かに彩葉と同じような体の人間は、案外近くにいるかもしれない。
梅寿と楓編に続く
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