第3話



次の日。目覚めた彩葉は懐かしい感覚に襲われていた。

(これってもしかして…)

朝起ちだった。息子が帰ってきた。

「起きろタケ!見て、帰ってきたよ俺の息子が!おかえりぃ~」

「はぇ…え?息子さんがなんて?」

「今までどこ行ってたんだよこのバカ息子!良かった、戻ったぁ!」

彩葉はまだ寝ぼけている竹彪に抱きついた。竹彪の腹に息子が当たる。その感触で竹彪も気づいたようだ。

「なんで、突然…」

「わからん!でも良かった、まじで。あー、怖かったぁ」

彩葉は竹彪に抱きついたまま、胸をなでおろした。もしも女の子のまま戻らなければ、一生を童貞で終えるところだった。そんなのは怖すぎる。

彩葉はどうしても女の子とあんなことやこんなことをしたかった。これなら合コンに行ってお持ち帰りしても問題ない。今まで持ち帰れたことはないが、次はうまくいく気がする。

「…怖かったのか」

「あ、今日病院行っとかないとまずいか。あとマツに合コンの日程決めてもらって…タケ、聞いてる?」

「は?…あぁ、病院な。そうだな…」

竹彪はぼんやりしながら返事を返してきた。竹彪は何か考えこんでいる。彩葉が男に戻ってガッカリしているのだろうか。

元々竹彪も恋愛対象は女性だ。今までに何人かと付き合って何人かと体の関係を持ったらしい。経験豊富で女の子との行為も慣れている。というより女の子とするのが竹彪にとって本来自然なのだろう。女の子になった彩葉との行為もスマートでスムーズだった。何度も行為に及んだことを思い出して彩葉は腹がたった。

(可愛い女の子(俺)とパコパコやりまくって、ズルくね!?俺は童貞なのに!!)

自分から誘ったことは棚に上げて、彩葉は竹彪への怒りを募らせる。とりあえず抜くものを抜いてから病院へ行こうと考えていると、竹彪の手が彩葉の下半身に伸びてきた。

「なんだよ。おい、触んな」

「抜いてやろうかと」

「いい、いい。自分でやる。お前にやらせたら終わんねぇだろ。病院行くっつってんじゃん。おら、手をひっこめろ!」

彩葉はスマホでエロ動画を検索しながら竹彪の手をはたき落とす。再生すると、お気に入りの女優が甲高い嬌声を上げていた。

「よし、これに決めた!お前はどっか行ってろ」

「おま、ここ俺んち……わかったよ」

竹彪にしては物分り良く、あっさり部屋を去っていった。隣のリビングに行ったようだ。女優の声を聞きながら、彩葉は息子に手を掛ける。久しぶりの感覚に、普段以上に敏感になっている気がする。

(やっぱタケにしてもらえば良かったかも…上手いんだよなー、あいつ)

「ふ、ぅ…んっ、」

竹彪の大きな手と女優の嬌声が彩葉の頭の中で混じり合っていく。彩葉は脳が痺れて、思考が真っ白になった。





「本当に男じゃないっすか!」

病院にやってきた彩葉は診察を受けていた。諸々検査をしてから診察室に来たが、医者がとてもびっくりしている。

「だから本当っすよ」

「…双子の姉妹がいたりとか…」

「ないです。つーか、信じてなかったんかい」

医者はまじまじと彩葉を見た。

「都内で何人かいるんです。突然性転換した方が。まさかこんな辺鄙な町で出会うなんて」

「は?なにそれ、他にもいんの?俺みたいな人」

「女性から男性になった方もいます。ただ、すぐに元の性別に戻る方がほとんどらしいです。症例が少ないのでなんとも言えませんが…万が一また女性化したら、こちらに来て下さい」

彩葉は竹彪と共に診察室を出た。

「もう来ねぇっつーの。なぁ?」

さっきの医師の話だと、他にも同じような人間がいてすぐに元の性別に戻ったらしい。彩葉も元の性別に戻ったわけで、女の子に戻ることはないだろう。診察室で終始無言だった竹彪に声をかける。

「そうだな。男に戻って、良かった」

棒読みに聞こえる。やはり、彩葉が男に戻ってガッカリしているようだ。あんな美少女(俺)に、そうそう出会えるものでもない。残念に思っても仕方ない。

(でもごめん。俺は自分の童貞卒業のほうが大事なんだ)

彩葉は竹彪の頭を撫でる。

「そんな落ち込むなって。きっといいことあるよ。な?」

「え?あぁ、うん…あの、」

「つーかさぁ、さっき診察室にいた看護師さん見た?ナース服っていいよな~エロぉ」

体のラインに沿った白いナース服はぴっちりしていてエロく見える。久しぶりの男の体のせいか、むらむらしてしょうがない。

「あ、女の子の時に女装しとけば良かった!ナース服とか絶対似合うよな、俺。ワンピース着たかったぁ~」

そう思い始めると止まらない。可愛い女の子の洋服を着ておけばよかった。フワフワのスカートや体にピッタリ沿った服、いっそ水着…惜しいことをしたと後悔が彩葉の脳内を占領する。

「もっかい女の子になんねーかなぁ…なんつって」

彩葉はてへっと笑って舌を出した。





翌朝。

「おいおいおいおい…」

目が覚めて、ない気がして触ってみると、またしても彩葉の息子はいなくなってしまっていた。気まぐれが過ぎる。

「なんなんだよ息子よぉ…なんか腹痛ぇし」

彩葉は痛む下腹部をさすりながら、寝ている竹彪を踏みつけてトイレに向かう。下着を下ろして腰かけてから気づいた。下着に血がついている。どこか怪我でもしただろうか。彩葉は股の隙間から見える便器の中を見て悲鳴を上げた。

「たっタケ!はよ来て、早くぅう!!」

「なっ、なんっ、どうした?!どこにいんだよ!」

「ここ、トイレっ…」

彩葉は立ち上がって鍵を開ける。立ち上がった拍子にポタポタと何かが垂れる。振り返った便器の中も床も下着も赤く染まっていた。

「なんだよ、何がっ………」

やってきた竹彪は膝から崩れ落ちた。

「待って待って、失神しないで一人にしないで!」

「だっておま…事件現場…」

彩葉は意識を失いつつある竹彪を激しく揺さぶった。できるものならこっちが失神したいくらいだった。

「俺、どうしよ、なんか病気じゃ…」

「救急車…救急車呼ぶ…」

なんとか意識を取り戻した竹彪はスマホを取りに寝室へ戻っていった。彩葉はやってきた救急車で病院へと運ばれていった。


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